Act.06:遠出にて③


「ねえ、ララどう思う?」

「どうって、あの子だよね?」

「うん」


 土浦にある某有名なショッピングモールに出かけていた所、凄く見覚えのある容姿をしていた少女を偶々見つけ、怪しまれないように相席したのだけど……。


「確かにそっくりだよね……変身時は面影少し残るけどあそこまで似てるって初めてかな」

「変身している状態?」

「いや、それはない。彼女から魔力を一切感じなかったから纏ってないよ」


 偶然にもある魔法少女にそっくりな容姿をしている女の子……銀髪金眼。まず、日本じゃ見ない容姿だけど、そうではなく、その容姿がリュネール・エトワール……星月の魔法少女である彼女にそっくりなのよね。


「ただのそっくりで別人ていう可能性もあるね」

「うーん……」


 向こうには見覚えは無さそうだった。でも確かにそれはそうだって思う。会ったことがあるのは魔法少女に変身している状態の時だし。

 魔法少女を特定するのは結構難しい。何せ変身してない状態では、何も感じないから。しているのであれば、その身に纏っている魔力で分かるんだけど。


 まあ、特定されないようにという仕様になっているって事なんだろうけど。それにまだ魔法少女についてなんて、そこまで分かってないしね。


 ただ、もし仮に彼女がリュネール・エトワールなら……調べる体で近付いてみたいと思ってるけど、人違いだとただの迷惑だし。


「分かってるとは思うけど、リアルで特定するのは難しいよ」

「ええ、分かってるわ」

「それはともかく、早く何か頼んだ方が良いのでは?」

「……そうね」

 

 フードコートに並ぶ複数のお店を見ると、何処も結構並んでおり時間がかかりそうな感じだった。この時間帯だから当たり前なんだけど、あまり時間を掛けすぎると彼女に迷惑がかかってしまう。


 そんな訳で、比較的空いていて、自分が食べられそうなお店へと向かおうと思った瞬間だった。


「!? ララ……」

「ああ、魔物だ」


 店内にサイレンのようなものが鳴る。これはもう、何回も聞いたことあるであろう魔物を知らせるために各地に設置されている、警報。

 そしてララも魔物が出現したことを感知する。ララは魔物が出現した所を感知できる不思議な力があるみたいで、いつも魔物が出た時とかはララに教えてもらって向かっている。


「取り敢えず向かうわ」

「彼女は?」

「避難してくれてると良いんだけど……それよりも魔物よね。他の魔法少女がもう駆け付けてるかな」

「それは流石に分からないけど……」


 司さんの事も気になるけど、ちゃんと避難誘導に従ってくれているはず、と思い私は指につけている指輪に触れ、軽く口をつける。


「――ラ・リス・ノワール・フルール・エスパース!」


 避難誘導のされている側とは違う方向で、周りを見つつ誰も見ていない所で私は変身する。ふわりと浮遊感に襲われ、気が付くと既に私は魔法少女……ブラックリリーとなる。


「テレポート!」


 このくらいの距離なら大して魔力を使わないので、テレポートにて一番状況の把握しやすいショッピングモールの屋上駐車場へと転移する。


「あれね……脅威度は?」

「恐らくAかな。問題なく行けるはず」

「そう」


 魔物の居る方を見ると、そこには何というかゴジラ? をイメージするような怪獣がゆっくりではあるがこちらに近付いてきていた。


「他の魔法少女が居ない?」

「のようだね……」


 どういう事? 普通ならすぐに駆けつけているはずなのに……県南にも魔法省の魔法少女は居るはずなんだけどね。仕方がない……あまり戦うのは苦手だけど、対処しないと。


 私はそんな怪獣の魔物へと向かうのだった。




□□□□□□□□□□




 ――時遡ること、警報が鳴る前。


「……何か嫌な予感がする」


 この場所で出会った香菜の事を待っている間、何の根拠もなく、俺はそう感じた。周りを見ても、平和そうに食事とかをしているのがほとんどだったが、もう少し警戒しようぜと思う。


「このご時世、気にし過ぎるとやってられないのは確かだけど」


 何せ、毎日のように魔物が出現するのだから仕方がない。それに警戒しところで、何にもならないしな。魔法少女しか対応が出来てないし。


「それにしても遅い……何かあった?」


 気が付くともう30分弱経過していて、何かあったんだろうかと不安が募る。しかし、ここを動けば席が無くなってしまうだろうし、それに特に何もなく、すれ違いになってしまう恐れもある。


「もう少し、待つ」


 1時間経っても来なかったら、探しに行こうと思った所だった。


「!」


 聞き覚えのあるサイレンの音が店内に響き渡る。魔物出現を知らせる警報……つまり、近くに魔物が出現したという事。ラビが居ないから推定脅威度は分からない。放送によればAとの事だった。


「……」


 どうする?

