Act.10:狙われたリュネール・エトワール①
「……」
水戸市にあるビルの屋上、そこに俺は立っていた。生憎天気は曇り……何というかどんよりとした感じだ。
そんなビルから北の方角を見ると、ここからでも良く見える大きな魔物が視界に映る。豆粒サイズくらいにしか見えないが、数人の魔法少女たちが戦闘しているのは分かる。
爆発したり、花みたいなものを飛ばしていたり、蔓を操っていたりなど。この距離でそういうのが認識できる事自体、流石は魔法少女状態だなと思う。
今回出現した魔物は脅威度A。久しぶりにこの脅威度の魔物が出現したのだ。しかも一体ではなく、二体。
そう、魔法少女たちが戦ってる方とは別に南の方角にも魔物が確認できた。そんな訳で魔物に向かおうと思っている。見た感じ、現状こっちにはまだ誰も来てないっぽい。
「行こう」
「ええ」
帽子の中に身を潜めるラビと一緒に、ビルから飛び降りて魔物の場所へと向かうのだった。
今回出現した魔物はどうやら、以前のカタツムリ……に似てるが、亀だこれ!? って事はあの甲羅も硬いよな。
俺が魔物の近づけば、やはり魔力に敏感なのか、こちらに気付く。手始めにお馴染みの魔法を放つことにする。
「スターシュート!」
もう見慣れた星がステッキから放たれる。亀と言う事だけあって、動き自体は結構鈍い。
星が飛ぶ速度は一応、目で認識出来るくらいだからやばいほど早いって訳ではない。それでも亀の魔物を凌駕するのは当然で、放ったらすぐに着弾する。お馴染みの星のエフェクト付き爆発が起きる。
「身の危険を感じた?」
「まあ、本能的に食らったらやばいと判断したんじゃないの?」
煙が晴れた所で見える亀の魔物は無傷だった。顔の方を甲羅に引っ込めたみたいで、それで身を守ったのだろう。
これはカタツムリ並みに面倒だな。しかもか今回はBではなく、Aの魔物だ。どんな攻撃手段を持ってるか分からない。
亀の顔を見ると何処となく『ふっ、防いでやったぜ。その程度か?』って挑発されているように見える。
魔物の言葉とかは分からんが。
さて、どうするか。
メテオスターフォールを使うか? だが、カタツムリの魔物の殻はスターシュートでひびが入ったが、こいつの場合は一切の無傷だ。
メテオスターフォールは強力だが、前にも言った通り結構疲れるし魔力も消費するしな……。
「おっと」
どうするか考えていると、魔物は何か棘みたいな物をこちらに向けて放ってきた。何処から出したんだよ!?
「リュネール、回避して!」
「え?」
慌てたように叫ぶラビの言う通りに、回避行動をとる。すると、さっきまで俺が居た場所に向けて棘が集まっていた。
「あの棘、追尾性能付きね。ただ精度はあまり良くないっぽいけど」
「少し危なかった。ありがとう、ラビ」
「どういたしまして。また来るわよ」
「ん。グラビティアップ」
魔物は続けて第二射を放ってきた。自分の周辺の重力場を弄る。飛んできた棘は特定領域内に入ると同時に、動きを止め落下する。
亀の重力を重くしても、そもそも最初から動き鈍いからあまり意味無いだろうし、身を守る為に使うのが良さそうだ。
「スターライトキャノン!」
第三射を放たれても面倒なので、スターシュートではない攻撃魔法を使う。相変わらず星と月の模様の入った魔法陣は目立つよな。
亀の魔物は甲羅に再び身を隠す。そして俺の放ったスターライトキャノンが命中すると、スターシュート以上のに爆発を引き起こす。勿論星のエフェクト付き…ここ大事。
「お」
「傷つけられたっぽいわね」
甲羅に隠れ、魔法を受けた亀だが、さっきとは違い無傷ではなかった。大分、甲羅のあっちこっちに傷が付いてたのである。
と言っても、傷をつけられた程度なのだが。しかし、向こうは向こうで効いたのか、悲鳴のようなものを上げていた。
大地を揺るがすような、振動を発生させる叫び声に若干顔をしかめる。魔物の叫び声って結構種類にもよるけど、耳に悪い。いや、正確には何て言えば良いのかな……ぞわぞわするような、この世の物とは思えない何かのような物だ。
魔物自体、別世界の生物だからこの世の物ではないって言うのは合ってるか。
「硬いの厄介」
「あなたの魔法も微妙な効き目ね……どうする? 他の魔法少女に任せる?」
「……北側で忙しいはず」
「そうよね……」
今更ではあるけど脅威度Aの魔物はAクラスの魔法少女が数人、少なくとも二名以上で対処する魔物である。
この地域のAクラスの魔法少女って現状9人しかいないんだよな。Sクラスのホワイトリリーを入れて10人。
残りのおおよそ20人はBクラス以下だ。その為、脅威度Aの魔物をに対応できる人数は限られている。ホワイトリリーはどうしてるのだろうか、やっぱり北の方に居るのかな。
「うーん」
「何する気?」
俺がステッキを前に向ける。その先に居るのは亀の魔物。スターライトキャノンでは傷はつけられたが、威力不足だ。ならば――
「――サンフレアキャノン」
刹那。
ステッキから極太の熱線が放たれる。俺からしても結構熱いが、魔法少女状態だから耐えられないレベルではない。
「#?#!?」
熱線が魔物にヒットする……そして燃え上がる。その炎、実に数千万度に到達する。一瞬にして炎は消え去り、魔物も消え失せた。
「ふう」
「今の何……?」
何、か。
スターライトキャノンと同類の魔法のはずだが、サンフレアキャノンは熱による光線と言えば良いのかな?
