コミカライズヒット記念小話
初めての子守り(1)
※おかげさまでコミカライズの方がヒットしております(n*´ω`*n)
その感謝の気持ちを込めまして、1本小話を掲載します!
ちょっと長めですが、お付き合いいただけると幸いです!
――
「じゃあ、セレスティン。大人しくしているのよ」
「リスター伯爵や、婚約者様に迷惑をかけないでくれよ?」
「わかっているわ。わたくし、もう子供じゃないもの」
可愛らしい女の子が、胸を張ってつんと澄ました態度を取る。
その女の子――セレスティン様のご両親は、心配そうにセレスティン様を見つめつつも馬車に乗り込まれた。
(……これも、伯爵夫人としての一歩だものね)
本日、私、シェリルは――生まれて初めての、子守りをします。
◇
「え? お客様、ですか?」
「あぁ、実は親戚が数日屋敷に滞在することになった」
それを切り出されたのは、朝食の席でのことだった。
相変わらずきれいな仕草でたくさんの量を食べられているギルバート様を、ぽかんと見つめる。
そうすれば、彼はゆるゆると首を横に振っていた。
「いや、大したことじゃない。ちょっとした旅行で辺境に来るらしくてな。うちの親戚筋ということもあって、うちに滞在したいという申し出があったんだ」
ということは、お相手は王都貴族なのね……。
(王都貴族には、あまりいい思い出がないのだけれど……)
そう思っても、仕方がない。
それに、いつかは王都貴族の方々とも交流しなければならないかもしれない。今回は、その第一歩ということ……よね?
「……お相手は、どちらさまですか?」
私はあまり貴族に詳しくないけれど、一応聞いておこう。親戚筋ということは、今後関わることも多いだろうし……。
「テュレル子爵家の当主夫妻とその娘だ」
「……えぇっと、リスター家の先々代の当主夫人の出身のおうち、ですよね?」
「あぁ、そうだ。……よく覚えていたな」
そこら辺は、サイラスさんに厳しく教えられているので。
なんて言えるわけもなく、私は「たまたまです」と言いながら頷く。
「まぁ、そこの当主、ユーインが滞在させてくれと頼んできたんだ。……年も近くて、俺も昔は親しくしていたし、断る意味もないと思って引き受けたんだが……」
ギルバート様がそこまでおっしゃって、私にちらりと視線を向けてこられる。
……どうやら、私が心配らしい。
(そりゃあ、いろいろ言われるのは覚悟の上よ。だから、大丈夫)
自分自身にそう言い聞かせ、私はにっこりと笑った。
「大丈夫です。問題ありません。ギルバート様が決められたことならば、私はそれに従うまでですから」
凛と背筋を正してそう言うと、ギルバート様は「……悪いな」とおっしゃって眉を下げられる。……別に、謝罪されるようなことじゃないんだけれど。
「というわけで、明日こっちに来るそうだ。……で、シェリルに一つ頼みがあるんだ」
「……頼み、ですか?」
「二日目、ユーインとその妻である夫人アダリネは辺境貴族の家で開かれる茶会に参加するらしい」
「……はぁ」
「だからな、テュレル子爵家の令嬢、セレスティン嬢の面倒を、シェリルに見てほしいんだ」
なんてことない風に、ギルバート様はそうおっしゃる。おっしゃるのだけれど……。
(それって、いわば子守りでは?)
いや、セレスティン様が何歳なのかは知らないけれど、お父様がギルバート様と同年代ということは……ううん、これは考えない方向で行こう。まぁ、とにかく社交界デビューがまだということから、お留守番ということね。
「生憎と言っていいのか、俺は子供に怖がられることが多くてな。……昔セレスティン嬢に会ったこともあるんだが、大泣きされた」
「……そうなのですね」
なんだろうか。上手なフォローが思い浮かばない。
実際ギルバート様は多少なりとも強面だし、怖がられるのも仕方がないのかもしれないけれど。
「というわけだ、頼めるか?」
少し不安そうにギルバート様がそう問いかけてこられる。
……子守りは、したことがない。エリカとは年が近かったから、子守りらしき子守りなんて未経験。
でも……いずれは母親になるのならば、ここで少しでも特訓しておくのは悪いことじゃないと思う。
「はい。ぜひ」
そう思って、私はにっこりと笑ってそう言う。そうすれば、ギルバート様は「ふぅ」と息を吐かれていた。
……どうやら、私が引き受けるかどうか不安だったよう。
(それにしても、子守りってどうすればいいのかしら……?)
だけど、それまでに一応勉強しておかなくちゃ。使用人の中にも子持ちはいるから、彼女たちから何かお話が聞けたらいいのだけれど……。
「セレスティン嬢もこんな怖い顔の男よりも、シェリルのような優しそうな女性の方がいいだろうからな」
ボソッとつぶやかれたギルバート様のそのお言葉は、聞いていないことにした。……しっかりと、ばっちりと聞こえていたけれど。
(私は、ギルバート様のこと怖いなんて思わないのだけれど……)
多分、私は小さくてもギルバート様になついていたと思うけれど。だって――このお方は、本当はとってもお優しいお方だから。
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