Act.07:星月と黒百合共闘戦線①


「大丈夫? ヒール」

「ありが、とう……」


 色んな所が擦り切れてしまってるブラックリリーに回復の魔法をかける。何気にこの魔法を使ったのは久し振りかもしれない。流石に衣装までは治らないけど、そっちは体内の魔力が勝手に充てがわれて、再生するはずだ。


「他の魔法少女は?」

「いえ、私だけしか居ないわ……何故か」

「……」


 周りを見た感じ、確かに未だに魔法少女の姿がない。一体どうしたのか……普通なら駆け付けても良いくらいだけど。


「後ろ!」

「……スターバリア」


 ブラックリリーが叫ぶが、大丈夫だ。背後で動いた気配はあったからな……スターバリアにより、魔物の攻撃をもう一度防ぐ。

 確かに来ないのは気になるが、今は他の魔法少女の事を考えている場合ではない。こいつを何とかしないと、被害が広がるだろう。


「待ってて」

「そいつ強いわ」

「ん。何となく分かってる」


 ブラックリリーがここまで押されてる訳だしな。ただ、俺は彼女が使える魔法をテレポート以外知らないからな……どのくらいの強さなのかは判断しかねる。

 ただ、野良でやっている以上、それなりには戦えるはずだろうし……そんな彼女を追い詰めているので、取り敢えずこの魔物の警戒度を上げておく。


「スターシュート!」


 ステッキからホーミング付きの星が放たれ魔物に飛んでいくが、その星を魔物は手で弾き飛ばす。ええ……そんなのありかよ。

 軌道がずれた星は空高く飛んで行ってしまうが、ホーミングによってまた戻ってきて今度は着弾し、爆発を起こす。しかし、あまり効いて無さそうだった。


「スターライトキャノン!」


 ビームがステッキから放たれ、魔物へ飛んでいく。スターシュートよりは強いはずだが、果たして……星のエフェクトを出して爆発を起こす。


「”$#”!”」


 どうやら少しは効いたみたいだ。それでも、傷がついた程度だったが……やっぱり、魔法省の脅威度システムはもう少し改善した方が良いのではないだろうか。

 まあ、ラビに頼っていた俺が言えた物でもないのだが……それにしても、改めてラビが居る重要性を感じたよ。俺一人ではこんなにも微妙なのか……。


 居ない物は仕方がない。それにラビは俺がこんな姿になってしまっている原因を探してくれているのだから、何も言えまい。


「スターライトキャノン」


 もう一発放つと、同じ爆発が起きさっきよりもダメージが通ったように見える。それでも、大きな打撃にはなって無さそうだ。こうなると、やっぱりサンフレアキャノンの方が良いか?


 少しずつ小出しにしている理由は色々とあるが、例えば攻撃を吸収する魔物とかだったら強力な魔法を吸収されると厄介になりかねない。

 今の所、そんな能力の魔物は遭遇したことがないが、もし遭遇してしまった場合の事も一応考えて行動しないとな。魔物は未知の生命体だし。


「サンフレアキャノン」


 取り敢えずそんな厄介な能力は無さそうなので、現状最強と言っても過言ではない攻撃魔法”サンフレアキャノン”を魔物に放つ。

 見慣れた極太の熱線が放たれ、魔物を貫く。それと同時に、魔物の身体は火に包まれ、溶ける……はずなのだが。


「え」


 魔物はまだそこに存在していた。かなりの深手を負っている感じだが……溶けない自体は初めてだ。


「火に耐性がある?」


 どのくらいの耐性かは分からないが、普通ならこれで溶けてしまうはず。AAの蝶の魔物だってこれで消えたんだぞ? そうなるとこいつは……。


「!」


 魔物が怒っているのか、咆哮を上げる。そしてこちらを睨みつけ、同時に口が光りだす。エネルギーのようなものが口に集まって行く。


「これは、ブレス……?」


 しかも狙いは俺じゃない。

 ブラックリリーの方見ている……俺も彼女を見るが、避けるのはちょっときつそうだ。そうなると俺がどうにしないといけない……しかし、どうする?

