Act.24:改めて考える事


「相変わらず、酷いわねえ」

「仕方ない」


 ゴジラもどきの魔物の討伐が完了し、魔石を回収しその場を去ったわたしに、そう言ってくるラビ。わたしが悪い訳じゃない……使える魔法がおかしいだけだ。

 わたしが戦闘中に、魔法少女の反応があったようだけど、しばらく様子見のように止まっていたみたい。恐らくわたしが戦っている事に気づいたのだと思う。


 わたしは横取りするつもりもないしする気もないので、先に魔法省の魔法少女が駆けつけているなら同じように様子見する。

 ずっとそうやっていたので向こうもその気がないって事は分かってるはず。それを踏まえて同じような行動をしたのかもしれない。


 うーん、もう少し待っていたら魔法少女が駆けつけていたって事でもある。ちょっと悪い事したかな? でもまあ、早い対応が一番良い。

 脅威度Aとなれば、油断出来ないしね。その上にAAとS、SSもあるけど、そっちが出るのは稀だし。大晦日に

Sの魔物が二体出たのやばかったが。


 脅威度Sであれだから、SSになったらどうなっていたのだろうか。

 考えただけでもちょっと恐ろしいが……でもSSの魔物って言ったって16年前のドラゴンくらいしかデータがないから、他に居るかは分からない。


 魔物の謎はまだ多い。


「ふう」

「お疲れ様です」

「ん。ありがとう」


 そんな訳で帰宅して一息つくと、ラビが本来の姿へ戻って労りの言葉をくれる。何気ない些細な言葉でも、やっぱり言ってくれる人が居ると嬉しいものがある。


「この地域で久し振りに脅威度Aの魔物が出ましたね」

「ん。やっぱり油断できない」


 パタリと収まったからと言って気を抜けば、こうやって突然出てきた時の対処に時間がかかってしまう。忘れていけないのが、魔物は突然出現すると言う点。

 何の前触れもなく、突然出現する。それが今までの魔物という存在だ。警報は鳴るけど、魔物の出現自体は変わってない。


 だから、本当に何時何処で魔物が出現するか分からないという事を覚えておいて欲しい。


「油断できないのは事実ですけど、司も無理だけはしないでくださいね。いくら魔力量とか魔法が強くても、今のあなたは女の子なのですから」

「……ん」


 丁度、近くにあった鏡に映りこむ自身の姿に目を向ける。

 背中の真ん中辺りまで伸びている、艶のある綺麗な銀色の髪に、全てを見透かしているかのような青い瞳。華奢な体躯に白い肌。頬の部分はほんのりと赤みを帯びている。


 うん。

 毎回思うけど、本当に前の面影すらないなこれ。そして真白に瓜二つ……こちらの方が身長が若干低いのは納得できないが……。

 低くなった身長にはもう慣れたけどね。


「魔法少女の状態なら問題ないと思いますが、生身の方は他の子と同じですからね」

「うん、それは分かってる」


 男の時ほど、力がないという事は実は少し前から既に気付いていた。まあ、当たり前なのだが……ともかく、この姿でのわたしは恐らく弱い。

 こっちの姿でそんな戦う事なんてないから分からないが……多分そう。


「護身術でも習っておいた方が良いかな」

「それはどうでしょうね。司が必要だと思うなら習った方が安全な気はしますが」


 まあ、護身術については一旦置いておこう。

 今すぐ何かがあるとは思えないし……いや、こんな事言うとフラグが立つって言われるな。護身用スタンガンくらいは持っておくべきだろうか。


「何見てるんですか? スタンガン?」


 スリープモードから立ち上がった自分のPCでスタンガンを調べていると、ラビが画面を覗き込んだ来る。そういえば、真白もスタンガン持ってたっけ? 

