Act.11:狙われたリュネール・エトワール②


 ――魔石。

 魔物を倒したときにドロップする、魔力の持つ石だ。その効果は一時的に魔法の力を強化したり、傷を癒やしたりなど様々な事が可能だ。


 そして魔力の回復も可能である。


「何故魔力が復活している!?」

「さあね」


 教える訳無いだろ。

 この男、魔力を奪っているという割には魔石の存在を知らなかったとか、お粗末様だな。まあ、俺も忘れかけていたが……思い出せて良かったよ。


「トゥインクルスターリボン!」

「!?」


 取り敢えず、逃す訳には行かないからこの魔法のリボンで縛り上げる。締め付けすぎると、殺ってしまう可能性があるのでそこは調節している。

 今まで倒した魔物の魔石、一つも使わずに持っているので全回復も容易い。回復してしまえば後はこちらの物である。リボンによる拘束を解こうともがいているようだが、これは魔法のリボン。そう簡単には解けないだろう。


「あまり時間はかけたくないから手短にする」

「くそ、解けない!」

「……」

「ひぃ!?」


 今の俺は多分、世界一良い顔をしていると思う。自分の表情はわからないけど、ラビが青くなっているのが見えるから効果はありそうだ。

 男の目の前にステッキの先端を突きつける。さっきまでの余裕そうな顔は何処かに消え、ただただ青い顔をしてこちらを見てくる。おいおい、男が情けないんじゃないのか?


 元の身体ならまだしも、今の俺はリュネール・エトワールだぜ? 女の子を見て青い顔するって……まあ良い。


「質問に答えろ」

「だ、誰が……」


 にっこり。

 男は更に顔を青くする。何か、これ楽しいな……っといかんいかん。変な性癖に目覚めてはいけない。

 

「まず、その短剣は何?」

「……」


 あまり時間はかけたくないんだよなあ……他の魔法少女たちに見られたらどうなるか分からん。泣くかも知れないし、とっとと終わらせたい。


「それ」

「あが!?」


 ステッキを軽く振りかざせば、リボンの締め付けが強くなり、男は変な声を漏らす。再びステッキを目の前に突きつける。


「答えて」

「ひい!? 渡されたんだよ! お前くらいの女の子にな!」


 ジロリと男を見る。

 依然顔は青いままではあるが、嘘は言ってなさそうだ。しかし、女の子? 俺くらい……15歳位って事か? そんな少女が何故こんな短剣を? 後でラビに調べてもらうか、エーテルウェポンかどうかとか。


「そう。じゃあ次の質問。何故魔法少女を襲う?」


 そう次はこれだ。

 何故こいつは魔法少女を襲うのか? 短剣で魔力を奪っているっていうのは分かるが、何のために? 何より……ブルーサファイア、いや蒼という一人の女の子にトラウマを植え付けさせたのは許せない。

 他の魔法少女については聞いてないが、怖かったはずだ。何度も言うが、魔法少女の本来は10代前半の年端も行かない少女たちだ。まだ子供である。


「早く答えて」


 そんな事考えてると余計に怒りが湧いてくる。ステッキを更に近づけると、男はもう青を通り越しで真っ白になっている。ちょっとやり過ぎたかな。


「い、言われたんだよ! その少女にこれで魔法少女を刺せって! 本当だ!!」


 少女に言われた、だと? そんな噓が……いや、これもまた嘘を言ってるように見えないし必死だな。短剣を渡したのも少女、刺せと言ったのも少女……まさか?


「そう。……嘘ではない?」

「ほ、本当だ!! 信じてくれ!」

「分かった。嘘言ってるようには見えなし。その少女について聞かせて?」


 一つの可能性が上がってくるが、まだそうと決まった訳ではない。取り合えず、その謎の少女について聞いてみる。


「分からないんだ! 一応お前みたいな感じの変わった服を着ていて手には杖みたいのを持ってた!」


 俺みたいな変わった服……うん、魔法少女の衣装って全部変わってるからな。可愛いからかっこいい系みたいな感じで。

 ホワイトリリーとブルーサファイアについては可愛い系だと思う。後は名前は知らないが、戦ってる魔法少女の中には騎士みたいな衣装の子もいたな。あれはかっこいい系か?


 いやまあ、それは置いとくとして。

 つまり、その少女と言うのは……やっぱり魔法少女なのか? バックに魔法少女が居るって言う説が正しかったのか?


「明らかに普通ではない頼みを、なんで聞いたの」

「し、仕方がないだろっ! あの少女は変な力を持ってるんだっ! 杖から魔物を出したり、変な魔法を使ったりしてたんだよっ! あれで脅されたんだ」


 魔法……なるほどな。やはり魔法少女か……でも、何だって? 魔物を出した?


