Act.09:ラビと妖精世界
「世界を複製……」
「そうよ。世界をコピーし、全く同じ世界を生成する。複製した世界なら何をしても私たちの住む世界には影響が出ないと考えたのでしょうね。その世界でなら迷惑をけかけずに魔法の研究が行える」
「世界を複製……あれ?」
世界を複製する魔法って何かあった気がするぞ。
「気付いた? ……反転世界よ」
「!」
そうだよ、俺達が普通に魔法の練習とかで使ってるあの世界。って事は魔法自体はもう完成していた?
「皮肉なことにね、妖精世界を犠牲に魔法は生まれたわ」
「……」
思わずラビを抱き寄せる。
「世界を複製する魔法を発動するには膨大な魔力とエネルギーが必要だったわ。あちこちからそういうエネルギーになるものをかき集めて発動実験を行った。安全性とかの確認も出来ていたはずなんだけど……」
「それでどうなったの?」
「発動実験を行った時、どういう訳か世界を複製するつもりが、別の世界を呼び出してしまった」
「世界を呼び出す……ちょっと待ってスケールが……」
世界複製に、世界を呼び出す……何だかスケールがでかくなってる。
「呼び出してしまった世界は二つ。一つはこの世界よ」
「!」
「そしてもう一つは、魔物と呼ばれる化け物が蔓延っている世界」
「それって……」
魔物が蔓延っている世界……あれ、まさかこの世界に魔物が出現し始めた原因はそれなのか?
「この影響で三つの世界が隣り合わせになってるって感じね」
今俺達の暮らしているこの世界と、魔物のいる世界、そして妖精世界が隣り合わせ、か。んーと分かりやすくするなら□◇□と言った感じ科。◇は俺達の世界な。
「それで、そんな世界を呼び出した影響で妖精世界は反動で崩壊、草木も無い世界となったわ」
「それじゃあ、妖精世界の住人は……」
「恐らく全滅ね」
「ラビはどうして?」
「私の場合は運が良いのか悪いのか、歪に吸い込まれて気付いたらこの世界に居たって感じよ。確か15年前かしらね」
「15年前……」
ちょっと待て。
15年前って言ったら魔物出現の日じゃないか? いや、何月かまでは分からんけど、そうだとするとラビは原初の魔法少女が居た時期に居たという事になるが……。
「……崩壊と同時に妖精世界に蔓延っていた魔力が歪の影響でこの世界に流れてきたのよ。これは幸いというべきかしらね……もし魔物の世界の方に流れてたら魔法少女なんて現れなかったわ」
「え、どういう事?」
何か話が大きいぞ。
ラビの話を簡単にまとめるとすると、まず、妖精世界の魔法実験……世界を複製するという魔法が失敗し、何故か二つの世界が呼び出されてしまった。
二つの世界の内、片方が俺たちが暮らすこの世界。そしてもう片方が魔物の蔓延っている世界。
それに妖精世界が入り、三つの世界が隣り合わせ状態となっている。そして反動で妖精世界は崩壊、蔓延していた魔力がどういう訳か俺たちの世界に流れ込んできた。
「妖精世界の魔力がこの世界に流れ込んできた、そのお陰で魔法少女という特殊な力が使える少女が誕生したのよ。魔力は人間たちに入り込み、そして何らかのきっかけで魔法少女として覚醒する」
「それが魔法少女が突発的に発生する理由?」
「そう。大体は命の危機とかが多いわね」
なるほどな。
今この世界にはそんな妖精世界にあった魔力が充満している。それは時には魔法少女として覚醒させる源となる。
「それで、魔物はこの魔力を取り込み、そしてそれを欲しがるようになった。突発的に発生する歪によって魔物はこの世界に出現、そして魔力を持つ者を襲う」
「それで……」
「ええそうよ。この世界に魔物が現れた原因は私たちにあるの。謝って済むレベルではないけど、本当にごめんなさい」
確かに……魔物による被害は結構な打撃を与えているのは確かだが、それに対抗する力が生まれたのも妖精世界のお陰でも有る……難しいな。
