Act.25:白百合の●○
「あ、来てくれたんですね、嬉しいです」
わたしの姿を確認するや否や、そう言ってにこっと笑顔を見せるホワイトリリー。不覚にもドキッとしてしまった。
「ん」
「まずはすみません。手紙なんかで呼び出してしまって」
「問題ない」
何故手紙にしたのかは分からない。
でも、手書きという手間をかけてるからこそ、それには特別な意味がある……まあ、ラビが言っていた事だけどね。
「少し出ませんか」
ホワイトリリーは屋上から、遠くの空を見ながらわたしにそんな事を言ってくる。それに対し、わたしは静かに頷くと、彼女は魔法省の屋上から別の建物へと飛び移る。わたしもそれについていくように飛び移る。
何回か飛び移ったりして、移動した所でホワイトリリーは移動を止める。
「ここなら大丈夫でしょう。……
「え?」
周りに誰も居ない事を確認したホワイトリリーは、
「リュネール・エトワール……いえ、司さんに伝えたい事があります。差し支えなければ司さんも変身解除してくれませんか」
真っすぐと、そして静かにわたしを見つめるホワイトリリー。
「ん。……
ふざけている雰囲気もなく、真面目な話だっていうのがひしひしと伝わってくる。まあ、ホワイトリリー……いや雪菜がふざけた事はわたしの記憶では一つもないけどね。
わたしも、周りを確認して誰も見ていない事を確認してから変身を解除する。ただそこで一つ、忘れていた事がある。
「あれ? ……司さん、ですよね?」
「ん。見ての通り」
そう、雪菜と会った時は黒髪黒目のハーフモードだ。今回ハーフモードではなく、変身を解除したので当然、銀髪碧眼になっている方の姿になる訳だ。
「でも、以前会った時は、黒髪黒目だった気がします。でも、リュネール・エトワールですし……えっと、あれ?」
おっと、ちょっと雪菜が混乱してしまったようだ。
「落ち着いて。わたしはわたし。司……如月司。以前、雪菜に会った時はこの目立つ髪を隠す為に、髪は黒く染めていた」
まあ、嘘である。
ハーフモードになっても良いが、あれだと変身状態なので解除という魔法のキーワードを言う必要がない。そしてキーワードを言ってしまうと魔法が発動してしまう。
目の前に雪菜が居る状態でハーフモードで居たら変に思われるだろう。だって、変身解除のキーワードを言わないのだから。それに、こっちの姿の方を認識してほしいなって思ってるし。
「そうなんですか?」
「ん。疑うならあの時の事を一つ。白い兎のぬいぐるみ、白を選んだ理由は白百合、ホワイトリリー……雪菜の、色」
「よ、良く覚えてますね……は、恥ずかしいですよ」
「信じた?」
「いえ、最初から疑っていなかったです。目の前で変身解除してますしね……ですが、以前の時と容姿がかなり違っていたので……」
「ん、ごめん」
「謝らないでください。でも、目立ちたくないから髪の毛を染めていたんですよね? 私に曝け出して良かったのですか?」
「ん。雪菜には本来の姿を見せたいと思って。それに友達だし」
嘘で申し訳ないが、これが一番ありがちな理由なのでホワイトリリーに騙されてもらおう。
というか、そもそも元男で、今はこうなりましたなんて言った所で信じられないだろうし、本当の事を知るのはわたしとラビ、真白だけで良い。
ただ、ちょっと、友達という言葉を使うのは卑怯なかもしれないけど……ごめんよ。
「友達……そ、そうですよね。私たちは友達……」
何か凄い申し訳ないと思う。でも……偽りの姿ではなく今の本来の姿を見せたいというのは本当だ。
「ん」
「それはそうとして、司さんの苗字は如月なんですね」
「うん」
「名前にも月が入ってるって凄いですね」
「そう?」
まあ確かに。
全てに通して月という名前が入ってる。リュネール・エトワールって言うのは自分でつけた名前ではあるけど……でも使える魔法は星と月に関係するもの。ここにも共通点がある。
星は本名の方にはないけどね。
