いちゃらぶ、所望します! 4(ギルバート視点)

 妻が可愛い。可愛すぎる。


 こんな感情、シェリルと出逢う前の俺だったら、絶対に抱かなかった感情だろう。


 隣ですやすやと眠るシェリルの桃色の髪の毛を撫でながら、俺はそんなことを考えていた。


(……これは、相当)


 わかっていたことだが、俺はシェリルにべた惚れらしい。十五も年下の女に入れ込んで……と、周囲の人間は思うかもしれない。が、それくらいシェリルには魅力があるのだ。


 出逢った頃。婚約者となった頃。結婚してから。


 いつ思っても、可愛くて仕方がない。


(……いつか、俺とシェリルの間にも子供が出来るんだろうな)


 それは貴族としての義務だ。血をつなぎ、家を繁栄させる。


 しかし、そんな感情を抜いてでも、俺はシェリルとの子供が欲しかった。


(子供は何人いてもいいな。……男と女、一人ずつは欲しい)


 娘だったら、シェリルにそっくりな可愛らしい子が欲しい。息子だったら……そうだな。シェリルに似た優秀な子が良いな。


 シェリルそっくりだったら、サイラスだって文句を言うまい。……ようやく俺が結婚したと喜ぶ母も、孫が出来れば少しは大人しくなるはずだ。


 そう思いつつ俺がシェリルの髪の毛を撫でていれば、その手をほかでもないシェリルに掴まれた。


 ……起こしたか?


 そんな風に思ってしまうが、シェリルはその手を握ってすぐにまた寝息を立て始めた。……何だこの可愛らしい生き物は。


「シェリルは……こんな俺を好きだと言ってくれる。だが、悪いな」


 ――俺の方が、ずっとシェリルのことが好きなんだ。


 少なくとも、それだけは思う。人が想像する以上にずっと重たいのが、俺だ。


(……そういえば、奴はどうしているんだろうな)


 ふと思い出したのは……俺の女性嫌いのきっかけとなった元婚約者のことだ。


 昔はあの元婚約者が憎たらしくて仕方がなかったが、今ではむしろ感謝している。……シェリルと出逢わせてくれたのだから。


「……だんなさま?」


 それから幾分か経った頃。不意にシェリルが目を覚ました。彼女は俺の顔を見てにっこりと笑う。


「……あぁ、シェリル、起こしたか」


 少し眉を下げてそう言うと、彼女はゆるゆると首を横に振る。……これは、俺に気を遣わせないとするための嘘だろう。


「……何を、考えられていましたか?」


 シェリルは勘が良い。そのためなのか、そう問いかけてきた。……元婚約者のこと、なんて言えるわけがない。


「いや、シェリルは可愛いなと思っただけだ」


 ふっと口元を緩めてそう言うと、シェリルは嬉しそうに頬を緩めた。その表情があまりにも愛おしい所為だろうか。頭が痛い。


「嬉しいです」


 けれど、シェリルはそれだけを言うとまた眠ってしまった。……小悪魔にもほどがある。


(……まぁ、今後ずっと一緒なわけだしな。たくさん、愛さなくちゃな)


 家族から愛されてこなかった孤独な少女を、たくさん愛さなくては。


 それが、今からの俺に課せられた使命なのだ。


「……シェリル、好きだ」


 彼女の前髪をかき上げて、額に口づけを落として、俺はそんなことを呟くのだった。

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