初めての子守り(3)
セレスティン様を見ていると、思わず頬が緩む。
そんなこともあり、私はセレスティン様と視線を合わせるようにもう一度屈みこんでみる。
「こ、これからしばらく、よろしくお願いいたします……!」
「……えぇ、よろしくね」
どうやら、挨拶がしたかったらしい。私が出来る限りにっこりと笑ってそう言葉を返せば、セレスティン様はアダリネ様の背中に隠れてしまった。けれど、その表情は何処となく誇らしげだ。
「まぁまぁ、この子ったら……!」
アダリネ様が嬉しそうに笑っている。……きっと、これはセレスティン様にとってかなり勇気がいることだったのだろう。
……子供の成長って、早いものね。
(なんて、私はセレスティン様の昔のことなんて知らないのだけれどね……)
と思って、私は一人で自分の思考回路に突っ込みを入れていた。
◇
それから昼食を済ませ、ギルバート様とユーイン様はお二人でお話をされることとなった。
なんでも、昔のお話をされるらしい。
だからこそ、私とアダリネ様、セレスティン様はお庭の方を散歩している。
「ふふっ、あなたさまがいらっしゃってから、こちらのお庭はさらに美しくなったと、聞いておりますわ」
不意にアダリネ様がお庭を見つめながら、そんなことを言ってくださった。
……そういう風にうわさされていたのね。……やっぱり、嬉しい。
「なんでも、あなたさまは『土の豊穣の巫女』だとか。……リスター伯爵から、あなたさまのことはいくつか聞いておりますのよ」
ころころと笑われて、アダリネ様がウィンクを飛ばしてそうおっしゃる。……どういう風に聞いているのかは、聞かない方がいいのだろうか? でも、やっぱり気になってしまう……。
「……気になります?」
「やっぱり、少し……」
アダリネ様は私の気持ちを察してくださったらしく、そう問いかけてくれた。そのため、私はこくんと首を縦に振る。
すると、アダリネ様はころころと笑っていた。
「といっても、ただの惚気と自慢話よ。自分にはもったいないくらいの婚約者だとか、笑顔がとっても愛らしいとか」
「……っ」
「あぁ、あと、使用人からもよく慕われているとおっしゃっていたわ。ふふっ、最近では自分よりも慕われているんじゃないかって、やきもちを焼いていらっしゃったくらい」
……なんていうか、聞いていて恥ずかしいことだった。
その所為で私が視線を下に向けていれば、セレスティン様がきょとんとした表情で私のことを見つめてくる。
「……シェリル様、照れていらっしゃるのね」
「こら、セレスティン!」
セレスティン様の言葉に、アダリネ様が軽く注意をしていた。……注意する必要なんて、ないわ。だって、真実だもの。
「え、えぇ、セレスティン様のおっしゃる通りです。……その、少し、恥ずかしくて」
熱くなった頬を押さえながら、そう言葉を告げる。
「その……好きなお方に褒められるって、どうしようもないほどに嬉しくて」
ほんの少しはにかみながらそう言うと、セレスティン様が私の方に近づいてくる。
それから、私のワンピースをちょんと握る。
「わ、わたくしも、分かるわ。……その、好きな人に褒められるのは、照れくさいものね」
「……まぁ、セレスティンったら」
アダリネ様がセレスティン様のお言葉に、反応する。……もしかして、セレスティン様には好きなお方がいらっしゃるの?
「全く、申し訳ございません、シェリル様。この子、最近年上の男の子に惚れていて……」
「……そうなの、ですか?」
「えぇ、近くに住む幼馴染の子爵令息なのだけれど……」
「お母様!」
セレスティン様が、慌ててアダリネ様の方に飛んでいく。……恋する気持ちをばらされて、恥ずかしいのだろう。私だって、同じ立場だったらそう思ってしまうものね。
(そう考えたら、セレスティン様は年齢よりも大人びているのかしら……?)
私がセレスティン様くらいの年齢のとき、恋なんて知らなかったし……。
うん、セレスティン様の方が私よりも大人びているのね。そういうことにしておきましょう。
「しぇ、シェリル様! 今のお話、内緒にしてくださいませ……」
「えぇ、そうね」
あまりにもセレスティン様が必死なので、私はにっこりと笑ってそう言葉を返していた。
……なんとなく、楽しい子守りになりそうだ。心の中で、私はそう思っていた。
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