Act.29:妖精世界に行くために


 ――妖精世界『フェリーク』

 かつて、魔法文明が築かれていた妖精と呼ばれる存在が暮らしていた世界。しかし、世界を複製する魔法の発動に失敗し、崩壊。世界にあった魔力は、一気に外へ流出してしまい、最終的には草木も生えない世界になった。


 その魔法発動の失敗が原因かは、実の所詳しくは分かってないが、とある二つの異世界を呼び出してしまった。一つは魔物のと呼ばれる未知の生命体の暮らす世界。

 もう一つは人間と呼ばれる存在が文明を築いている地球という世界。草木も生えない世界となったものの、世界自体が消滅している訳ではないため、まだ妖精世界は残っている。


「だから実の所、滅んだ原因が複製の魔法の発動が失敗したからなのかは、分かってない。もしかしたら世界を複製ではなく、呼び出す魔法を誰かが使ったという可能性も否定できないんだ」


 そう語るのは、ラビと同じく妖精世界に暮らしていた妖精のララ。

 妖精世界は、世界を複製する魔法を発動させて、それに失敗して滅んだ。そういう事にしてあるそうだが、実際はそれが原因なのかははっきりしていない。


 複製する魔法が失敗して、どうして別の世界が呼び出せるのか?

 誰かが、あの場に居た誰かが複製ではなく、呼び出す魔法もしくはそれに似た何かの魔法を、わざと発動させたという可能性も否定できないそうだ。


「結局の所、本当の原因は分からないままだね」

「そうなんだ……」

「本当に失敗して、呼び出した可能性もやっぱ否定できないしね」


 わたしからすると、非常にスケールが大きくて何とも言えない状態である。

 妖精世界、魔物の世界、地球……そんな三つの世界が隣り合わせでくっついていると言われても、いまいちピンと来ないしね。この地球という世界しかわたしたちは知らないのだから。


 あーでも、地球って世界なのかな? 世界っていう言葉は曖昧だ。

 別の世界から見たら、こちらの世界というのは本当に地球だけだろうか? 地球というのは太陽系に属する一つの惑星なのだし、更に言えば、太陽系だって天の川銀河に属する星系である。それら全てを含めて宇宙なのだ。


 別世界というのはどういう存在なのか?

 並行世界を例に挙げてみるが、同じような世界が幾つかあり、それぞれの選択によって結果が分岐すると同時に世界も分かれる。互いの世界は交わる事なく、ずっと平行線上に続いていく。そんな感じだったよな。


 範囲を大きくすれば、宇宙で起きた事によっても、分岐すると考えられる。そうなると、世界というのは地球だけではなく他の惑星や星系、銀河全てを含めてこそ世界という感じになるのではないか。


 うーん。何か変なこと考えちゃったな。


「長い間、地球に居たから妖精世界が今どうなっているかは分からない。もしかしたら、自然再生しているかもしれない」

「あーそうだよね。時間の流れとかも、違う可能性もあるもんね」

「ああ。だから……どうなっているか確認できるこの時が来て、良かったと思ってる。リュネール・エトワール……いや、司にラビリア様。協力してくれて心から感謝しているよ」


 そう言って、頭を下げるララ。

 いやいや、まだ終わってないさ。協力というのは再生するという事に協力しているのだから、世界が繫がったからと言って、協力関係が終わる訳ではない。


「司に協力してもらいたかったのは、魔力についてだ。今、君の魔力のお陰でゲートを無事発動できた。だから、これ以上先については、好きにして良い。無理に先の長いこの目的にまで協力する必要はないよ」

「そうだね。これより先は私たちの目的だから。司さんには、魔力についての協力しかお願いしてないからね。と言ってもここにゲートを設置したからちょくちょく来るのは許してね」


 そんな事を言う二人。

 確かに……二人はわたしに対しては、魔力についてしか言ってなかった気がする。目的は話してくれたけど、その目的に加わってほしいとは言ってないね。


 でも。


「ん。最後まで付き合うよ」

「え? でも……」

「わたしにもラビが居るし、戻してあげたいという気持ちには同感」


 そんな中途半端で放り出したりするつもりはない。

 妖精世界で何が起きるか分からない。そんな所にいくらララが居るとは言え、ブラックリリー一人だけに向かわせるのはね……ただでさえ、身体が弱いのだし。


「それに。魔力だって、わたしが居ないと集まらないよね」

「……それはそうだね。集める事自体は出来るけど、時間がかかるだろうね」

「つまり、魔力についての協力でもまだ終わってないという事。期限だって決めてないよ?」

「それはそうだけど……でも良いの?」

「ん」

「……ありがとう」

「気にしないで」


 と言っても、わたしも今はないと思うが、忙しい時とかがあったら無理な日とかはあるかもしれないが……基本的には、家に居いるし暇である。

 今の暮らしで良いのかっていう疑問は残るけど、今考えてもね。ただ……宝くじのお金とか、両親の遺産とかがあるとは言え無限ではない。わたしも、何か働く事とかを考える必要もあるかもしれないなぁ。