でも、ラビは悪くないと思う。誰にも失敗は有る……と言うにはちょっとスケールとかが大きすぎるけど、悪意があってやったわけじゃないってのは分かるさ。
「ん。大体分かった」
「……」
俺はぬいぐるみでは有るが、ラビの頭を静かに撫でる。ぬいぐるみという事もあって触り心地は良い。
「話してくれてありがとう。一つ聞いても良い?」
「ええ」
「15年前にこの世界に居た、という事は原初の魔法少女は……」
「あなたの考えてる通りよ。原初の魔法少女たちは私が誕生させたわ」
「やっぱりか」
原初の魔法少女たちは、非常に強力な力を持っていたと言われてる。今何処で何をしているのかは分からない。もしかしたら既に死んでいる可能性もある。
「魔物に詳しかったのは15年間居たから?」
「そうね。15年も近くで魔物を見てれば詳しくもなるわよ。と言っても分かってないことが多いけどね。何せあいつらは、別世界の生物だから」
まあそれもそうだよな。
話を聞いた感じだと、魔物ってまず違う世界の生物。それが魔法実験の影響でこの世界に出てくるようになった訳だし。
同じ世界ならまだしも、別世界の事なんて誰も分からんよなあ。俺だって妖精世界だって知らなかったし。
いや、そもそも世界ってそんないくつも有るのか? って話だ。まあ、平行世界だとか、そういうのは聞いたことは有るが。
行動の一つ一つに分岐点があって、例えば別の世界では俺はラビと出会わずに普通に暮らしている、とか、元々存在しないとか、性別が違うとか。
でもこれはあくまで同じ世界の中であった出来事の分岐によって生まれる世界。根本的な世界は同じだ。
今回の話だと、まず世界そのものが別である。平行世界とは言えない。
「ここまで色々と話しちゃったけど、話を戻すわね」
「ん」
結構壮大な話になってしまったが、本来の話はエーテルウェポンについてだ。まあ、聞いた俺が悪いのだが、そっちの話に戻すとしようか。
「妖精世界はもう無い。いえ……正確には存在はしてるけど、とても生物が過ごせるような環境ではなくなってしまったわ」
「一応行けるの?」
「どうかしらね。でもエクスパンションは反転世界に入れる魔法。これを使えばもしかすると行けるかも知れないわね」
まあ、聞いた限りじゃ行った所で死にそうな場所だから行く気は起きないが……だが魔物の世界に行けるならそこで根絶やしにすればもう出てこなくなるのではないか?
でも、瘴気が蔓延ってるよな多分。身体に悪そう……悪そうっていうレベルではないか。それどれだけ居るかも不明だ。
「それで妖精世界に存在した武器であるエーテルウェポンがこの世界にあるのは実際あり得ない事よ。世界崩壊と共に消え去ったはず。でもエーテルウェポンじゃないと、魔力を奪う方法は思いつかないのよね。魔法で吸収するならまだしも、短剣でやってるようだし」
「ラビと同じようにこの世界に飛ばされた妖精がいる可能性は?」
歪に吸い込まれたって言ってたし、他にも吸い込まれて気付いたらこの世界に来ていたっていう妖精が居ても可笑しくはない。
ただこの場合だと、魔法少女を襲ってるのはラビと同じ妖精という事になる。各地で現れているのを聞いた感じだと組織的何かである可能性も。
「有り得なくは、無いわね。ただそうなると、妖精が何で魔力を奪ってるのかって話よね」
「魔力を使って何かを成そうとしてる?」
「そうね……それからそうなると、私とあなたと同じように強い力を持つ魔法少女が向こうにも居る可能性も出てくるわね」
……妖精が関わった魔法少女は基本的には群を抜く力を持つことが多いらしい。原初の魔法少女たちが強かったのはラビが居たから。
それは俺も例外ではなく……他にも妖精が居るなら同じように魔法少女を誕生させてる可能性もある。
……何か厄介な気がしてきたぞ。
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