Act.23:一枚の手紙


 何処か暖かい気持ちになった後、わたしたちはその後も軽く雑談とかをして時間を潰していた。しばらく続いた所で、解散という形になった。

 あの時のあの気持は何だったのか? 分からないけど嫌なものではなかった。むしろ、嬉しく感じたと言うまである。


「……」


 自分の胸に手を当てる。

 何故か、ドキドキしている……この感情は?


「ん。分からない」


 考えた所で答えが出る訳もなく……わたしは、この良く分からない感情については一旦無視する。既に魔法省の建物からはそれなりに離れた場所までわたしはやって来ている。


 そこで、あの時にホワイトリリーに渡された紙について思い出し、ステッキから取り出す。適当に人目の付かなさそうな、丁度良さそうな場所に移動し、そこで紙を見る。


「手紙?」


 あの時は良く見てなかったけど、どうやら一通の便箋のようだった。可愛らしい感じのデザインだ。


「ホワイトリリーらしい」


 まあ、女の子だもんね。

 破かないようにシール剥がしてみると、中には丁寧に折りたたまれた紙が一枚。それを取り出し、開いていく。


 ――司さんへ。

 いきなりこのような手紙を渡してすみません。

 明日の今日と同じ頃、魔法省の屋上で待ってます。

                 白百合雪菜


 開いた手紙には、綺麗な文字で書かれた文が二行程。そして名前はリアルネームの方が書かれている。


「何だろう?」


 今日と同じ頃って事は15時くらいって事かな。

 そのくらいならわざわざ手紙に書かなくても、CONNECTで送ってくれれば良いと思うけど……何か別の意図でもあるのかな? 良く分からないが……一応予定はないし、問題ない。


 やっぱり今日のホワイトリリーはいつもと違う気がする。

 何がとは具体的には言えないけど、何かを決めたと言うか吹っ切れたというか……妙に行動的になっていたし。彼女の身に何が起きたのだろうか? 見た感じでは、悪い事が起きた訳ではなさそうだからそこは安心だけど。


 冬の日は短い。

 冬至は過ぎたとは言え、既にもう暗くなってしまっている。街灯が点灯し始め、建物の電気や看板やらにも光が灯る。車のライトも光り始め、夜になったという感じがする。


「……」


 空を見上げると、星と月が見える。

 星と月……星月。それはわたしリュネール・エトワールの別名。正確には星月の魔法少女だが、この呼び方が結構されているのだ。日本人としては日本語の方が分かりやすいと言うか、言いやすいからなのかは分からないが。


 ぼうっと夜空を見ていると、冬の夜の冷たい風がわたしを吹き抜けていく。


「何黄昏れているのよ」

「ラビ」


 黄昏れていたのだろうか? まあ、何の意味もなく空を見上げているのは確かにそうか。


「それ、ホワイトリリーからの手紙よね」

「ん。CONNECTで送った方が良いんじゃないかって思ったけど」

「馬鹿ね。本当に何かを伝えたい時は手書きの方が印象強いでしょう。ラブレターみたいにね」

「そう? ラブレター、ね」


 ホワイトリリーがわたしに、直接手渡しした手紙。でも確かに、わざわざ手間をかけて書いたんだからメッセージでやり取りするよりは、特別な意味がある、そんな感じになるね。


「案外、ラブレターかもしれないわよ」

「……」


 ラブレターか……。

 もう一度手紙を見る。魔法省の屋上で待ってます……学校ではないものの、屋上というキーワードがあってラブレターとしても見れるかもしれない。


 ホワイトリリーがわたしに好意を持っているのは分かってる。だから、ラブレターを出しても別に可笑しくはないか……実際はどうなのかは分からないが、そこは明日行けば分かるだろう。


「前とは状況が変わっているわよね。答えは変わってないの?」

「それは……」


 変わらない、と言いたかったのに何故か口から溢れた言葉は曖昧なものだった。答えは決まっていたはずなのに……わたしは迷っている?


「迷っているのね」

「そう、なのかな?」

「以前ははっきり言っていたのにそんな曖昧になっているのは、そういう事だと思うわよ。まあ、私の勝手な想像というか判断だけれどね」


 そこでさっき感じていた暖かさを思い返す。

 ホワイトリリーにブルーサファイアそして、ブラックリリー……彼女たちは、敵だろうが魔法省だろうが何だろうが、魔法少女である。わたしが守るべき存在。


 勿論、他の子もそう。


「分からない」

「迷うのは悪い事ではないわ。あなたは変わった……だからこそ、迷うのは当然よ」


 迷うのは当然、か。

 わたしはあの子たちをどうしたい? 守りたい? 仲良くしたい? それとも、別れたい? ……別れたくはない。出来ればもう少し仲良くなりたい……のかも。


 でもそこに特別な感情は……特にないと思う。でも本当にそうだろうか?


