第47話 エピローグ(1)

 それから、瞬く間にことは進んだ。私はギルバート様が呼ばれた鑑定士の方に鑑定され、『豊穣の巫女』であると正式な認定を受けた。イライジャ様はそれがきっかけになり、投獄。罪状は『豊穣の巫女』への殺人未遂だそうだ。そして、アシュフィールド侯爵家は不正と『豊穣の巫女』を王国に報告しなかったという罪で没落。ギルバート様のお言葉通り、父と継母は一旦投獄され、エリカは平民落ち。もう、貴族社会でエリカを見ることもないのだろう。


 最後に、私はといえば……つい先日、婚約の書類を王都の教会の方に提出し、正式にギルバート様の婚約者となった。今すぐにでも正式な婚姻を、とギルバート様は思ったそうなのだけれど、どうにもリスター家は伝統で婚約期間が最低一年はないといけないらしい。というわけで、私はこれから一年間リスター家に住みながら花嫁修業に明け暮れる日々になりそうだ。……花嫁修業は少し怖いけれど、それでもこれからの日々を考えれば幸せ……なの、かな?


「シェリル。こんなところにいたのか」

「……はい、本日もお庭のお世話をしておりました」


 その日も、私はいつも通りお庭の整理をしていた。今日は日差しが強いので、日傘はきちんと差している。……というか、マリンが日傘を持って離れてくれないというのが大きい。クレアはまだ大事を取って静養中なので、私の専属侍女はマリン一人。だからだろうか、責任感がすごく強くなっているというか……。


 ついでに言うと、ギルバート様はついに私のことを「シェリル」と呼び捨てにしてくださるようになった。ギルバート様曰く、前々から呼び捨てにしたかったそうなのだけれど、緊張して呼べなかったとかなんとか。……やっぱり、十五も年上だと思えないほど不器用な人。ちなみに、私は相変わらず「ギルバート様」呼び。


「マリンも、ご苦労だな」

「いえ、それが私の仕事ですので」


 私は庭のことになるとそこら中動き回るので、正直マリンが疲れていないか心配になってしまう。それでも、マリンはにっこりと笑ってそう言ってくれているから、大丈夫なのだろう。……マリンは、嫌なことは嫌だと態度に出すタイプみたいだし。


「ギルバート様? 突然どうされたのですか? 私に、何か用件があるのですか?」


 マリンを労うギルバート様に、私はそう声をかけた。……決して、妬いているわけではないわよ? だって、ギルバート様がこの時間帯に私の元を訪れるのはとても珍しいことだもの。普段は、昼間はお仕事のために執務室にこもりっぱなしにされているからね。何か、あったのかしら?


「いや、用件というほどの用件ではない。……ただ、少し仕事が片付いたし、せっかくだからシェリルの世話をしている庭でも散歩するか、と思って……な」

「そういうことでしたのね」


 ギルバート様は、時々気分転換にお庭を散歩されているらしい。多分、今回もそういうことなのね。……昼間というのは、珍しいのだけれど。


 ……それに、はっきりといえば私の世話をするお庭は生き生きとはしているものの、まだまだデザインなどが未熟。庭師の手を借りながら、ゆっくりと成長をしているとは思うけれど……。


「ですが、私のお庭よりも庭師の方が上が世話をしているお庭の方が、綺麗ですよ。……その、私はまだまだ未熟ですから……」

「いや、今日はシェリルが世話をしている庭にする。……それに、わざわざリスター家のためにいろいろと考えてくれているのだろう?」


 ……確かに、そうだけれど。そう思って私は俯いてしまうけれど、それ以前に私がリスター家のために頑張ろうとしていることは、ギルバート様にはお話していない。……どこかの誰かが、勝手に教えたのね。後で、しっかりとくぎを刺しておきたいぐらいだわ。……せっかく、内緒にして後で驚かせようと思ったのに。


「……シェリル?」

「私……その、そのことは、内緒にしていたのですけれど……?」


 いじけたような目でギルバート様を見つめてそういえば、ギルバート様は一瞬にして「やってしまった」というような表情になられる。……まぁ、別にいいのだけれど。バレてしまった以上、もう隠し通すことは無理だろうし。この際、開き直ってしまおうか。……そう思えるようになっただけ、私は強くなっている。


「まぁ、よろしいです。バレてしまった以上、今後はもっと堂々と行動します」


 今までは、バレないように気を使って行動をしていた。けど、それももうお終いね。これからは、堂々とリスター家のために動いてみたい。そう思って私がギルバート様に微笑みかければ、ギルバート様は露骨にそっぽを向いてしまわれる。……それからしばらくして、私の方にぎこちなく手を差し出してこられた。


「ウィリスローズが、見たい。案内してくれ」


 その手と同時に、そんな言葉をかけられる。なので、私は笑みを浮かべて「はい」と返事をしてその手に自らの手を重ねた。ウィリスローズが咲いているのは……ここから、もう少し歩いた場所。私が、ガーデニングを始めた、場所。

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