「魔物を出した……?」

「ああそうだよ! 今回二体出ただろ? あれはそいつに出して貰ったんだよ」


 脅威度Aの魔物を二体も、出すって何者だ、その魔法少女!? いや、そもそも魔法少女なのか?


 ラビの話だと魔物は別世界からやってくると言ってた。それを、意図的に行えるだって? つまりその少女は世界を移動できるのか?

 ……いや、移動できるってのは言い過ぎかもしれない。そうではなく、他の世界から魔物を呼び出せるって事か?


「ありがとう」

「へ?」


 聞きたいことを聞けたので、拘束を解きステッキも離す。すると、男は呆けた顔をしていた。別にどうこうするつもりは無い。後は魔法省の仕事である。


 噂をすればほら。


「後は魔法省に任せる」


 見慣れた魔法少女が一人、こちらにやって来てるのが見える。軽く後は頼んだ的な感じのジェスチャーをした後、その場を立ち去ろうとしたが……。


「あ、待って!!」

「離して」

「離したら逃げるでしょ!」


 誰かに肩を掴まれる。これまた新しい魔法少女だな。

 ブルーサファイアを赤バージョンと言えば良いのか……その他にホワイトリリーと数名の魔法少女も居る。完全に包囲されてる件について。


「……何」

「すみません。リュネール・エトワール、話を聞かせてください」


 代表としてホワイトリリーが前に出てきてそう言ってくる。何の話? と思うが、まあおおよそ分かってる。そこの男についてだろう。


「分かった」


 最初の俺が刺された所を見てなかったら、俺がこの一般人の男に一方的に危害を加えたと捉えられてもおかしくない。

 仕方がないので、さっきまでの出来事を簡単に話す事にした。




□□□□□□□□□□




「なるほど、事情は分かりました。こちらも白状しましたし……いえ、疑ってた訳ではないのですけど、こういうのも仕事なのですみません」

「ん。問題ない」


 男も素直に白状したので俺に対する疑惑と言うのは消えた。と言うより、この場に居る魔法少女たち全員がそんな事は無いだろうと思ってたみたいだ。

 ……あれ? 俺野良なのにそんなに信じて良いのか?


「前に言いましたよね。魔法少女たちは皆あなたに助けられてお礼を言いたいって」

「ブルーサファイア……大丈夫なの?」

「ええ。お陰様で……っ」


 ブルーサファイアも居たようで、俺と目が合うと顔を赤くして慌てて目を逸らす。ん? 何かあったかな?


 それにしても、素を知ってると違和感がするな。でもまあ、理由があるんだろうし何も言わない事にする。それ言ったら俺も全然違うしな。


「そうよ、お礼言いたかったのにすぐ居なくなっちゃうんだから! だからこの場を借りるわね。助けてくれてありがとう」


 何処か強気な感じを見せる赤い少女がお礼を言うと、それに続いて他の少女たちにもまた同じように感謝される。

 ……確かに、何処かで見覚えのある魔法少女たちだった。


 因みに赤い子はレッドルビーと言うみたいで、真面目にブルーサファイアの色違いやん! と突っ込みたくなった。まあ性格は違うけどな……ツンデレになり切れてないようなそんな感じ。

 赤いヒロインってツンデレっていう傾向が強いが……でもあれアニメとかの世界だし。クラスはブルーサファイアと同じでBだった。


 それでそんな二人以外にも、ホワイトリリーを含み5人ほど居るのだが、全員がAクラスの魔法少女。

 茨城地域の精鋭しかいねえ……逃げようとしたらどうなった事やら。まあ、俺には姿を消せる魔法があるけども……。


「後は任せてください」


 ホワイトリリーがそう言って、男を連行するように、と他の魔法少女たちに指示を出す。魔法省に連れて行き、取り調べを受けるのだろう。


「この短剣は?」

「それはあなたが持っててください。本来は私たちが回収するのが道理ですが、私たちよりリュネール・エトワールの方が分かるかなと思いまして」

「分かった」

「その代わり何かわかったら教えてください」

「ん」

「ありがとうございます、リュネール・エトワール」


 それで会話が終わったと思ったのだが、何故かホワイトリリーはじっとこちらを見てくる。


「……何」

「いえ。先ほどブルーサファイアと仲良さそうに見えたので」


 あ、そうだった。

 ホワイトリリーは俺と言うかリュネール・エトワールの事が好きなのだ。他の少女と話していたら気になるのは仕方がないか。


 相変わらずじーっと見てくる。因みにブルーサファイアたちは既にこの場にはいない。男と魔法少女たちと一緒に魔法省へ戻って行ったから。

 この場に居るのは俺とホワイトリリーだけだ。


 さてさて、どうするかな。



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