星関係、恒星とかも含まれるならば、わが太陽系に存在する恒星の太陽……あれを魔法にできないかと思った。
流石に太陽を呼び出すとかは考えてない。そんなことしたたら地球が滅びそう。そもそもできるかもわからないし、する気も無い。
「んー太陽?」
「えぇ……」
良く分からないが、星とか月に関係する魔法って酷く曖昧なのだが、こう使いたいと思ったりすると、自然と魔法のキーワードが思い浮かんでくるんだよな。
自分が使える魔法すらまだ把握しきれてないのは事実。リュネール・エトワールはどういう魔法少女なんだろうか。
「リュネール!」
「ん? っ!」
何だ、何が起きた? ラビの焦燥した声と同時に、俺は身体に違和感を覚えた。
「何が……」
違和感とかそういうレベルじゃない、明らかに可笑しい。何故俺はこんな近くに地面を見ているんだ? 身体にも力が入らないし、何が起きた?
「ふん。やはり効いたようだな」
「だれ……」
身体が全然動かないけど、何とか首だけを動かして聞き慣れない声の男の方に目を向ける。そこには白衣を着た一人の男が気味悪い笑顔で俺を見下ろしていた。
「くっくっく、実に凄い魔力だ! この量に質……これは良い意味で予想外だ」
更にその男が片手に持っている、黒い短剣に目が止まる。
「ま、さか」
「気付いたか? まあ、それは良い。お前の魔力は非常に良い物だ。それに野良らしいじゃないか? なら連れて行っても構わないだろう」
なっ!
こいつ、俺を連れて行こうとしてる? まずいな……男だっていうのがバレるのもそうだが、今の状態じゃ何も出来ない。これが魔力を奪われた感覚っていうやつか。
ブルーサファイアが体験してしまった感覚。確かに何も出来ない状態で、これは怖いだろう。俺はまだ男でしかもおっさんだからそこまでの恐怖はないが……。
「さ、わるな」
「おー怖い怖い! だがその状態じゃ何も出来ないだろう? 安心したまえ、命は取らんよ」
そう言って俺を担ぎ上げようとする男。いやどうする? 何か方法……あ! 大丈夫だ、ステッキは持っている……俺は動かない身体を何とか、無理矢理動かし、一旦男と距離を取る。大分きつい……動けて良かった。
「ほう、その状態でもまだ動けるか……一体どれだけの魔力を持っているんだ」
「お前には、関係ない」
「くっくっく! 動けたとしてもそんな状態で何するつもりだ? そうやって膝付いてる状態だって相当きついだろう?」
男の言う通り、かなりきつい。魔力を急激に減らされるとこうなるのか……初体験と言えば良いのか。男はそんな俺を見て随分と余裕そうな顔でジリジリと近付いてくる。
だけど――
「……チャージ」
ステッキの持ってる手とは反対の手で触れ、そしてキーワード唱えた。
すると……ステッキが眩い光を放ち、周囲を一瞬だけ照らす。それと同時に体中に駆け巡る魔力を感じ、さっきまで力が入らなかった身体に力が戻ってくる。
「何!?」
残念だったな、ツメが甘かった。
俺たち魔法少女は確かに魔力を使って変身したり、魔法を使ったりする。変身は問題ないとして、魔法を使う時は魔力を消費する。
魔力が無くなれば戦闘不能になるが、回復する方法もあるのだ。まあ、魔法ではないけどな……取り敢えず、コイツを捕まえる。
「覚悟して」
俺はそう言い放ち、ステッキを男に向けるのだった。
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