Act.08:星月と黒百合共闘戦線②


「っ!」

「また警報!?」


 ついさっき、ゴジラに似た魔物を倒したばかりだと言うのに、魔石を分けていたらまた魔物出現の警報が鳴り響いた。俺はまだ平気だがブラックリリーはどうだろうか。


「私も戦うわよ……流石に。魔石のお陰で魔力は回復したし」

「大丈夫?」

「ええ」


 魔石の効果もあったようで、ブラックリリーは完全に元通りとまでは行かないもののかなり、マシにはなっていた。ボロボロになっていた衣装も修復されている……のだが、まだ所々に傷のようなものが残っている。


「私魔力が少ないのよ。だからちょっと戦うだけでも枯渇するのよね」


 俺がその様子を見ていたのに気がついたのか、ブラックリリーはそんな事を言い始める。


「だから魔石による補助がないと余り戦えないわ。この通り、装甲に補填する魔力も少なくてね」

「そんな事ばらしていいの?」

「どうせ、何れバレるだろうと思ってね」

「……そう」


 魔力が少ない、か。

 俺は異常な魔力を保有しているから気にしたことはなかったが、そういう魔法少女も居るって事を実感させられる。しかし、量が少ないのにどうして魔法少女を……。


 いや、今聞くべきことではないな。


「行こう。あなたはわたしが守る」

「っ!」


 野良で敵対? していた相手だけど、同じ野良で活動する魔法少女だ。目的なんてそれぞれ違うだろうし、今は取り敢えず一緒に協力するのが良いだろう。

 一番良いのはブラックリリーには待機してもらうことだが、見た感じ言った所で意味がないようにも見えるのでこのまま行こうと判断する。守りきれれば良いが……いや守る。魔石も、今の残りの魔力も余裕はある。


「どうかした?」

「な、何でも無い!」

「?」

「早く行きましょ」

「ん」


 何かちょっと挙動がおかしかった気がするが、大丈夫そうだったので気にしないことにした。


 次なる魔物はまたこのショッピングモールの近くに居たようで、探す必要がなかった。さっきの魔物よりちょっと離れた位置に今度は熊のような容姿をしている魔物を発見。多分あれが二体目だろう。


「ん。やっぱり魔法少女たちが居ない……」

「そうね……」


 さっきもそうだけど、普通なら駆け付けてくれても良いと思ってるのだがこっちの魔物にも魔法少女たちの姿がない。一体どういう事だ?


「もしかして、他の場所にも魔物がいる?」

「その可能性は低くないわね。そっちに出払っていてこちらに来れてないのかも」


 でも、いくら人手不足とは言え、茨城地域にだって魔法少女は30人は居るはずだよな?

 まさか、その数では対応しきれないほどの魔物が出現している? それとも、かなり強力な個体が現れていてそっちの対応をしているとか?


 ここは県南だ。

 県南の魔法少女もまた向かわないと対処できないくらいの何かが現れた? あーもう良く分からんが、とにかくこの魔物も対応しないと。


「あの熊の魔物は私に任せてくれる?」

「ん。無理しないように」

「ええ、分かってるわ」


 ブラックリリーがそう申し出てきたので、危ない時は加勢することを条件に任せることにする。俺はその間、周りを警戒する。もしかしたら他にも魔物が出てくるかもしれないしな。


 俺は周りを警戒するのと同時に、ブラックリリーの方にも目を向けるのだった。







「大丈夫? ブラックリリー」

「ええ、大丈夫よ……」


 正直言うと、ちょっとだけ辛かったりする。魔力量が少なく、さっきの魔物を相手にしたときもズタズタにされてしまったし。

 空間ごと斬る魔法を使えば良かったのだが、前にも言った通り空間系の魔法が使えるとは言え、私自身の魔力量は少ない。一発で倒せそうな相手ではない場合は、中々使えないのだ。


 今回の魔物はAとなっていて、しかも新種。だから様子見しながら戦っていたんだけど、やっぱり魔力量が少ない私に長期戦は無理。思い切って空間を斬る魔法を使えば良かった。


「それなら良いけど……」


 心配そうにするのは、右腰に付いているポーチの中から顔を出したララだ。このポーチは魔法の力を持っており、中は見た目よりも広くなっていて、それなりの数の物を入れることが出来る。なので、ララも中に入れる訳ね。

 空間魔法……確かに強いんだけど、肝心な私の魔力量が少ないため、100%の力を発揮できていない。多分、私はBクラスかそれ以下くらいなんじゃないかしらね。


「テレポート」


 熊の魔物に近づくと、直ぐに私に気づいたようでその大きな手を大きく振り回して私を狙ってくる。手には鋭い爪もあり、あれにやられたら一溜まりもないだろうけど、私は転移で回避する。


「この短距離程度ならそんなに魔力は使わないわね」


 回避程度ならある程度無限にできそうかな?


