Act.11:異常事態①


「スターライトキャノン!」


 シュンっと静かにステッキからビームが放たれる。それはまっすぐ魔物を捉え、そして貫く。正確には貫くと言うか、着弾して爆発しているのだが。


 一度二手に分かれ、他に魔物が居ないかを確認していた所、魔物を発見。案の定、誰も駆け付けてなかったので、俺が今倒した所だ。

 魔物自体はそんなに強く無さそうだが、数が異常である。こうなると他の地域も怪しいかもしれないな……県南にもまた新たに出現している可能性もある。


 見た感じでは、県央と県北がもしかするとやばいのかもしれない。それで、魔法少女たちが総動員されている……それなら納得だが何人かをこちらに充てがうことは出来ないのだろうか。


 まあ、来てない以上、対応できるのは俺たちくらいか。


「……真白、大丈夫かな」


 真白だけではなく、ホワイトリリーやブルーサファイアも心配だ。彼女らは恐らく県央かな? 真白は友達と会っているが、危ない目にはあってないだろうか。

 その真白の友達も、無事だと良いのだが……うーん、こればっかりは県央と県北に魔法少女たちが居る事を祈るしかないか。


 勿論、今すぐ向かっても良い。

 でもそれだと、この地域はどうなるか? 俺の住む地域が何処であろうと、破壊されたりとか滅茶苦茶にされるのは見たくない。


 倒した魔物の魔石を回収した後、足に力と魔力を込め、思いっきり上へと飛び上がる。超人的身体能力によって、一気に空高く飛び、近くにあった鉄塔のてっぺんに着地する。


 さっきの魔物以外は、居なさそうかな? 地上を見た感じでは、もう魔物の姿は見えない。一旦落ち着いたって所だろうか。


 ブラックリリーの方はどうだろうか? ここからじゃ分からないけど、向こうにも魔物は居そうな気がする。

 空を見ると、さっきまで晴れていたのにいつの間にか太陽が厚い雲に隠れ、天気はすっかり曇り。今にでも雨とかも降りそうだ。


 風も徐々に強くなってきている気がする。……それはまるで、今の状況を伝えているかのように。


「……茨城地域で何が」


 その答えを知るものはこの場には居ない。




□□□□□□□□□□




「何が起きているんでしょうかね……」


 私は茜さんから聞いた今の状況にそう呟きます。

 何が起きているのかと言えば、これは私もさっぱりなのですが魔物が一斉にこの茨城地域全体で出現したそうです。それぞれの個体はそこまで強くないみたいなのですが……私はどうもハズレを引いてしまったようです。


 目の前……というより空中に居るのはクラゲのような見た目をしている大きな魔物です。無数の触手をくねくねさせていて、正直見ているだけでも気持ち悪いです。

 一度、前に触手に捕まったことを思い出しますがあれがまだマシだと思うほどです。あの時はリュネール・エトワール……司さんが助けてくれたので良かったのですが。


『気をつけて、その魔物は脅威度S並よ』

「はい、分かってます……」

『その魔物は過去のデータと不一致です。つまり、新種ってことになります』


 連絡端末から茜さんではない、別の女性の声がはいってきますが彼女はアリスさんと言って、魔法省の技術開発部……つまり、技術関係を担っている方です。

 普段は部屋から出てきませんが、通信は良くしてたりします。今回は異常事態でもあるので、結構表立って出てますね。


「つまり……」

『ええ。魔法省の感知による脅威度はあまり当てにならないわ。ただ過去のデータを参照した感じでは、その魔物はS並となってるそうよ』


 県央に出現した、クラゲのような魔物。データでは脅威度S……それは長らく出現していなかった魔物の脅威度です。Sの魔物が出たのは3年ほど前だと聞いています。

 他の魔物と違うのは、そのクラゲの魔物はただただ中央の空中にふわふわ浮きながら、何をする訳もなく触手をうねうねさせているだけなのですよね。こちらに気付いた様子もありません。


