初めての子守り(4)
◇
その翌日。
アダリネ様とユーイン様が出掛けられ、私はセレスティン様と二人で過ごすことになった。
ギルバート様に関しては、急用のお仕事ということでサイラスさんと共に出掛けられてしまった。
「セレスティン様。何されます~?」
クレアがセレスティン様に視線を合わせて、声をかける。すると、セレスティン様は少し考えたのち、私のワンピースをちょんとつまむ。かと思えば、私の目を見てきた。
「わたくし、シェリル様と二人でお茶会をするわ」
なんてことない風にセレスティン様はそういう。……昨日一日一緒に過ごして、セレスティン様はかなり私に気を許してくれたらしい。それを実感すると、何となく嬉しくなってしまう。
「えぇ、そうしましょうか。……クレア、マリン。お茶会の準備をお願いできる?」
「は~い!」
「かしこまりました~!」
クレアとマリンに指示を出せば、二人はてきぱきと動き出す。
そんな彼女たちを見つめていれば、セレスティン様はまた私のワンピースをちょんとつまむ。
こういうときは、何かしてほしいことがあるときなのだ。それを、私は昨日一日で悟った。
「どうなさいました?」
彼女と視線を合わせてそう問いかければ、セレスティン様は「お茶の準備が出来るまで、お庭の散策がしたいわ」と言ってくれる。……もしかして、お庭、気に入ってくれたのかしら?
「お庭、気に入ってくださいました?」
なんてことない風にそう問いかければ、セレスティン様はこくんと首を縦に振った。
「えぇ、王都にはあんなにも広々としたお庭、ないもの!」
「……そういえば、そうでしたね」
確かに辺境貴族のお庭は王都貴族のお庭の二倍くらいの敷地がある。王都貴族からすれば、かなり物珍しいのもうなずける。
「では、行きましょうか」
セレスティン様のお言葉にうなずいて、私たちはお庭に向かう。近くにいた年若い侍女にお庭に行ってくるとだけ伝え、私たちは歩き出す。
「あのね、シェリル様」
「どう、なさいました?」
歩いていると、ふとセレスティン様が声をかけてくる。そのため、私がそちらに視線を向けていれば、彼女は「……リスター伯爵の、どういうところがお好きなの?」と問いかけてきた。
……あまりにも突拍子もない質問で、私は固まってしまう。
(というか、十歳前後の女の子がこんな質問するの……!?)
十歳前後のとき、私は何をしていただろうか。……恋とか、そういうこと気にもしていなかったと思う。
セレスティン様、大人びているのね。
「え、えぇっと……」
しどろもどろになっていれば、セレスティン様はきょとんとしたような目で私のことを見つめてくる。
……回答を、待っている。
それは、一瞬で理解した。
「え、えぇっと……」
「……もしかして、恥ずかしがられているの?」
……やっぱり、大人びているわよね!?
心の中でそう思いつつ、私は苦笑を浮かべてこくんと首を縦に振る。
「そうなの、です。……私、ギルバート様のことが好きなのですが、人にお伝えするなんて……恥ずかしくて、その」
「まぁ、それって本気で好きっていうことじゃないの!」
何故か、セレスティン様が私の回答を聞いて目をキラキラとさせ始めた。
本当に、大人びすぎでしょう!?
「ふふっ、恥ずかしがるっていうことは、本気で好きということなのよ。……シェリル様、知っていらっしゃった?」
あ、でもこういうところはちょっと子供っぽいかもしれない。
そう思い、私は「そうなのですね……!」と感銘を受けたような反応をする。子供はこういう風にすればいい……はず。
「わたくしも、好きな人がいるの」
それはきっと、アダリネ様が昨日言っていた幼馴染の人のこと……よね?
「けれど、相手はわたくしのことを子供扱い。……五つしか、年齢離れていないのによ!?」
ほんの少し頬を膨らませながら、セレスティン様がそういう。
……年齢が五つなんて、可愛らしいものよね。私とギルバート様は十五も離れているわけだし。
(とはいっても、これくらいの年齢の頃は五つの年の差もすごく大人に見えちゃうわよね……)
なんだか自分の考えに妙に納得してしまった。
ということもあり、私はセレスティン様の目を見つめる。
「……シェリル様とリスター伯爵は、年齢がとても離れていると聞きましたの」
「えぇ、そうですよ」
「……いくつくらい、離れていらっしゃるの?」
きょとんとした純粋な目で、そう問いかけられる。
……これは、純粋な疑問ね。
「十五、です」
なんてことない風にそういうと、セレスティン様が固まられた。
「じゅ、十五!? わたくしの年齢よりも、離れていらっしゃるの!?」
「えぇ、そうですよ」
セレスティン様が大きな声を出されたので、私は胸に手を当てて淡々とそう告げる。
「でも、ギルバート様はとっても素敵なお方です」
「……そ、そうなの」
……あ、若干引かれているわ。
それを、私は察した。
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