第11話 双子侍女のお屋敷案内

「シェリル様。本日は、どうなさいますか?」

「予定がないのでしたら、お屋敷案内などいかがでしょうか?」


 それから約一時間後。朝食を済ませ、与えられたお部屋に戻ってきた私は、見事に何もすることがなかった。元より、趣味などないに等しいのだ。刺繍もあまり得意ではないし、読書もあまりしたことがない。


 そんな私の様子を見たクレアとマリンは、突然そんな提案をしてくれた。二人に「……良いの?」と私が問いかければ、二人は満面の笑みで「はい!」と返事をくれる。そのため、私は二人の提案に乗ることにした。……何もすることがないよりは、良いのだ。


「案内できる場所も限られていますが、シェリル様が使用することになるスペースをメインに案内させていただきますね!」

「……シェリル様は、趣味などありますでしょうか?」


 私がこのリスター辺境伯爵家の屋敷を案内してもらおうと立ち上がった時、マリンがそう問いかけてくる。……趣味。先ほど言った通り、私に趣味などない。というか、趣味をする余裕などもなかった。


「いえ、趣味はないわ。刺繍とか読書も、あまり得意ではないの」


 貴族の令嬢の主な趣味と言えば、刺繍と読書だろうか。でも、私はその二つがあまり好きではない。だから、そう答えればクレアはしばし考えたのち「……では、ガーデニングはどうでしょうか?」と楽しそうに言う。……ガーデニングとは、あのお花とかを育てる奴だろうか?


「……ガーデニング」

「はい、庭師に頼めば小さなスペースを貸してくれると思います。滞在時間も限られているので、ちょっとしたお花ぐらいしか育てることは出来ないでしょうが……」


 クレアは、そう続けた。……ガーデニング。少し、興味があるかもしれない。お花とか見るのは元々結構好きなのだ。育てることが出来るのならば……ちょっと、やってみたいかもしれない。


 そんな私の気持ちを汲み取ってくれたのか、クレアは「では、お屋敷を案内した後、庭師に頼んでみますね!」と言ってくれた。……何を、育てようかしら? 今の時期に咲くお花を後で調べてみなくちゃ。


「この時期に咲くお花を、調べたいわ。図鑑とか、あるかしら?」

「そうですねぇ……。図書室に行けばあると思います。ただ、旦那様の許可なく立ち入ることが出来ませんので……」


 マリンが、私の言葉に眉を下げてそう返してくれる。……やはり、図書室は立ち入り厳禁なのか。まぁ、その家の蔵書とか置いてあるから、当たり前と言えば当たり前なのだけれど。……だったら、本日の夕食時にでもギルバート様に交渉してみるのもいいかもしれない。ギルバート様は出来る限り関わってくるなとおっしゃっていたけれど、必要なものがあれば遠慮なく言ってくれともおっしゃっていたもの。……図鑑ぐらい、いいわよね?


「では、本日の夕食時にギルバート様にちょっとお願いしてみるわ。図鑑だけ、あればそれでいいの」

「それでしたら、きっと許可をくださると思いますよ」


 私の言葉に、クレアがそう言ってくれる。その言葉を聞いて、私はゆっくりと与えられたお部屋を出て行く。まずは、客人が使えるお部屋を案内してくれるそうだ。……とはいっても、大したものはないらしい。やはり、重要フロアは主一家が住まう二階に集中しているのだろうな。


「シェリル様は……旦那様のことを、どう思われていますか?」


 屋敷を案内してもらっていると、ふとクレアがそんなことを言ってくる。……ギルバート様の、こと。あえて言うのならば、私もあのお方のことを「年の離れた兄」だと思うことにしている……ということぐらい、だろうか。あと、噂ほど怖いお方ではないということ。結構、優しい人だということ。


「そうね。噂ほど怖いお方ではないと思うわ。むしろ、お優しい人だと思っているの」


 私が歩きながらそう言うと、クレアとマリンは一旦顔を見合わせる。……何か、おかしなことを言ったかしら? そう思って私が内心少し不安に陥っていると、クレアとマリンは「そうですよね!」と笑みを浮かべて言葉を返してくれた。……間違ったことを言ったわけでは、ないらしい。


「私たち……その、旦那様に拾われて、ここで働かせてもらっているのです。なので……その、旦那様には恩を返しても返しきれず……」

「私たちは、精一杯お仕えすると決めているのです! あと、旦那様にいずれお似合いの奥様が出来ると良いなぁとも思っております!」


 マリン、クレアの順で二人はそう言った。……ギルバート様には、そう言う一面もあったのね。だけど、それよりも……あの人に、お似合いの奥様など出来るのだろうか?


「そうなのね。だけど……その、ギルバート様にお似合いの奥様って……出来るもの、かしら?」

「そうですよねぇ。旦那様、大層女性嫌いを拗らせてしまっていますから……」


 私がぼやいた言葉に、クレアは同意し、マリンはうんうんと首を縦に振っている。でも、ギルバート様はお優しい。だったら、いずれは――。


「――でも、いずれはギルバート様の良さを分かってくださる女性が、現れると思うわ。……それを待つしか、今は出来ないのではないかしら」


 優しい人には、それ相応にいいことがある。私は、そう信じていた。

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