 いや真白が持ってるのは痴漢撃退用スプレー……催涙スプレーだっけ? もしくは両方か。


 とにかく自分の身を守れる道具はあった方が良いのは確かだと思う。


「念の為、何かあった時用に持っておくべきかなと思って」

「なるほど。それにしても、結構高いですねこれ」

「まあ、仕方ない」

「電撃を出す道具、ですか。魔法みたいですね」

「まあ、確かに。でもこれは魔法ではなく科学」

「地球の科学は凄いですね」

「わたしからしたら魔法の方が凄い」


 理論だとか化学式とかそんなの関係なく、様々な事象を起こす魔法。そっちの方がわたしとしては凄いというか現実味がないというか……。


「お互い様って所ですね、ふふ」

「だね」


 ラビとわたしは違う世界に生きている存在。

 こうやって違う世界の存在同士が、こうやって話しているのは普通に考えると凄い事なんだよね。妖精世界は滅んでしまってるけど、それでも違う世界で暮らしていた事は間違いないのだから。


 地球外生命体、宇宙人……別の世界の場合この表現が正しいかは分からないが。


 ある意味、わたしとラビの出会いは奇跡なのかもしれない。

 そしてそれはララとブラックリリーも……あっちはどういう経緯で出会ったかは分からないが、それでも別世界の存在同士が出会ったという事に間違いはない。


 わたしの場合は、いきなり「魔法少女にならない?」って言われた所から始まったが。


 わたしが魔法少女として戦う理由……前までは戦っている子たちの負担が少しでも減れば良いと思っていたけど、今じゃ変わってる。

 根本的な所は変わってないけどね。魔法少女を守る……負担を減らす。文字は違えど、守る行動をすれば負担も減るだろう。


 ……と言っても、わたしが対処できる事に限りがあるのも事実。

 全てには対応できないって事も理解してる。二か所に魔物が現れた場合、わたし一人が行けるのはどっちか片方だけ。


 わたしという存在は一人しかいない。


 同じ場所にまとまって出現するなら良いが、ランダムで突発的に出現する魔物にそんなのを期待する事は出来ない。


 考えないといけない。

 魔法少女の時も、こっちの姿の事も。


 来週はゲートの魔法の実行予定週だ。妖精世界と言う場所へと繋がるかもしれない。どういう場所か分からないからわたしたちが行くリスクは高いが。


 まあ、ララが先に行くみたいだからそれ次第にもなるな。それに、発動できないかもしれないという事も言ってたし。


 もし仮に発動できた場合……ララの言う通りなら間違いなく妖精世界と繋がるだろう。

 そしてその魔法発動の次は、その妖精世界の環境の確認。わたしたちが行っても大丈夫なのかどうか。駄目そうならララとラビに頼るしかない。


 ララは研究員として妖精世界で働いていたからか、調査したりするのが好きなようで地球についても色々と調べているみたいだ。

 そんなララがまず、繋がった場合は先に妖精世界へと入って調査してきてくれるそうだ。その結果次第でわたしたちの行動は変わるだろう。


 わたしも流石に別世界って言うのは怖いものがあるので、慎重になってしまう。


 興味はあるものの、同時に恐怖というものもある。滅んだ世界なんて、ぱっとイメージ出来ないし。イメージ出来るのはそういった荒廃した世界を舞台にしたゲームとかだろうか。


 ゾンビゲーとか。

 いや、あれにも色々とあるから何とも言えないけどね。


 まあ、ともかく、だ。

 ブラックリリーとララの目的を達成するための準備は進んでいる。中々気の長い目的だが、わたしも協力すると言った以上、出来る限りの事はしてあげたい。

 それにララだけでなく、ラビの故郷でもあるのだ。ブラックリリーの言う通り故郷が、滅んだ状態なんて確かに嫌だろうし、戻してあげたいという気持ちには同感だ。


 と言っても。


「その前に雪菜の事があるけど」


 その前に、明日の事がある。

 ホワイトリリー……雪菜から手渡された一通の手紙。ただただ明日の15時くらいに待ってるとだけ、書かれていた手紙。

 わざわざ手紙にして渡した理由は何なのか? それは雪菜にしか分からない。だけど、様子の違ったホワイトリリーは何かを決心したという何というかか……そんな感じがしていた。


「明日、会いに行けば分かる」


 何を伝えたいのか。

 わたしはそのまま天井を見るのだった、




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