Act.13:異常事態③


「どうやら、話を聞いた感じだと県北地域と県央地域に大量の魔物が出現したそうね」

「だね。だから他の地域のに魔法少女が居なかった……」

「ええ」


 俺たちは今、県西からは移動していて現在県央地域にやって来ている。ちょうど良い感じに見渡せそうなビルの屋上にて、話を軽くまとめていた。

 手に入った情報では、ほぼ同時に各地域に魔物が出現したらしい。それは俺も何となく、察していたが問題なのがここからでも見える、あの空中に浮いている魔物だ。


 クラゲにも見えるし、クラゲにも見えるようなそんな大きな魔物が水戸市上空にふわふわと浮いている。タコ、には流石に見えないな。

 でだ。あの魔物はああやって空中にただただ居るだけで、何も行動をする気配もない。繰り返し流れる、魔物の放送では空中のクラゲは脅威度Sと判定されているようなのだが、新しい個体ということでまだ正確には分かってない。


 見て分かる通り飛行能力は備わっているみたいだ。何をしたいのか、さっぱり分からん。魔物って普通、襲ってくるようなもののはずなんだが。


「そしてあの魔物よね」

「ん。未だに動かないみたい」


 あのクラゲの魔物は要注意対象だが、今の所何もして来ないため、魔法省も監視だけなのかな? まあ、そこら辺は直接聞かないと分からないのだが。


 それで、他に情報があって県北地域での魔物の出現頻度が落ち着いてきているみたい。これはひとまず、安心と言えば良いかな? 真白も無事だと良いが。


 残るはこの県央地域。

 最初よりは落ち着いてきているようだが、依然出現頻度が高く、魔法少女たちも対応にあたっている。BとかC以下の魔物ならともかく、AとかAAの魔物もちまちま出現しているようで、Aクラス魔法少女も総動員してるそうで。


 正直、俺も何が起きているのか謎だらけだ。

 自分の事もそうだが、この同時多発に出現した魔物……聞けば、他の千葉地域だとか東京地域とかではこういう事は起きてないらしい。それでも、あの辺は出現する魔物の数も多いから、起きていても気付かないってパターンも考えられるけど。


 加勢、はしなくても大丈夫そうなんだよな。

 県央と県北については、多分大丈夫……今は出現していないけど、俺たちがやるべき事は……魔法少女の手が届いてない所の対応くらいか?


「どうするの? 加勢するなら私は流石にパスしたいんだけど」

「うん。そうだね……ブラックリリーは魔法省に手配されてる」

「う……」


 そんな事言うと、ブラックリリーは何も言えなくなる。ちょっと悪い事したかな? だけど、ブラックリリーが手配されているっていうのは嘘でも本当でもない。

 ただ、要警戒対象として魔法省が扱っているのは知っている。ホワイトリリーが言ってたしな……毎回思うが、そんな事を俺に教えて大丈夫なのか?


 一度聞いたことがあるんだが、その時の答えが許可もらってるっていうものだった。いやいや、ホワイトリリー……魔法省のどんな人物と関わりがあるんだ? 分からん。

 そういう許可を出せる人って結構上位の職位の人じゃね? って思うんだよ。ただそれについては聞いても、教えてくれなかったが……まあ、当たり前だよな。


 でも良く考えたらホワイトリリーって茨城地域の唯一のSクラス魔法少女だし、そういう偉い人と関わりがあるのも納得かもしれない。主力と言うべきか、一番の実力者? な訳だしな。


