Act.12:異常事態②
「アリス、現在の対応状況は?」
「はい。えっとですね……まず、県南地域、県西地域、鹿行地域では落ち着いている感じです。新たな反応は今の所なしです」
「リュネール・エトワールと黒い魔法少女のお陰ね……」
はあ、とため息を一つつく。
「茜さん、ため息すると幸せが逃げますよ」
「とっくに幸せな日々は終わってるわ……学生時代に戻りたい」
「嫌な予感の正体はこれだったんですかね?」
「違う……気がするわ。もっとこう、何かやばいことが起きそうな感じがしているのよね」
ただの予感でしか無いけど、実際今の状況は異常よ。
こんな魔物が一気に出現する例なんて、過去になかったわ。特にこの茨城地域ではね。
「県南と県西にも魔法少女を派遣したいんだけど……」
「こっちの対応で手一杯ですね……特にAクラスの魔法少女は」
「そうね。Sクラス魔法少女のホワイトリリーは、あのクラゲの魔物の監視を頼んでるし」
鹿行地域も、今居る子はBクラスの子が二人だけ。B以下の魔物には対応できると思うけど、Aとかが出た場合はどうなるかわからない。
かと言って、別の魔法少女を向かわせるのも今の状況ではきつい。何故なら県央と県北はAの魔物が大量に出現している。それの対応に追われているのだ。
県南にもAの魔物を感知したけど、時差もあって向かわせられる魔法少女が居なかった。これは本当にまずい状況と思ったけど、偶然なのかわからないけどリュネール・エトワールが県南に居たお陰で被害はほぼなし。
でもこの状況は駄目ね。野良の魔法少女を頼ってしまってる。聞けば、県西地域の魔物も彼女たちが対処したと言うじゃない。
でも、そんな早く移動できるものなのかしら。
あーでも、リュネール・エトワールなら何か色々と持っていそうよね……彼女がそういう力を持っているって可能性もあるし、今更かしら。
分からないわね。
そして……そんなリュネール・エトワールと一緒に居た黒い魔法少女。この子についても謎が多いわ。魔物を一緒に倒しているし、イマイチ分からないわよね。
それにリュネール・エトワールと行動している……リュネール・エトワールが敵に付いたとも考えにくいし……となると襲撃事件の時の魔法少女とは別なのかしら。
いえ、今はそんな事ではなく、魔物の大量出現の方が重要よ。リュネール・エトワールと黒い魔法少女については、今の所は魔物倒しをしてくれているから、そのままにしておきましょ。野良に頼るしか無いなんて、魔法省としてはあれだけど、人手不足なのはどうしようもないわよねえ。
「試作型の魔導砲……試せてないのよね」
流石にこんな異常事態に試作型魔導砲を使う訳にも行かず……というより、後ちょっとで準備が整う所だったのにこの有り様よ。
「仕方がありませんよ。突然の異常事態ですから」
「そうだけどねえ……」
私たちには現状何も出来ないのがもどかしいわ。
「今はただこうして見守るしか無いです」
そんな事話していると、通信が来ている事を知らせるアラームが鳴る。その回線に繋ぐと、画面に現れたのはブルーサファイアだった。
「ブルーサファイア、どうかしたの?」
『はい。実は県北地域の魔物の数が減少傾向です。結構余裕が出てる子たちが増えています』
「そう……良かったわ。残党数はどのくらいかしら?」
『そうですね、これからまた出現する可能性もありますが、今のところでは残り20といったところです』
「結構減ったわね」
県北地域には現在、12人の魔法少女が派遣されていて、県央は15人。残り3人のうち、一人はホワイトリリーだけれど、彼女にはさっきも言ったと思うけど推定Sの魔物の監視をしてもらっている為、対応が出来ない。
そして残り二人が鹿行地域に待機している状態ね。ただ、県央と県北の魔物の出現数が異常だったから県南と県西まで手が回らなかった。そこは反省しているわ。
「本当に人手不足ね……くう」
「今回は本当にリュネール・エトワールのお陰ですね……」
「本当にね。彼女にはもう感謝しきれないわ……最も、彼女にはその気はないけれど」
「そう言えば、茜さんは彼女と会ったんでしたっけ?」
