Act.14:月下の会話②
「え? それって……」
「ええ。向こうにも妖精がいる可能性があるわ」
妖精。
妖精世界フェリークに暮らしていたという者たち。ただ、既に知っての通りフェリークは滅んでしまっている。その影響で生物も草木も無い世界と化してしまった。
ラビは運良く、歪に飲み込まれ、この世界へ。そして原初の魔法少女を誕生させたのだ。そのお陰で魔物出現の日に現れた脅威度SSの魔物を倒し、何とかその国も半壊で済んだのだ。
話を戻すが、向こうにラビの言う通り妖精が居た場合、その妖精もラビと同じく歪に飲み込まれたという事だろうか。滅んだと同時に妖精も、恐らく消滅してしまったラビは言っていた。
まあ、エーテルウェポンの事もあったので、向こうに妖精が居るという可能性だけは考えていた。あくまで、あの時は可能性としか考えてなかったので、頭の片隅に入れておくだけにしていたが……。
「ただ、さっきも言ったように、私の感覚……私が感じただけだから、断言は出来ないわ」
「……ラビ以外にもやっぱり歪に飲み込まれた妖精が居たってこと?」
「もし居るならそれしか考えられないわ」
「そう言えば、今更だけど……歪ってぶっちゃけ何?」
歪って言葉はラビから何度も聞いていたが、今更ながらそれについてまだ聞いてなかったな。飲み込まれる……ブラックホールみたいな感じなのだろうかと、予想はしているが。
「今更ね……いえでも、確かに話してなかったわね。歪っていうのは名称通り、歪よ。空間が歪み、重力場が著しく乱れ飲み込まれたり、その逆……吐き出されたりする」
「それってブラックホールみたいな?」
「そうね……あなたの場合はブラックホールとホワイトホールの例えの方が分かりやすいわよね」
歪。
それは、時々発生する空間の歪みの事だそうだ。魔物もこの歪みから出てくる。この俺たちの世界に発生している歪は、言う所のホワイトホール。要するに吸い込まれた何かが出てくるという事だ。
その何かというのが知っての通り魔物である。時々とは言ったが、普通ならそうなのだが今のこの世界は魔物が頻繁に現れている。それはつまり、歪が発生しまくっているということだ。
ただ歪から魔物が出てくるというのはそうだが、それは二つのパターンが有る。
まず一つは、一つの歪で複数の魔物が出てくるパターン。これは文字通り、一回の発生で複数の魔物が同時に出現する。同じほぼ地域に同時複数の魔物が観測された場合は大体このパターンになるだろう。
二つ目が一つの歪で一体の魔物が出現するパターン。これも文字通り、一回の発生で一体の魔物が出現する。脅威度が高いほどこっちのパターンの場合が多かったりする。B以上はこちらが多いかな?
と言っても、時々このパターンで脅威度の低い魔物が出てくる場合もある。
「地球でも良く神隠しとか聞くでしょ? あれの原因はこの歪の場合が多いわね」
「なるほど」
突然消える。
昔は結構良くあったらしいが、文明が発達した今ではあまり聞かないが、稀に居なくなる時がある。捜索隊が探しても、痕跡すら見つけられなかった、とかニュースで聞いたことがある。
「詳しくはわからないけれど、どうも三つの世界が横並びに並んでしまっている影響なのか、歪が頻繁に発生しているわ。ただこの世界ではホワイトホール……つまり、吐き出される側の歪がほとんどなのが幸いだけれど」
「魔物が増えてるのもそれが原因てこと?」
「まだはっきりとは言えないけれど、こうも魔物が良く出るようになったのはそうとしか考えられないわ。今は停滞状態だけれど、魔物は出ている。つまりそれだけ歪も発生しているってことになる」
9月は異常なほど魔物が出現していたが、今となっては停滞状態。減った所も少なくないが、それでも出現している。それだけ歪が発生しているって事は分かる。
「何か……嫌な予感もするのよね」
「ラビ……」
「あ、ごめんなさいね、不安にさせる事言って」
「ん。大丈夫。嫌な予感はわたしもあるから」