「まあ、今ここで悩んでも意味ないでしょう」

「ん。そうだね……帰ろっか」

「ええ……と言いたい所だけど」

「……あー」


 帰ろうと思った矢先に鳴り響くサイレン。

 避難警報……魔物出現の際になるサイレンの一つで、例外なく魔物が出現すると鳴るものだ。サイレンと言うか警報にはこの避難警報を含め、三つのレベルに分かれている。


 一つがレベル1で避難警報。今鳴っているこの警報の事で脅威度関係なく魔物が出現したら鳴るものだ。

 二つ目がレベル2の緊急避難警報。これは脅威度Sの魔物が観測された際に鳴るもので、過去に鳴った事例はこの前の大晦日以外にこの地域ではない。安全な所に避難するようにというものだ。


 そして最後がレベル3の緊急圏外避難警報。

 これは脅威度SSの魔物が観測された際に鳴る警報だが、SSの魔物が出現したのは16年前以降はなく、鳴った事はない。名前で分かる通り、これが出たら茨城県より離れるように、と言うものだ。要するに別の県とかに避難するしかない。


「脅威度Bの魔物と、Aの魔物ね。Bの方が既に魔法少女が駆けつけてるみたい」

「Aの方は?」

「今の所はないわね。ここからすぐ近くね」


 久し振りに動く時かな?


「行ってみる」

「そういうと思ったわ。向こうよ」

「ん」


 ラビレーダーの案内に従い、脅威度Aの魔物の方へ向かう。

 もしかしたら、向かう途中で魔法省の魔法少女が来るかもしれないが、その時はその時。こっそり様子を見ておき、大丈夫そうなら引き上げるし、危なかったら援護に入るつもりだ。


 建物や道などを、駆け抜け魔物が出現している現場へと向かう。途中特にトラブルもなく、目的の場所へわたしたちは辿り着く。ただ、そこに居た魔物が……。


「あれ?」

「ええ、そうよ。あら、見た事ある面ね」

「だね」


 そう、そこには、以前見た事のある魔物……火に耐性があるであろうゴジラもどきの魔物がそこに居た。全く同じかは分からないが、同種である。


「あいつにはサンフレアキャノンが微妙なんだよね」


 前に土浦の某ショッピングモール近くに出現した脅威度Aのゴジラもどきの魔物。ブレスを使ってきたり、火に耐性があるのかサンフレアキャノンを食らっても立ち上がれていたあいつだ。


「やっぱり魔力に敏感なんだね」

「そうね」


 わたしがゴジラもどきに近づけば、まだそれなりに距離はあったはずだがこちらに気付く。魔力に反応するって事自体はもう魔物の習性というか特性なのは分かってる。


「リベンジと行こうか」

「リベンジではないわよね。再戦じゃない?」


 それもそうか。

 リベンジだと復讐って意味だもんね……つまり、負けた相手にリベンジするといった感じか。


「スターシュート!」


 まずは様子見の一撃だ。同種とはいえ、もしかしたら別の能力や特性とかを持っているかもしれないから。ステッキから放たれた星はゴジラもどきにを目掛けて飛んでいく。

 見た目通り、あの大きな体躯は鈍い。避けようとしてもこちらの星の方が向こうに到達し、爆発を起こす。おなじみの星のエフェクトが周りに散らばり、晴れるとそこにはあまりダメージを受けてなさそうなゴジラもどきが見える。


「まあ、効かないよね」


 やっぱ同種だし。

 その後も数発程度、放ってみるも特に特殊な能力はなさそう?


「よし」


 それなら、終わりにさせてもらおう。

 目を瞑り、ステッキを高く振り上げる。サンフレアキャノンを二発打てば行けると思うが、何か耐性ある魔法でやるのはあれなので、こっちを使う事にする。


「――メテオスターフォール」


 魔法のキーワードとともに目を開く。

 空から降りそそぐ隕石が、次々とゴジラもどきに襲いかかる。回避したとしても、この隕石は意思があるようで、スターシュートのように追尾するんだよね。

 まあ、今回は魔物の大きさが巨体なので避ける暇もないと思うけど。


 襲いかかる星たちにゴジラもどきは何も出来ず、爆発の中に飲み込まれていくのだった。






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