Act.05:遠出にて②
「ふう」
茶色と白、そして黒のくまのぬいぐるみを袋に入れてもらい、ゲームセンターを抜けてフードコートに座って一息つく。まだ11時半ではあるが、それなりの人たちが座っている。
え? 黒を何で持ってるのかって?
……ついつい、二種類も手に入れたらコンプしたい衝動に駆られ、追加でプレイしてしまったのだ。だけど、黒のくまのぬいぐるみは3回プレイした所で取れた。
そんな訳でコンプリートしてしまったのである。
「……」
そして俺はさっきの事考える。
くまのぬいぐるみ……最初は真白に白のくまを持って帰ろうと思ってやっただけだった。でも、気付いたらどうだろうか……茶色のくまのぬいぐるみを取れなかったのが凄く悔しかった。
「はあ」
何だかな。
まあ、良い。気にしていたらきりがない……全く気にしてないとは言えないが、取り敢えず落ち着け俺。紙コップに入った水を一口飲む。
ぼうっとフードコートの景色というか風景を見る。がやがやと騒がしく、子どもたちの声や泣き声、雑談とかの話し声がスゥっと耳を通り抜けて行く。
別に珍しくも何とも無い光景だが、県南にも沢山の人が居るという事だ。何を当たり前なこと言ってんだって言われるかもしれないけど、実際同じ県でも距離が離れてたらそっちのことは分からないじゃないか?
だからこうやって実際見ると人がたくさん居るっていうのが実感できるのだ。どうでも良い話をしたか……でもちょっと気を紛らわせたかった。
魔法省があるのは水戸だが、当然ながら魔法少女たちは全員同じ所に住んでいる訳ではない。茨城という地域で見れば同じ所だけど、もっと見れば県南県央、県北県西に分かれ更に町や市等がある。
俺が良く出会うのは大抵は県央や県北に暮らす魔法少女だろうと思ってる。今回ここまで来ているのでもしかすると県南に暮らすであろう魔法少女に会うかもしれないな。
「お昼なにか食べて帰ろ」
あーだこーだ考えていると、気が付いたら30分くらい経過していたみたいで12時を回っていた。まだそこまでお腹が空いているという訳ではないが、食べずに帰ったらきっと空くだろうという事で何か軽いものを食べて行こうと考える。
しかし、一人しか居ないから席を離れた瞬間取られそうではある。何か置いておくっていうのも手だが、置いても大丈夫そうな物が無い。
「あの」
これは大人しく持ち帰りで買って行った方が良いかな? それにこの場所を30分も占領しているというのも何かアレだしな。
「あの!」
「っ!? んえ?」
そんな事考えているとすぐ近くから声が聞こえ、はっとなる。近くどころかもう目の前に居るよ。やばい、考え過ぎていたかもしれない。
「突然ごめんなさい。えっと、相席しても良いでしょうか」
目の前に居たのはリュネール・エトワールと同じくらいかそれ以上かくらいの少女が立っていた。知らない人に声をかけるって結構勇気居る気がするんだが……コミュ力おばけかな?
「ん。良いよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
俺が居る席は四人まで一応座れる場所なのだが、仕方がない。ここしか空いてなかったし……でも良く考えたら一人なのに四人席に座るのは迷惑だったかもしれない。
「すみません。席が空いていなかったので……」
「ん、別に良い。わたしも四人席に一人で座ってるのは迷惑だったかもしれない」
向き合う形で座る少女は、やはり黒髪だ。ちょっと茶色も混ざってるけど、黒が多く背中まで伸びているロングだ。大体今の俺と同じくらいか。年齢まではわからないが、15歳以上な気はしてる。
しばらく沈黙が続くがそこで俺は一つ疑問が。
「あなた一人?」
「え? あ、はい。一人で来ています。まあ家が近いものなので」
まあ、家が近ければ確かにちょい出感覚でここに来れるか。
「……」
「ん? どうしたのじっと見て」
向かい合った状態で、彼女の方は何故かこちらをじっと見ていた。そう見られると落ち着かないから勘弁してくれ。なにか顔に付いているのだろうか。
「いえ、ごめんなさい。えっと、何処かでお会いしたことありませんか?」
「えっと」
うーん、この子と俺は今日が初対面だと思うのだが。俺も向こうを良く見てみるが、特に思い当たる節がない。となると、魔法少女として会ったことがあるか?