 スターバリアで耐えられるか? こんな事考えてる暇もない。


「スターバリア!」


 魔力を多めに消費し、範囲を広げ、強度も上げる。更に五重にしておく。ただ、どれだけの威力かが分からないのが不安だが、守るしか無い。


 ついに魔物からブレスのようなものが吐き出され、俺たちの方へ襲ってくる。やはりブラックリリーの方を狙ったみたいだ。しかし、俺のスターバリアがその攻撃を防ぐ。


「っ……」


 直撃を受けたバリアは、まず一重目が破壊される。続いて二重目がブレスを防ぐ。バリアが壊されると結構こっちにも衝撃というか、反動のようなものが襲ってくるが耐えられない程ではない。


「くぅっ!?」


 二枚目も破壊されると、身体に衝撃が襲ってくる。全く痛くないと言えば嘘になるが、それでもまだ大丈夫だ。まだバリアは三枚残っている。


「リュネール・エトワール!?」

「大丈夫。そこに居て」


 俺がそんな呻き声のようなものを出したからか、ブラックリリーが焦燥した声で俺の名前を呼ぶ。彼女も魔法少女だ……傷つけさせはしない。


「でも!」

「つぅっ……」


 三枚目も壊された。後二枚……耐えてくれよな。俺も全力で魔力を送り込む。そうすると残り二枚のバリアが力強く輝きだし、ブレスを完全に受け止める。


「#”#”#!?」


 そして遂にブレスが消える。砕けそうな状態だった四枚目のバリアがポロポロと崩れるように、光の粒となって消えていく。


「防ぎきった」


 何とかブラックリリーに被害が及ばずに済んだことに安堵し、俺は魔物を睨みつける。向こうはそれに気づいたのか一瞬だけ怯む。


「負傷している魔法少女を狙う、卑怯な魔物め」


 そう吐き捨てた後、天高くにステッキを掲げ、魔法のキーワードを紡ぐ。


「二度も同じのを撃たせる訳ない。――メテオスターフォール」

「##”!>#」


 天空に無数の魔法陣が生み出され、それぞれから星が降り注ぐ。それぞれの星は意思を持っているかのように、あの時みたいに魔物へと向かって落ちて行く。

 無数の星たちが魔物にぶつければ、たちまち星のエフェクトと同時に爆発をその音が響き渡る。耐えられるものなら耐えてみろ!


「凄い……」


 後ろでそんな呟きが聞こえる。俺は凄いなんて言われる大層な存在じゃない……でも、そう言われるのも悪くない。


「倒した……ふう」


 煙が晴れると、さっきまで居た巨体のゴジラみたいな魔物は姿を消し、そこには大きめな赤い魔石が複数転がっていた。


「……5個もある?」


 そこに転がっていた魔石の数は5個。どれもそれなりの魔力を含んでいると思われる魔石だった。今まで複数個も出たことはなかった気がするのだが、一体……。


 考えられるとすれば、一体の魔物が四体の魔物を取り込んだとかだろうが……そんな事あるのか? 取り敢えず、魔石を回収してブラックリリーの側に戻る。


「リュネール・エトワール……」

「大丈夫? 結構深手だったけど」

「ええ。あなたの回復魔法のお陰で大分楽になったわ」

「それは良かった」


 ブラックリリーを見れば、確かにさっきよりはマシになっているようで、安心する。


「?」


 俺はステッキの先端に手を触れる。それを見たブラックリリーは不思議そうに顔を傾げる。魔石5個を取り出し、それをブラックリリーへ差し出す。


「え?」

「これブラックリリーにあげる。戦ってたのはあなただから」


 先程の魔物から取った5個の魔石。それを見たブラックリリーは驚いた顔をしていて、ちょっと笑ってしまう。今回俺は戦うつもりはなかったしな。


「でも倒したのはリュネール・エトワールよ」

「わたしはそこまで困ってないから。ブラックリリーは魔力を集めてる、魔石、必要」

「それは……」


 俺がそう言うと彼女は戸惑った表情を見せる。魔石については結構俺だってストックしているし、そこまで欲しいという感じではない。


「でも流石に全部はもらえないわ。せめて半分はリュネール・エトワールが持って」

「……分かった。でも5個だから半分には出来ないよ?」

「知ってるわ。でもこの魔石大きいじゃない? 一つだけ半分にしても良いでしょ」

「その発想はなかった……」

「ふふ」


 魔石を半分にするという発想は流石に考えなかったな。でも、割ったら使い物になるのだろうか……まあ、良いか。そうでもしないと彼女は受け取ってくれなさそうだし。


「ん。分かったそれで良い」

「じゃあ、この一番大きめなのを半分にしましょ」

「ん」


 そんなこんなで、俺とブラックリリーはお互い半々にして、魔石を取ったのだった。



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