「他の地域はどうなってるんですか?」

『さっき報告した通り、各地域に魔物がかなり短い間隔で出現しているわ。それぞれの魔物の脅威度から判定して魔法少女たちを散りばめてるけど、それでも不足してるわ』


 聞けば、県南にも魔物が出現したらしいのですが、他の地域と時差があっての出現だったため魔法少女が向かえてなかったそうです。


「県南は大丈夫なのですか!?」

『落ち着いて。丁度偶々県南に居たリュネール・エトワールが対応したそうよ』

「リュネール・エトワールが……」


 そうですか、司さんがやってくれたんですね。流石です。でも、司さんは野良……本来なら私たちが対応しなければ駄目なのに、本当に申し訳なささがあります。

 人手不足なのは承知してしますが……。


『それと、黒い魔法少女も一緒に居たそうよ』

「黒い魔法少女ですか?」

『ええ。魔法省のデータベースには居なかったから彼女も野良ね。リュネール・エトワールと行動しているそうよ』


 何だかちょっとモヤッとしますが、今は我慢です。とにかく、その黒い魔法少女にも感謝しないといけませんね。


『ただ、その黒い魔法少女の特徴が以前あった、襲撃事件の時の話に聞いた魔法少女の容姿に近いのよね』

「え……」

『まだそうとは言い切れないけど……』

「そうですか……」


 リュネール・エトワールが向こうのサイドに付いたのでしょうか。いえ、それは無いはずです……司さんは良い子ですし、悪い人に付いていくとは思えません。


 あくまで私個人の考えですけど……あまり信じたくないです。


『まあ、黒い魔法少女については情報も全くないから今考えても時間の無駄ね。話を戻すけど、他にも県西や鹿行、県北にも魔物が大量に出現しているわ。魔法少女総動員で対応してるけど、足りない状態ね』


 県南の魔物はさっき言ったように、リュネール・エトワールと黒い魔法少女が倒したみたいで、今は魔物の姿はないそうです。ただ、県西地域に魔物を観測しているみたいですね。

 県西には魔法少女が向かってますが、現状魔法少女が居らず、魔物が野放しになってる状態のようです。幸い、今の所一般人に被害はないようですが、家屋には若干の被害が出ているそうです。


『他にも自衛隊が避難誘導を行っている感じよ。ただ知っての通り彼らの武器は魔物には効かない……』


 今回ばかりは、自衛隊も出動し避難誘導や避難者の支援を行っているそうです。ただ、魔物が現れた場合、彼らの兵装は役に立ちません。魔法少女の救援要請も出ているみたいです。


『もう、あっちこっちドタバタしてるわ。本当に何が起きているのよ……それで、ホワイトリリー、魔物の様子はどう?』

「依然変わらず、空中でふわふわしてます」

『そう……様子見って感じなのかしら』


 襲って来ない魔物なんて初めてですよ。何をしているのか分かりませんが……かと言って、下手に刺激するのも悪手ですよね。私も魔物の対応を行いたいのですが、Sの魔物が居る以上、ここから離れられません。

 何故なら対応できる魔法少女は私しか居ないからです。脅威度Sの魔物は本来なら、Sクラス魔法少女が複数人で対応する敵ですからね。最低でも二人です。


 ですが、残念ながらこの茨城地域にSクラス魔法少女は私しか居ないのです。野良ならリュネール・エトワールと言う魔法少女が居ますが……。


『新しい情報が入ったわ。県西地域に出現した魔物も討伐されたそうよ』

「魔法少女が到着したのですか?」

『いえ、向かってる途中で入ってきた情報ね』

「え、それでは誰が……」

『リュネール・エトワールと、黒い魔法少女よ』

「また?」


 あまりにも対応が早くないでしょうか?

 そんな早く移動できますかね……いえ、彼女は想像を覆す程の魔法少女ですし、今更ですかね? もしかすると、黒い魔法少女のお陰なのかもしれませんが。


「むむむ」

『気持ちは分かるけど、今は抑えなさいな……』

「はい、すみません」


 またムッと来てしまいました。その黒い魔法少女は何者なんですかね……リュネール・エトワールと一緒に行動しているなんて、羨ましいです。


『これで残るは県北と県央ね。鹿行は数が少なく倒せたみたいよ。ただもう少し警戒するって今、鹿行地域に居る子から連絡が来たわ』

「そうですか……茜さん、何が起きているんでしょうか」

『それはわからないわ。ただ少なくとも……』


 ――茨城地域で何かが起ころうとしている。


 そう、茜さんは静かに言いました。




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