「ええ。表情が少ない子だったけど、話した感じでは普通ね。まあ、ホワイトリリー以上に大人っぽかったけどね」
後、言葉数も少なかったわね。見た目的にはホワイトリリーとかブルーサファイアに近いけれど……。まあそれで、その時やっとお礼が言えたところよ。
向こうは助けているつもりはないみたいだけど……後、魔法省の事を別に嫌ってないとも言ってた。それが本当かは分からないけど、少なくともあの時見た感じでは本当そうだったわ。
……ま、今は置いておきましょ。考えても謎だらけなんだし、無駄よね。
私は再びモニターの方を見るのだった。
□□□□□□□□□□
「うーん……」
私は空中で何もせずに浮いている魔物を見て唸ります。
一体何が目的なのでしょうか? 何ていうか、魔物は良く分かりません。それは前々より思っていることですけどね……そもそも、魔物自体、魔法少女と同じで謎が多い生命体です。
人が多い所を好み、出現するとその人が多い所に向かって大半の魔物が侵攻してくるのですよね。そういう習性があるという事だけははっきりしています。
ただ、今県央上空を陣取っているクラゲの魔物は更に謎です。人がいっぱいいる所に向かう事もなければ、その場で暴れる事もなく、静かに浮いています。
最新の情報ですが、どうやら県北地域の魔物がようやく減少傾向になったみたいです。頻度も徐々に収まりつつあるようで、魔法少女にも余裕ができた子が何人か。
もうしばらくは様子見のため、待機してるみたいですが問題なければ県北地域の魔法少女たちを各地域に分散できるそうです。と言っても、県南と県西、鹿行地域は現状魔物の出現は止まってるそうですが。
「ホワイトリリー、大丈夫?」
「え? あ、ホワイトパール……こっちに来てたんですね」
「はい。一応、県央地域も魔物が落ち着いてきてるので余裕ができてます。と言っても、まだ油断できない状況ですけどね」
そんな事を考えていると、見知った魔法少女のホワイトパールが直ぐ側に居ました。彼女は数少ない茨城地域のAクラス魔法少女で、県央地域の対応を行っていました。
どうやら県央も最初よりはマシな状態になっているそうで、ちょっと安心しました。まだ完全に安心という訳にも行きませんけどね。あの魔物とかもありますし。
「ホワイトリリーの方は今どんな感じかな?」
「特に変わりないですね……あの魔物が全然動きませんし」
「あー……」
空に浮かんでいる魔物を見ながらそう言うと、ホワイトパールもその魔物を見る。
「この辺には魔物が出ないんですよね。……多分、あのクラゲの魔物が居るからだと思いますが」
こうやって監視をし続けていますが、この辺には魔物が全く出現しません。いえ、出現しない方が都合が良いので、そこは良いのですが。
仮に魔物が出現して戦ったら、あのクラゲの魔物も動き出すかもしれませんしね。
「なるほど。……あれ何なんだろうね」
「うーん。クラゲとしか言えませんね」
……仕方ないじゃないですか。クラゲとしか言えませんし……触手の数は無駄に多いですけどね。そしてくねくねさせています。
「ホワイトパールはこれから何処か行くんです?」
「一応、県西地域と県南地域に向う予定かな。現状なら数人くらい抜けても大丈夫っていう感じで、茜さんから」
「なるほど。あれ、数人って言うことは他にも?」
「うん。私と後ブラックパール、それから県北地域に居るブルーサファイアと数人かな?」
蒼ちゃんも向かうのですね。
私はずっとここにいるしか無いので、ちょっと他の地域に行けるのが羨ましいですね。
「っと、そろそろ行ってくるね」
「あ、はい。気をつけてください」
「ありがと! ホワイトリリーもね!」
「はい」
ホワイトパールの言葉に返事をした後、彼女はその場を去っていきました。
「……はあ」
全然何も出来てなくて、申し訳ないです。他の魔法少女たちは戦っているのに、私はここで見ているだけです。そういう指示なので仕方がありませんが。
とにかく、この異常事態が早く収まると良いなと思いつつ、監視を続けるのでした。
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