「”#$”$!」


 魔物は言葉にもならない叫びを上げるが、正直言って耳障りな声だ。この世の物とは思えないその声は不快にさせる。


「クリエイト”スクエア”!」


 前方に正方形の空間の箱を生み出す。どういう原理かは私にもわからないけど、私が使える魔法は空間操作。生み出す事も出来るっぽい。


「シュート!」


 そしてこの生み出した正方形の箱を、全力で魔物目掛けて、投げるようにふっとばす。


「#$!」


 直撃した反動により、魔物が一瞬よろめくが直ぐに立ち直る。余り打撃は与えられてないみたい……これくらいは予想していたけどね。


「クリエイト”トライアングル”!」


 今度は三角形の空間を生み出す。三角形の先端は尖っているので、ぶっちゃけ四角形よりは殺傷力とかは高いと思うんだけど。


「シュート!」

「”!##?」


 今度は結構なダメージを与えられたみたいで、熊の魔物はそのまま後ろに倒れる。その巨体もあって凄い音がするがもう慣れているからスルーね。


 倒れて動けないでいる魔物を見て、私は自分のステッキを大きく上に振り上げ、そして魔法のキーワードを紡ぐ。


「――スペースカット」


 そのまま上から下へと大きくステッキを振り下ろすと、一瞬だけ空間がずれ、魔物とその周囲が真っ二つになる。ずれた空間が再びくっつくが、そこにはもう魔物の姿はなかった。


「はぁはぁ……」

「大丈夫かい!?」

「な、んとか……」

「いや、全然大丈夫そうに見えないよ? 汗も……」


 大分魔力残量が持ってかれた。魔石を取り出す手もおぼつかない。最初から空間斬れば良かったかな? ってこれじゃさっきと同じじゃないの。駄目ね、もう少し考えないと……。


「あ……」


 ふらり視界が揺れる。

 あ、これは倒れるなと一瞬で察した私は目をつむる。だけど、いつになっても地面にぶつかった衝撃のようなものが来ず、目をゆっくり開けるとそこには……。


「無理しすぎ。魔力量、少ないんでしょ?」


 銀髪金眼の魔法少女……リュネール・エトワールはこちらを覗き込んでいた。どうやら私は彼女に抱き抱えられてるみたいだった。

 ララのことバレたかな? と思ったけど、どうやらポーチに隠れたみたい。リュネール・エトワールの方を見ても特にバレているようには見えなかった。


「でも、お疲れ様」

「……ありがとう」


 そんな彼女の言葉に素直にお礼を言う。

 私はある意味、あなたと敵対しているような存在なのにどうして、そんなに優しいの? 聞きたい気持ちは強いけど、中々口には出せずに居た。


「今のうちに魔石」

「そうね……」


 あまり力が入らない手でポーチから魔石を取り出す。取り出せたのは先程の魔物の赤い大きめな魔石だったが、どの魔石でも良いだろうって事でそのまま使うことにする。


「チャージ」


 すると、スカスカに近い感じだった魔力が回復していくのを感じる。体中に魔力が駆け巡り、さっきまでの動けない状態から復活するのだった。


 リュネール・エトワール……今更だけど何でこんな場所に居たのかな? 確かに各地域で目撃はされているけど一番多いのは県北だったわよね。

 仮に他の地域でも魔物が現れていたら、そっちに居たのかもしれない。その場合だと、私はどうなっていたのかな……急に体が震える。


「大丈夫?」

「え、ええ……」


 魔法少女たちが来ない理由が……分からない。何かが起きているのは確かなんだけど……あの時の嫌な予感が当たってそうで、何処か怖い。


 私はそんな不穏な空気を感じながら空を仰ぎ見るのだった。



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