「それで、司さん」
「ん」
改めて雪菜はわたしの事を見る。
「すーーはーー」
自身の胸に手を当て、大きく深呼吸をする雪菜。
「司さん。私はあなたの事が前から好きです」
「!!」
「友達としての好きとかではなく、恋愛的に私は司さんが好きです」
雪菜の告白。
わたしは良く分からない、衝撃のようなものを感じた。面と向かっての好きという言葉……いざ、告白されるとこんな感じなのか。
「同性なのに、可笑しいですよね。でも、私は司さんが好きです!!」
顔を赤くして、瞳をうるうるさせながらわたしの方を上目遣いの形で見てくる雪菜。その様子はとても可愛らしく、好きな人は好きな表情かもしれない。
いや、そんな現実逃避な事を考えるのよそう。
「好きなんです……以前、助けてもらった時からずっと」
「雪菜……」
ああ、それは知っている。
正確にはわたし自身は最初は気付いてなかったけど、ラビが教えてくれた事によって知ったと言うべきか。
「好きです。私と、付き合ってくれませんか、司さん」
さっきと変わらない表情で見てくるけど、それが決して嘘偽りではない雪菜の本当の、心からの告白であるのはわたしでも分かる。
「それとも、やっぱり同性は可笑しいでしょうか?」
「……そんな事はない」
わたしは別に同性愛について否定するつもりもないし、する気もない。愛というのは人それぞれなのだ。例え好きになった相手が同性だからと言って軽蔑する事もない。
「本当、ですか?」
「ん。少なくともわたしは可笑しいとは思ってない」
「司さん……」
「だから、軽蔑なんてしない。安心して」
「はい」
わたしがそう言うと、笑顔になる雪菜。
良かった。でも、まだ終わりではない。告白されたらきちんと返さないといけない……それは分かっている。だけど、どうしてもはっきりと言えないのだ。決めていたはずなのに……。
「えっと、わたしは……」
何か返さないといけないと思い、口を開くが言葉が出てこない。
「お返事は今じゃなくて大丈夫です。でも、私は司さんの事、恋愛的な意味で好きです。これだけは本当の気持ちです」
「雪菜……」
「この気持ちはきっと変わらないです。それだけ司さんの事が好きですから。だからブラックリリーやブルーサファイアたちと一緒に居るのと見ると嫉妬してしまいます。私って嫌な女でしょうか」
「そんな事はない……」
「ふふっ。やっぱり司さんは優しいです。その優しい所も好きですよ」
……。
雪菜の本当の気持ち。
好きであるという事は知っていた。だから告白もされるかもしれないとも思っていたけど、それに対する答えは予め決めていたはず。
なのに、今のわたしはどうだろうか?
迷っている。言葉を出せずにいる……何故なのか分からない。分からない……。
「お返事については少し期待していますね、ふふ」
「ん……」
今すぐはどうしてか、返事が出せない。
雪菜がそんな事言うものだから、更に意識してしまう……これは慎重に返事をしなくてはいけない。まだ分からないけど、今は言葉が出せないでいるから。
自分は、わたしは……どうしたいのか?
司として、雪菜の事をどう思っているのか? 嫌い……ではないのは確かだ。それなら好きなのか? 好きかもしれないけど、その好きはどういう好きなのか。
友達として好きなのか、雪菜のように恋愛的に好きなのか……そこはやっぱりまだ分からない。
だけど、少なくともわたしは雪菜の事を嫌いとは思ってない。
「一緒に、駅まで歩きませんか」
この話題は一旦終わりと言わんばかりに、雪菜はそう言って手を差し出す。暗に手を繋がないかって言ってるのだろうか?
ここから駅まではそこまで遠くはないから、駅まで歩く事自体には問題ないけど……。
「分かった」
断る事もないだろうし、わたしはそれだけ言って彼女の手を掴むのだった。
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