閑話1 新しい妻候補(?)(ギルバート視点)

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 ウィリス王国の端の端にある東の領地を治めるリスター辺境伯爵家。それが、俺の生まれ育った家だ。


 俺の名はギルバート・リスター。強面な顔立ちと、ガタイの良い体格から女性からは遠目に見られており、浮いた話の一つもない。そんな俺は、今年三十三を迎えた。最も気を許している執事には「そろそろ奥様を迎えていただかないと……」と文句を言われまくっているし、両親からは「孫はまだか」と急かされている。だが、俺は女性が大層嫌いだ。確かに跡継ぎを残す必要はあるかもしれないが、最悪遠縁の親戚から養子を貰えばいいし、俺の子である必要性は全く感じられない。


 このまま、一生女性嫌いを拗らせて生きていくのだろうな。そう、思っていた時――王都に邸を構えるアシュフィールド侯爵家から、一人の少女が送り込まれてきた。それも、俺の「妻」として。


 ☆★☆


「ですから、シェリル様は旦那様にお似合いだと思うのです。努力家同士、互いを高め合う関係を築けるかと……」

「おい、サイラス。お前、最近言っていることが変わっていないか?」


 執事のサイラスの言葉に、俺の顔は若干ひきつった。アシュフィールド侯爵家から送られてきた少女――シェリル嬢は、極上の容姿をしていた。桃色の艶やかな髪。美しい水色の瞳。男性ならば誰もが虜になりそうな美貌。アシュフィールド侯爵によれば、婚約者に婚約を解消されたので、是非とももらってやってほしいということだった。正直、俺の元にこういう風に行き場を失った少女が送られてくることは多いし、今回も適当なところに嫁入りさせてことを済ませようとしていた、のだが――使用人たちが、シェリル嬢のことを気に入り始めたのだ。


「いえいえ、私は彼女のことを勘違いしておりました。やはり、王都貴族の娘はダメだ。そう言う、思い込みがありまして……」

「……そうか」


 サイラスは、王都貴族が大嫌いだ。そのため、俺の元に送られてくる少女全員に冷たい態度を取っていた。しかし、サイラスは気が付けば、シェリル嬢を大層気に入っていた。「努力家だ」「性格も大層よろしい」「何よりも、旦那様を支えてくださるでしょう」。そんな言葉を並べ、サイラスは俺とシェリル嬢を婚姻させようとし始めた。……でも、考えてみてほしい。俺は三十三。それに対してシェリル嬢は――十八。年の差が、ありすぎるだろう!?


「……こんなことを言ったら申し訳ないが、俺とシェリル嬢では年が十五も離れている。シェリル嬢からすれば、俺は立派な『おっさん』予備軍だ」

「いえいえ、シェリル様に好みのタイプを問いかけた際『優しい人』とおっしゃっておりましたよ? 年齢については、気にしないとおっしゃっておりました!」

「それは多分、オブラートに包んでくれたのだと思うぞ……」


 俺がいる手前、年齢のことは言えないだろう。そう思ったから、シェリル嬢は好みのタイプに無難に「優しい人」と答えたのだろう。それは、容易に想像がつく。それに、噂を調べれば彼女の婚約者は優しい人ではなかったらしい。もしかしたらだが、そのこともあるから優しい人が良いのかもしれない。


「料理人が、最近は美味しそうに食事を摂ってくださると喜んでいました。しかも、顔を合わせればきちんとお礼まで言ってくださると。……そんなお方が、王都貴族にいたなんて……!」

「……一つ言うが、王都貴族にもシェリル嬢のような人間は、多分他にもいるぞ」


 確かに、王都貴族はプライドが高く、辺境貴族を見下しているところがある。リスター辺境伯爵家も、面と向かっては言われないが、裏では「田舎貴族」と蔑まれていることを俺は知っているし、蔑んでいる家の正体も知っている。だが、行動をしないのはただただ面倒くさいから。争いになればあっという間に勝てるだろうが、無駄な血は流したくないのだ。


「庭師が、楽しそうに土いじりをしていらっしゃると言っておりました。虫が出ても、嫌がらずに生かしておくとか……」

「多分、それは虫がそこまで嫌いじゃないからだぞ」

「クレアとマリンも、仕えていて楽しいと言っていました」

「あの二人は、年の近い友人が出来たような感覚なのだろうな」

「メイドたちも、こんな素敵な人が奥様になってくだされば……と言っておりました」

「……もう、何も言うまい」


 今まで俺の元に送り込まれてきた令嬢は、結構な問題児が多かったため、多分シェリル嬢のようなタイプが物珍しいのだろう。だが、ここまで使用人に好かれているところを見ると、少し興味が……って、ダメだダメだ。俺は十五も年下の少女に、恋など出来ない。


「……旦那様も、そろそろトラウマを乗り越えてはいかがでしょうか? そんな、たかが一度浮気された挙句、自分が捨てられたからと言って……」

「お前な、それをされた方がどれだけ傷つくか知っているか?」

「ですが、シェリル様も同じ境遇ですが、彼女は割り切っていますよ?」

「……」


 確かに、シェリル嬢も同じ境遇らしい。しかし、彼女は悲しい表情一つ見せず、ここで生きようとしている。……そう考えたら、一つのトラウマを言い訳にして、結婚をしない俺の方がずっと子供ではないだろうか?


「ぜひぜひ、シェリル様との婚姻を真剣に考えてくださいな!」


 サイラスは、そう言って楽しそうに笑う。……手のひらクルクル回しまくりだな。シェリル嬢も、戸惑うだろう。


(あのシェリル嬢という娘は、大層強いのだな)


 あの美しい顔立ちで、俺よりもずっと強い。それは――理解できた。

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