 避難誘導に従って逃げるか? 確かに今回ばかりは戦うつもりはないと思ってたが、香菜の事も心配である。会ったばっかりの子に何言ってるんだと思うが、逃げ遅れていたら大変だろう?


「仕方、無い」


 既に避難誘導が行われているが、俺は席を立ち上がり、そそくさに見えない場所へと移動する。持ってきていた変身デバイスを手に取り、いつものキーワードを紡ぐ。


「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』


 ふわりと、変身時特有の浮遊感を感じる。もう毎回のように経験しているから、もう何とも思わなくはなっている。そして気付けばもう変身が完了する。


『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』


 変身完了の音声を聞いた所で、俺は素早く屋上へと移動する。こういう時、あの黒い魔法少女の使う転移する魔法が使えると便利なのだが、まあ、無い物ねだりはしない。

 それに、もぅ十分以上な力がリュネール・エトワールにはある。何故かはラビでも分からないが、とにかく、これ以上何を願うんだって話だよな。


 そして俺はさっきの嫌な予感のことも思い出す。

 嫌な予感の原因はこの魔物……じゃなければ良いんだがな。そんな事はあまり考えたくないが、取り敢えず屋上へと向かう。


 既に魔法少女が駆け付けているかもしれないが、その時はその時だ。


 数分程度でショッピングモール内を抜け、俺は屋上の駐車場へと辿り着く。魔物のいる方向が分からないが、取り敢えず東西南北全部見れば分かるだろって事で、まずは東を見る。


「ビンゴ」


 一発チェックメイトである。


「……ゴジラ?」


 いや、だってあの見た目完全に某有名なゴジラじゃん! え、何、魔物ってそういうのもあるの? 現実に存在しないよ?


「……」


 変な事考えるのは止めにし、魔物の方を見る。


「一人?」


 見える感じでは、魔物に対処しているのは一人だけだ。魔法省の魔法少女? でもあんな子居たかな……俺が覚えてないだけかもしれない可能性が高いけど。


「取り敢えず向かう」


 何となく、魔法少女の方が押されているように感じる。これは行った方が良いだろう。俺の記憶からして、あの魔物は新しいな。という事は魔法省の脅威度は当てにならないかもしれない。


 そんな俺は、屋上より高く飛び上がり魔物の方へと向かう。本当にこの身体能力えげつないよな……飛行機も目じゃないぞ。


「! 危ない!」


 魔物の尻尾の攻撃を喰らい、ふっ飛ばされる魔法少女を見て俺は全力で加速する。彼女は地面に叩きつけられ、更には地面をえぐる。

 動けないでいる魔法少女にとどめを刺そうとばかりに魔物が、その驚異的な爪で一突きしようとしていた。くそ、もっと早く! 間に合え!


「間に……合え!」


 そんな願いが届いたのか、ギリギリの所で間に合い、素早く魔法を発動させる。


「……スターバリア」


 五芒星を描く、半透明な壁が爪を受け止める。俺のスターバリアと、魔物の爪がぶつかり合う。かなり強力な一撃だが、バリアは壊れてない。


「#$?#”!」


 突然の乱入者である俺を睨みつけてくる魔物。一旦爪を離し、距離を取る。


「なるほど、少し知能が高め、か」

「うっ……リュネール・エトワール?」


 後ろでボロボロな姿で背中を後ろに倒れている魔法少女見る。彼女はこちらを見ると、驚く顔を見せるが、痛みのせいか表情を歪める。


「……ブラックリリー?」


 魔物と戦っていたのは、魔法省の魔法少女ではなく以前の襲撃事件の裏に居た魔法少女……ブラックリリーだった。




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