Act.15:エピローグ


 ――魔法省、技術開発部


 そう書かれた部屋へ、私は足を踏み入れる。中は色んなコンピュータとかが設置されていて、大分部屋が埋め尽くされている。


「あ、支部長。ようこそおいでくださいました」

「そういう堅苦しいのは良いわよ」

「そうでしたね。……それで今回は例の計画についてですか?」

「ええ。どんな感じかしら?」


 例の計画。

 それは魔法省と防衛省で研究開発を行っている魔石式魔導砲についてである。この間、東京地域で試作型が作られ、試射が行われた所、魔物に対しての有効性が確認され、計画が本格的に承認されたのだ。


「一応、試作型なら完成しましたよ。これです」


 技術開発部所属である彼女……アリス・フェリーアは海外より、日本に移住してきた技術者である。そして魔法省に所属し、この地域へと配属された。

 欧米特有の金髪碧眼の女性なんだけど、見た目からではまだ10代といっても過言ではない感じなのよね。ただこれを言うと拗ねてしまうので禁句とされている。


 アリスがコンピューターを操作して、目の前の大きなスクリーンに一つの映像を映し出す。そこには44口径120mmの試作型魔導砲T-MAG-C122Mと表示されている。


「これが……」

「はい。東京で使われたものより強化されてますがほぼ同じ物です」


 ――T-MAG-C120M

 Test Magic Canon 120mmの略称らしい。名前は何というか、そのままって思うけどまあ、下手に変な名前つけられるよりはマシよね。


「動力と言うか、エネルギーについては魔石を使用する感じですね。この一番後ろの部分にセットします」

「なるほど。発射する時は?」

「魔石をセットしたらそのすぐ近くにあるボタンを押すことで、エネルギーを放ちます」


 アリスはスクリーンに映っている映像でシュミレートしてくれる。

 ボタンを押下すると、魔石が光り、エネルギーが出力され、それが砲身を辿ってそのエネルギーが砲口より放たれる。


「もう実際に使うところまでは完成しているので、茜さんの指示があればいつでも試運転が可能です。どうしますか?」

「そうね……そこまで来ているなら効果も確認したいし、次魔物が出た時とかに試せるかしら?」

「問題ありませんよ。すぐに使えるように上に用意しておきますね」

「ええ、ありがとう」


 魔法少女の負担を減らしたいというのが私の願いである。もしこの魔導砲が魔物に有効打を与えられるのであれば、魔法少女たちの負担も減るはずよね。

 ただまだ試作段階っていうのもあって、不安もあるけれど。試運転する時は何人かの魔法少女たちを呼ばないといけないわね。


 でも魔物はいつ現れるか分からないから次って言っても今すぐ現れたら無理ね。取り敢えずなるべく早い段階で試運転を行いたいわね。

 この魔導砲は魔石をエネルギーとして放つ兵器で、もし完成すればこれを戦車に乗せたり小型化して人が持てるサイズにする事も出来るはず。


 ただ小型化した場合は威力が弱くなる可能性が高いわよね。


「ふう」


 近くにあった椅子に座り、一息つく。


「茜さん、お疲れですか。これお茶です」

「ありがとう。うーん、何ていうのかしらね……疲れたっていうか何ていうか」


 今更ながら魔物について考えていた。

 魔物は一体どういう存在なのか? 解明はされてない。ただ人の多い所に近付いてくるっていうのはこれまでのデータから分かっている。

 ただ出現する時はランダムで良く分からない。魔物が出現する時はその場の空間が歪んでいるということも観測されている。空間が歪む……現実味のない話よね。


 魔物が出現した際は前にも言ったと思うけど、各地に設置されているレーダーが瘴気や魔力を感知し、そのデータがコンピューターに送られて過去のパターンなどを照らし合わせ、脅威度を出す。

 ただこれは確実ではなく、Bと観測されてもCだったり、Aだったりする場合もある。過去に観測された魔物なら良いのだが、新しい物だとそういうのが起きるため、脅威度があまり当てにならない。