「冗談。手配はされてないと思うけど、間違いなく要警戒対象にはされてると思う」

「まあ、そうよね……」


 ブラックリリーも自分がした事に思うことがあるのか、俺の言葉に納得といった顔をする。やっぱり、悪い子ではない……と思うんだよな。


「あ」

「どうしたのよ? 魔物でも出た?」


 そんな事考えていると、ふと俺は思い出す。

 以前の魔法少女襲撃事件で実行犯? をしていた男は、黒い魔法少女に脅されたと言われていた。そして、魔物を二体召喚したっていう事も。


「一つ、聞きたいことがある」

「それは私に?」

「ん」

「……良いわ。答えられるものならこの際答えるわよ。ただ、前にも言ったけど目的は教えられないわよ」

「分かってる。聞きたいことは……」


 今さっき思い出した事を、ブラックリリーに聞くことにした。






「え? 魔物を召喚?」


 何か改まってリュネール・エトワールが、私に聞きたいことがあると言ってきたので、その話を聞くだけなら聞くって感じで答えたんだけど……。


「ん。男は魔物を二体召喚したって言ってた」


 はあ!? 何よそれ、私そんな事した覚えないわよ。いやそもそも、魔物を召喚ってそんな事私ができる訳ないじゃないの! 空間操作できるだけの魔法少女よ? 召喚って全く違う魔法じゃないの。


「何よそれ、私覚えがないんだけど? 魔物を出すって何よ……」


 こればっかりは私も怒って良いわよね。

 と言うか、あの男そんな事言ったの? 確かに脅しに近い何かをした自覚はあるけれど、魔物を呼び出すとかしてないわよ、本当に。

 そんな魔法があったとしても、私が使う訳ない。ララも多分止めるわよ?


「その言葉に少し安心」

「こればっかりはちょっと、私も訳分かんないんだけど? どういう事なの?」

「ん」


 話を聞けば、その男は黒い短剣で魔法少女を刺せ、と脅されたと供述したらしい。短剣を渡したことは認めるわ。ララが用意していた短剣は、魔力を吸収する効果があるもので、実害自体は無いけど、魔力を回収できる短剣ね。

 ララはこの短剣のことをエーテルウェポンの一つって言っていたわね。エーテルウェポンの一つ、と言ってる通り他にもこう呼ばれるものがあるらしい。


 妖精世界に存在していた魔力を宿す武器……それがエーテルウェポン。エーテルウェポンは魔力を宿していて、普通の武器とは異なり、特殊な力を備え持っているみたい。


 何かファンタジーのライトノベルとかに出てきそうな設定の武器よね。というか、ララはライトノベルを知ってたし、そこから持ってきたとかじゃないわよね?


 流石にそれはないか。

 だって、私は実際そのエーテルウェポンっていうのを受け取っていた訳なんだし。


 残念ながらそのエーテルウェポンは、魔法省に回収されてしまったみたいだけれど。男と一緒にね……じゃなくて、エーテルウェポンの事ではなく、本題は魔物よ。


「そんな事を……でもこれだけは言わせて。魔物を呼び出したり出来る魔法なんて私は出来ないわよ」


 そんな魔法、初めて聞くわよ。空間操作……確かにテレポートとかで魔物を飛ばす事は出来るけど、魔物って巨体が多いじゃない? あんな物にテレポート使ったら私の魔力が持たないわよ!


「そっか。……だとすると男は何でそんな事を」

「それは私の方が聞きたいわ」


 普通に考えられるのは私に全て擦り付けようとしているって事よね。いえ、そもそも私がそうさせたのだから擦り付けも何も無いわよね。


「うん。ごめん。ちょっと思い出したから」

「別に気にしてないわよ。最も、私の言葉を信じるかはあなた次第だけどね」


 今は共闘関係なのはそうだけど、実際は敵なのだし信じられるかと言われたら、普通は信じられないわよね。普通ならね……。でもこの子は普通じゃないのよねえ。


「信じてるよ」

「……あまり人を信じすぎるのどうかと思うけれど」

「ん……それは言われたことある」


 あるのかーい!

 って、この子ににいちいち突っ込むのも疲れるわね……でもまあ、確かにそれが出来るほどの実力は持っているものね。私は魔法少女としても魔法が強いだけで自身はそこまでじゃないし、本来の元の体も普通じゃない。


 何かちょっとだけ羨ましいかも。リュネール・エトワールとなら仲良くなれるのかな? 魔法省の魔法少女たちとは、多分敵対しているから出来ないわよね。でも彼女は野良……。


 って、私は何を考えているのよ!?


「とにかく、次何するか考えましょ」

「ん」


 さっきの事は忘れる事にしよう。うん、それが良いわ。

 私は少しだけ無理矢理ではあるけれど、思考をリセットし話題を変えるのだった。






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