Act.13:月下の会話①
「あら、もう良いの?」
「ん」
ドライブデート? という物を真白と行ったクリスマスの深夜。真白は疲れたのか、もう自分の部屋で眠っている。俺はと言えば、リュネール・エトワールとなってラビを連れ、屋根の上に寝転がる。
元の体でこういう高所に来るのはちょっと怖いからな……。
ドライブの帰り……ケーキ屋に寄った所、やっぱりというか何というか結構売れていたけど、何個かは残っていて俺はティラミス、真白はショートケーキを選んで買ったのだ。
リビングで他愛のない雑談をしつつ、一緒に夜ご飯とケーキを食べてデートは終わり。ちょっと物足りなかったかなと真白に聞いてみたけど、楽しかったと言ってくれた。
本当ならもっと色んな事ができる場所に行かせたかったけど、時間がね。
例えば海浜公園とか、水族館とか。まあ、真白は冬休み中は家に居るらしいから、行けたら良いなとは思っている。
時間はもう23時半を回っている。
もう一日が終わる時間帯に、俺は屋根の上で空を見ながら寝転がる。特に意味はないが、こうやって空の星を見るとやっぱり良いなって思う。
雪はいつの間にかやんでしまって、ちょっと残念というか何というか。
「最近、あなたその姿多いわよね」
「そう?」
まあ確かに、結構この姿で居る時間というのが増えている気はする。特に何も感じてなかったが……思い返すとそうだなって思う。
「魔法少女になってもう三ヶ月過ぎるけど……身体とか大丈夫?」
「ん? うん、特にこれと言ったのはないかな。元気」
最初は結構戸惑っていたのは嘘のように、もうリュネール・エトワールは自分のもう一つの姿のように感じる。
「それなら良いんだけれどね。正直、性別が変わるって結構な負担だと思ってね」
「今更」
「それもそうね」
確かに性別が変わるっていうのは色々と問題があるだろう。性別が変わるって言っても自由に切り替えられるし、別に問題はないか。
――ううん。性別変わるって普通考えられないからさ……二つの性別を持ってて、そのうちどっちが本当か分からなくなっちゃうんじゃないかなって思ったら、ちょっとお兄が心配で。
ふと、この前真白に言われた事を思い出す。
性別が二つ、そのうちどっちが本当かわからなくなる、か。俺は自分の胸に手を当て、目を瞑る。大丈夫、俺は俺だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「でも」
「でも?」
「ん。何でも無い」
「そう?」
これに気付いたのはいつだろうか。
何というか、可愛いものについつい目が行ってしまう事に。無意識にそういうのを見てしまう癖のようなものがついてしまっている。
……そしてラビの言う通りハーフモードにしても、フルモードにしても結構この姿になる頻度が微妙に増えている事。見回りに行く前とか、変身したくてちょっとうずうずしていたという事。
前の俺にはなかった何かがある。
身体に違和感がない。それ自体も、良く考えればちょっとおかしいだろう。いくら慣れたとは言え……ここまで違和感が全く無くなっているのは、おかしい。
駄目だな、考え過ぎるのは良くない。でも確かに魔法少女リュネール・エトワールとなって、俺自身の心境に変化が起きているのは何となく分かっている。
「……ラビは」
「何かしら?」
「妖精世界を復活させたいって思った事とかはない……?」
これ以上考えると、沼に嵌りそうなので半ば無理矢理ではあるものの話題を変える。
妖精世界は滅んだ、とラビは前に言った。それはつまり、ラビの故郷が無くなってしまったという事だ。いや、正確にはまだあるが、とても生物が生きていけるような環境ではなくなってしまっている。
故郷が無くなる……それは、ラビにとっても辛いものではないだろうか。
「……そうね。ない、とは言えないわ」
「そっか」
「ええ。故郷だもの、そう簡単に割り切れないわ。でも、気付いたわ」
「何に?」
「仮に、仮に妖精世界が復活したとして……その世界にはもう誰も居ない」
「ラビ……」
「私にも優しいわよね、あなたは」
暗い表情になってしまったラビを両手で抱き、慰めのつもりで撫でる。余計な事かもしれないが、変な事聞いた俺の責任だしな。
妖精世界は魔法実験によって滅んでしまった……その世界に居た他の妖精も、もう誰も居ない。ラビは運が良いのか悪いのか歪に飲まれて俺たちの世界に来た。
「変な事聞いた。ごめん」
「いいわよ別に。……私よりも、そっちが心配よ」
「何故?」
「気付いてないかもしれないけど……あなた仕草がもう女の子っぽくなってるわよ」
「……」
一瞬何を言われたか分からなかったが、ふと今の姿勢を見てみる。うん、見事に女の子座りしてるな……え? 何これ俺無意識でやってるのか?