 あくまで目安と言った感じなのよね。


 魔物個体に脅威度が設定されてるのではなく、そういうデータから推測しているのよ。個体ごとに設定してたらきりがないもの。


「9月と10月の魔物の数は知ってるわよね」

「はい勿論ですよ。異常な数でしたよね」

「ええ。でも11月に入ると徐々に停滞・減少傾向になったでしょう?」

「そうですね……12月は更に減ったっていう地域もありますね」

「ええそうなのよ。いえ減ること自体は別に問題はないんだけど、何ていうのかしらね……なーんか嫌な予感がするのよ」

「茜さんもですか……実は私もそう思ってるんですよね」


 あの2ヶ月は異常な数の魔物が各地で観測されていた。それは茨城地域だけではなく、東京や大阪といった別の地域でも同じだった。

 それが今はどうだろうか。11月に入ると停滞期に入り、そこから徐々に減少傾向になっていた。12月に入ると月初めにAAの魔物は出たけど、その後は通常通りに戻っていた。

 そして今、12月後半……更に減ったという地域も増えていた。この茨城地域はもとより少なめだったからあれだけど、グラフを見た感じでは微妙に減少している。


 何か大きな事が起きそうな、そんな嫌な予感がするのだ。しかもそれは遠い未来ではなく、すぐ先の未来で。私の考えすぎなら良いんだけど、どうも引っかかる。


「アリス、あの装置はどう?」

「あれですか。一応、既に量産して一部地域に設置してありますが……」

「そう……気休め程度だけど無いよりはマシよね」

「そうですね。何も起きないのが良いのですが」

「本当にね……」


 嫌な予感を感じつつも、私たちは会話を続けるのだった。





□□□□□□□□□□





「ねえ、ララ。この状況どう考える?」

「ないだい突然。……ふむ、魔物の減少傾向か」


 家から少し離れた場所にあるビルの屋上で私はララに一つのデータを見せていた。それは、魔物の出現数を日別や月別にグラフ化したものだ。

 8月までは平年通りの推移だったけど、9月になって異常な数まで増えていた。桁が変わるくらいだ。これはただ事ではないと思う。


「9月と10月、この2ヶ月だけおかしいわよね」

「そうだね……桁が違う所もある」

「でも11月に入り、パタリと止んで停滞期になったわね」

「うん。そこから徐々に減少傾向……そして今月は更に減少している」


 この茨城地域はもとより少ないから変わってないように見えるけど、9月と10月は目で見て分かるように上昇している。そして9月と言えば丁度星月の魔法少女リュネール・エトワールが登場し始めた月。

 

「これ、リュネール・エトワールが関係しているとかあるかな?」

「どうだろうね……でも彼女が何かしたって感じはしないけど」

「まあね。魔物って魔力に引かれるんだよね?」

「うん、そうだね。だから魔力が多いほど魔物が寄ってくる」


 リュネール・エトワールは膨大な魔力を持っている。それはララも言っていたことだ。それに強力な魔法を何発も撃てる事からして多いのは事実だと思う。

 魔物はそれに引かれたのかもしれない。


 でも、魔物は空間の歪みから出現すると言われていていつ出てくるかは分からない。魔力の多い魔法少女が新たに登場したからと言ってそんな頻繁に歪が発生するとも思えないんだよね。


「それには同感だね。いくら膨大な魔力を持っていても、魔物は別世界の存在だしどうやってそれを感知するのかって話だよ」 

「だよね。ねえ、ララ。私凄い嫌な予感がするのよ」


 2ヶ月だけ異常数の魔物が出現、11月から停滞、徐々に減少し12月の今、おかしなくらい数が減っている。茨城地域は元から少ないとは言え、減っているのも事実。

 