うーむ……雪菜や蒼とは違って髪が長い子だし、完全に黒っていう色でもないからあの二人ではないのは確かだ。仮に二人だったら俺に気付かないはずないしな。
「なんでそう思ったの?」
「うーんとですね、ちょっと知ってる人に似ていたので……」
やっぱり見覚えはないな。この辺の近くに住んでるって事は県南に暮らしている魔法少女なのは間違いないが……時々県南までリュネール・エトワールで来たことはあったし、何人かの魔法少女とも会ってるが……。
変身前と変身後では面影が少しだけ残るとは言え、大きく変わるから会ったことないかと聞かれてもさっぱりだ。こういう時、ラビが居れば何かを感じてくれたかもしれないが、今は俺しか居ないしな。
「ごめん。記憶にない……似てる人って?」
「私がちょっと悪い事しちゃった人なんですけどね。その髪色や金の瞳まで似てるのでつい。すみません、こちらの思い違いかもしれません」
そう謝ってくる少女。
「こっちこそごめん」
「いえ! あ、私黒百合香菜って言います。香菜って呼んでください」
「ん。司」
女の子ってどうしてこうもコミュ力が高いのだろうか。と言うか初対面だよ? そんな自己紹介して大丈夫なのか?
「司さん、ですね。ここで会ったのも何かの縁ですし、よろしくおねがいします」
「ん。よろしく」
まあ……同じくらいの少女って感じで見られたんだろうな。と言ってもこの姿一応今本物なので、間違いではないが。本当なんでこうなったんだろうな?
「司さんはお昼は食べたんですか?」
「まだ。買おうと思ったけど席が無くなりそうだから持ち帰りにしようかと思ってた」
「あー確かに、この時間帯は込みますもんね……」
そう。まだ12時になったばかり……人はこれからどんどん増えてくるだろう。そうなれば、席を外した瞬間空いていると思われ、取られてしまう可能性が非常に高い。ならば、もう持ち帰りにした方が良いかって思ってたのだ。
「それなら、私と交換でどうですか? 司さんが買ってる間は私が居て、私が買ってる間は司さんが居ると言った感じで」
ふむ、悪くはないか。
今は二人な訳だし、一人が買いに行ってる間はもう一人は席で待っている。二人以上で来てた時に使える戦法であるが、そもそも行く相手が居ない俺としては使えない方法だったが……真白が居れば使えるか。
「ん。分かった。じゃあ、黒百合さん先に」
「え? 良いんですか?」
「ん。レディーファースト」
「ふふ! それを言ったら司さんも女の子ですし、対象ですよね」
「そうだった」
ついつい、中身のせいでレディーファーストなんてぬかしてしまったが、今の俺もその対象だった。
「あと、私のことは香菜って呼んでください!」
「分かった……えっと香菜」
「はい!」
笑顔が眩しいことで。
それはともかく、俺は後でも大丈夫なので先に行ってどうぞと言えば、少し申し訳無さそうな顔をしたが香菜はそのまま、何処かに買いに行ったのだった。
「……わたしは何にしようか」
軽めのものとは言ったが、見た感じあまり軽そうなのはないよな……一応、有名なハンバーガーの店ならあるけど。昨日真白とラビで食べたけど、まあ、一応軽いか?
まあ、色んなメニューがあるから別に同じ店でも、違うものが食べれるんだし問題ないな。そうだな……今日は辛いのではなく、ロングセラーなダブルチーズバーガーにするか。
大分今も並んでいるが、香菜が戻ってくるまでは席は離れられないので、座って待つ。この間に減ると良いのだが、むしろ増えそうな気がするよな。別に時間はあるから良いが……。
「あ、帰りのバスの時間調べとかないと」
帰りのバスを確認し忘れていたので、スマホ型のデバイスを取り出しバスを調べる。もし乗れなくても、最悪タクシーで駅まで行けば良い。更にそれも駄目だった場合は、変身してその身体能力を使って移動すれば良いだろう。
そんな遅くまで居るつもりはないけどな。
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