「それも演技なら良いけど……違うわよね」
「ん。無意識だった……」
「以前は変身して女の子になってても、無意識にそんな仕草はして無かったわ。元の姿でやらかしてないだけ、良い方だけど……」
「……」
「魔法少女にしたのは私だけど……本当に大丈夫? 今頃になって身体に違和感とか、変な感じとか無い?」
ラビが心配そうに聞いてくる。
変な感じとか、違和感はないと自信持って言えるはずだ。でも、さっきも言ったようにここまで違和感が無いと言うのは変なのかもしれない。
「むしろ違和感がない事に違和感」
「それは確かに……」
慣れたの一言で済ませられるなら良いが……何かそういう問題でも無さそうな気がする。
「ラビ、聞いてくれる?」
「え? どうしたのよ改まっちゃって」
「ん。思い過ごしなら良いけど実は……」
さっき思ったことや、最近のことをラビに言ってみる事にする。
「なるほどね」
「ん。おかしいかな?」
「まだ何とも言えないわね……でも普段のあなたとは違う感じなのよね」
「ん」
「それは元の姿でもあることなの?」
「多分」
「そう……」
元の姿。つまり、男の状態でもそうなるのかと聞かれれば、肯定である。ハーフモードやフルモードの状態ならば良いが、これについては元の姿でも時々無意識で起こってしまう事だ。
「やっぱり、魔法少女の方に染まってる?」
「うーん……そもそも、男性が魔法少女になれる何て、初めてだからね。何とも言えないわ……聞いた限りではまだ大丈夫だと思うけど」
「そっか」
「あまり、衝撃とか受けないのね?」
「ん。実のところ、何となくは……分かってる」
自分の変化自体に。
ただそれはまだ、良く分からないっていうのが本音である。このままいると、いずれは大きく変わってしまうのだろうか? あまり実感湧かないのだが……。
「他にも、この姿だと色々着たいって思うこともある」
男の姿で出掛けた時とか、女性物の服が視界に入るとリュネール・エトワールに合いそうだな、とか考えたりするんだよな。勿論、今までこんな風に無意識に思ったことはない……はずだ。
「司自身の本音はどうなの?」
「ん。良く分かんない」
まだ、分からない。
「少し気をつけるつもり」
「そう。でも何かあったら言って頂戴ね。私にも責任があるのだから」
「ん。ありがとう、ラビ」
俺は再び空を見上げる。
闇夜に煌く星と月……星と月。星月と言えば俺……いや、リュネール・エトワールのシンボルのようなものだ。そう言えば未だに星月の魔法少女って言われているよな。
別にどう呼ばれても良いのだが……。
魔物を倒して、魔法少女たちの負担を減らす……どうなったとしても、これだけは俺のするべき事だと、断言する。とは言え、問題は他にもあるのだ。
ホワイトリリーやブルーサファイアの事もあるし、真白の事も。過去に振ったとは言え、真白がまだ俺に好意を抱いているのは今でも分かるさ。
「話変わるけど……ラビはあの黒い魔法少女の事、どう思う?」
あまり考えても、あれなので俺もう一つの懸念事項である黒い魔法少女についてラビに聞いてみる。
「うーん……悪意は感じなかったわ。あくまで私の感覚ではだけどね」
「やっぱりそう思う?」
「ええ」
あの時、彼女は本当に謝りに来ただけのようだったしな。ちょっと悪い事したかもしれないが、まあ、そこは仕方ない。そういうことをしてしまっていたんだし。
「後は……いえ、私の勘違いかもしれないわね」
「ん?」
「……うーん。これは本当に私が感じただけだからあれだけど、実はあの子から私と同じ気配を感じたのよね」
そう言うラビを、月明かりが静かに照らすのだった。
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