 嵐の前の静けさ……そう、何でか分からないけど嫌な予感がする。


「ボクも感じてた。何が起きるかわからない……ブラックリリーも無理しないい程度に気を付けて」

「言われなくても、そのつもり」


 まだ予感がすると言うだけで何でも無いけど、ララも感じてるっていうのはやっぱり何かありそうだなと思う。私は魔力が少ないからあまり戦えない。

 でも、用心はしておかないと……気を引き締めないとね。





□□□□□□□□□□





「ねえ、蒼ちゃん」

「白百合先輩、どうかしましたか」

「蒼ちゃんは司さんのこと好きなんですよね?」

「っ! ……バレてますかやっぱり。でもそれは先輩も同じですよね」

「う……そうですね」


 反論も何も出来ません。

 好きというのは事実なのですから。ただ蒼ちゃんも彼女のことが好きだっていうのはもう分かっています。私たちは今、公園のブランコに二人で並んで座っている感じです。


「「……」」


 何というかちょっと気まずいですね。


「先輩は何処が好きになりましたか?」

「ふえ!? いきなりど、どうしたのです?」

「ふふ、慌て過ぎです」


 自分の顔が赤くなるのを感じます。

 何処を好きになった……ですか。やっぱり言葉数は少なくても優しい所でしょうか。あとはあの時に助けてくれた時も、良く分からない何かを感じた時がありましたね。


「そうですね……優しいところでしょうか。蒼ちゃんはどうなんですか?」

「先輩と同じですよ」

「へ?」

「優しいところです」


 そう言えば最近の司さんは、良く私たちと会っても逃げたりしませんよね。前は逃げようと動いてたことがほとんどなのですが、少しは近づけたのでしょうか。


「そうなのですね……」

「はい。気付いた時には好きになってました」

「蒼ちゃんも同じですか」


 私も色々ありましたが、気が付いた時には司さんの事が好きになっていました。恋は突然落ちるものと、冬菜も言ってましたが本当にそうですね。


「何ていうのかな……お父さんみたいな感じがする」

「あー、それ分かります! 何か親みたいな感じもしますよね司さん」


 ゲームセンターに行った時とか、私が欲しいと持っていた兎のぬいぐるみさんを取ってくれましたし、色々と配慮してくれてる所とか、何ていうかお父さんみたいな感じがしましたね。

 でもおかしいですよね。彼女は女の子なのに……でもお母さんとって言うのも何か違う感じがしますね。


「同じ女の子なのに、おかしいですよね」

「そうですね……近くに居ると安心も出来ます」


 好きっていうのは一度置いておいて、彼女の側はとても暖かく感じるのですよね。居心地が良いとも言いますか。何ていうか、何処か安心できるとも言えば良いのか分かりませんが。


「同じようなところが好きになってしまったようですね」

「はい。でも、私は先輩には負けませんから」

「それは私も言える事ですよ。蒼ちゃんには負けません」


 そう言って目をぶつけ合ったところで、私たちはついつい笑い合ってしまいました。


「一つ約束しませんか、蒼ちゃん」

「約束、ですか?」

「はい」


 私たちは同じ女の子を好きになってしまいました。周りからどう見られるかは分かりませんが、好きになってしまったのは仕方がないのです。

 そして同じところに惹かれました。だから……


「司さんがどちらを選んだとしても、恨みっこなしです」

「そうですね。選ぶのは司だから」


 そう、私たちが好きになったとしてもそれに答えるのは司さんなのです。まだ私は告白とかしていませんが、告白した際に答えるのは司さんです。

 司さんが蒼ちゃんを選ぶかもしれませんし、私を選んでくれるかもしれませんし、どちらとも振られるかもしれません。それでも好きになったのですから、どんな結果であれお互い恨みっこなしです。


 どちらも振られたなら、二人で一緒に泣きましょう。


「はい、恨みっこなしです」


 私と蒼ちゃんは手の小指を絡ませます。


「指切りげんまん」

「嘘ついたら」

「「針千本のーます」」


 指切りをした後、私たちはまた笑ったのでした。




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