まだ何がとははっきり言えないけど、何か起きそうな予感はしている。9月、10月の魔物の異常数、11月から徐々に落ち着いていって現在では、そこまで多い数は観測されてない。
いや、普通に見れば多いと言えば多いけど9月10月と比べれば明らかに魔物の数の減りがおかしいと思ってる。嵐の前の静けさってやつだ。
「あ。日付が変わった」
何となく、そう直感する。
スマホの形になってもらい、時間を確認すると数分ほどずれていたが日付が変わっているのを確認する。
「そうね」
色々? とあったクリスマスが終りを迎え、日付は26日へと切り替わる。屋根から見た家は大体は明かりが消えていて、寝ているのだろうと予想する。
ここから見えない側の部屋とかで起きてる人も居るかもだけど、見える範囲では数件くらいしか電気はついてない。
「ラビ。わたし、もう少し頑張る」
「あなたは既にかなり頑張ってくれているわよ。それ以上何をするのよ」
「今でも確かに強い……一人くらいなら余裕かもしれない。でも複数の人を守る時とかはまだ足りない気がする」
「司……」
実際問題、俺は気をつけると言いながらあっさりとあの短剣に刺されたわけだしな。油断していたか? そんなつもりはないが、何処かではそう思っていたのかもしれない。
それに、守るべき存在が増えたからな……茨城地域の魔法少女たちは勿論、今では唯一の家族の真白もだ。パートナーとも言えるラビも。
実際俺はもう気付いているのだ。
ホワイトリリーやブルーサファイアに真白。そして茨城地域を守る魔法少女やその魔法少女に支援を行っている魔法省、それと魔法省で務めているであろう、高校の同級生の茜。
何度も言うが、俺は魔法省を嫌っている訳ではない。むしろ、魔法少女たちを全力で支援している事に好意を持っているのは確かだ。
魔法少女たちを戦わせているという責任を負っているのだから当たり前だが。茨城地域の魔法省に対しては悪い噂とかはほとんど聞かないからな。
時々魔法省への批判的な話を聞くことはあるがな。ただ少数だけども。
一つあげるなら……魔法少女ばっかり優遇するな、だろうか。
その意見に俺はこう言いたい。
魔法少女が狡い? ふざけるな、この日本が魔物の侵攻から守られているのは魔法少女がいるからだ。いや、正確には日本だけじゃない。全世界に居る、命をかけても良いと決断した魔法少女たちのお陰だ。
魔法少女が居なかったら既にこの国はない。
俺は確かに年端も行かない少女を戦わせるっていうのには否定的ではある。でも魔法少女となって魔法省に所属するかは各自の意思を尊重する。
それに唯一対抗できる力でもあるのだ。どんな否定的であっても魔物を倒せる唯一の方法なのだから、どうしようもないのだ。
それに魔法省もとかもただ見ているだけではない。前にも言った通り、どうやったら現代兵器とかを活用できるのかとかが今でも考えられている。
魔石をエネルギーとして魔導砲を作る計画が進行しており、つい最近東京で、試作魔導砲が完成してそれを試しに魔物へ撃ったというのもある。その結果、手も足も出なかった現代兵器? の攻撃が魔物に打撃を与えた。つまり効果ありだ。
その有効性もあり、この計画は承認され本格的に作成され始めている。
……まだ、人類は諦めていない。
今はまだ魔法少女に頼りきりではあるがそういう計画だってあることを考えて欲しい。それに優遇するな? 命をかけてる少女たちにそんな事を言うのか。
まあ、少数意見だからもみ消されていくのだが、それでもそういう人が居るってことも忘れないで欲しい。
あまり考えたくはないが、そう言う者たちが敵対するという事も頭に入れておくとやはり、もっと力がほしい所だ。一般人と魔法少女では相性が最悪だしな。
「程々にね」
「ん。分かってる」
俺は静かに夜空を見上げたのだった。
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