 でも、中卒だからどうだろう。アルバイトくらいなら出来るか? ……いや、今考えるのはやめておこう。


「それじゃあ、早速ボクは行く準備をしようか」

「もう大丈夫なの?」

「結構魔力を持っていかれたが、何とか復活というか最低限は動けるくらいにはなったよ」

「最低限じゃ、ちょっと危険じゃない?」

 

 香菜の言ってる事はご尤もだと思う。

 いくら、妖精が大丈夫だろうとは言え、向かう先は何があるか分からない妖精世界だ。万全な状態で行くのが望ましい。この場合なら、ララの魔力が完全に回復してからの方が良いと思う。


「ん。完全回復してからの方が良いと思う、わたしは」

「司さんもそう思いますか? いくらララでも、最低限回復したからって行くのは危険すぎるよ。向こうは何があるか分からないんでしょ?」

「それはそうだが……」

「それに急いでないでしょ」

「ん。無理しない方が良い」

「そうですね。今はどうなっているか分からない妖精世界ですし、万全を期した方が良いと私も思いますよ」

「ラビリア様まで……」


 危険がないと、はっきり分かっているなら良いがそれが分かってない。

 滅んだという事しか分からないし、世界は残っているものの今どうなっているかはラビやララでも分からない。そんな未知な場所に、不完全な状態で行くのは命の危険にもなる。


 今どのようにになってしまっているか、気になるのは分かるけども。


「分かった。……今日はやめておくよ。明日になれば完全に回復するだろうし」

「それが良いよ、ララ」

「どうしても気になると言うなら、私が見てきましょうか?」

「え……ラビリア様に危険な仕事を任せる訳には……」

「ほら、ララも危険だと分かってるのでしょう? やっぱり、準備を整えてからの方が良いと思いますよ。確かに今妖精世界はどうなっているのか気になるのは私もですが」

「うっ……。はあ……確かに妖精世界に行くのは危険だろうね。何があるか分からない。地球と同じように、魔物が出現している可能性もある。幸い、地球は文明を築いている人間という存在が居て、魔法少女が誕生したから魔物が出てきても、対応できている。初めて出現した時だって、こう言っては悪いかもしれないが、一つの国が半壊しただけで収まった」


 ララの言っているのは確かにそうなんだよね。

 未知の生命体である魔物……しかも、今の脅威度で言うならSSの魔物が出現したのに半壊で済んだのだ。まあ、原初の魔法少女のお陰というのが大半だろうが……。


 そんな原初の魔法少女を生み出したのはラビだ。

 当時はどんな感じだったのか、検討もつかないが……SSの魔物との戦いは結構激闘と言ったものだったらしい。直接見た訳じゃないから何とも言えないけど、原初の魔法少女もそれなりに苦戦したという事だろう。


「魔物という存在が、もし妖精世界にも居たら……既に崩壊してしまった世界だし、対処できる存在は恐らく居ない。そうなると、徐々に魔物は増えていくだろう」

「妖精世界が滅んで、私たちが地球にやって来てからもう16年も経過していますしね……この地球での16年が、妖精世界ではどのくらい経過しているのか分かりませんが……」

「仮に時の流れが同じだとしても、16年間、妖精世界は誰も居ない状態で存在している……」

「そんな状態で、魔物が現れたら……」


 地球は魔法少女と人間が居るから、まだ無事だ。死傷者も少なからず出ているが、それでも世界は機能している。

 だけど、妖精世界には誰も居ない。そのような世界に魔物が現れたらどうなるか? 想像するのは容易い。対処できる存在が居ないのだから。


「最悪乗っ取られているかもしれないね」


 そのララの言葉に全員が頷く。

 想像するのは容易いからね……対処できる魔法少女や人間というものは今の妖精世界には存在しない。完全に魔物の無法地帯となっている訳だ。


 まあでも、魔物が居ない可能性も考えられるけど。


「取り敢えず、万全を期すに越したことはないですね。私もある程度は魔法が使えますし、ララ一人で行かせるのもあれなので付いていきます」

「ラビリア様……王女であって記録者スクレテールでもあるあなたが行くのは……」

「王女についてはもう、世界がありませんし古い肩書です。記録者スクレテールについてはそうですね、この出来事を見届ける役目がありますので」


 仮に妖精世界を再生させた場合、その記録をするのは確かにラビの記録者スクレテールとしての役目だろう。でも、ラビって戦えるのだろうか? いやまあ、王女だし戦いについては何か経験なさそうだし……失礼かもしれないが。


 まあ、それは良い。

 取り敢えず、今は休むのが一番だし、準備が整ってから行くのが妥当だろう。と言っても、わたしたちが最初は行けないのだが……もし、わたしたちが行ければ魔物が居ても対処できるんだがな。


 妖精世界……果たして今はどうなってしまっているのだろうか。





『あとがき』

いつもお読み頂きありがとうございます!

なんか最終章は色々と混ざって退屈な話ばかり多くてすみません。


ようやく、妖精世界に行く準備が整うという、どれだけ時間かけてんだって感じですが生暖かい目で見てやってくださると幸いです。


次回より、大きく動くという事で終わりに近づいています。

最後までよろしくお願い致します。


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