第16話:どういう関係?

 午後三時前。小桜さんについて行きたがるリーリエを連れて、小桜さんと別れる。駅の方に歩いているとリーリエがぴたりと足を止めた。

 視線の先には姐さんと、姐さんが愛人だと言っていた例の先輩。一条いちじょうみのりさんといい、王子の従姉の空美先輩のバンド仲間らしい。担当パートはヴァイオリン。


「あの二人、どう思う?」


「愛人って雰囲気ではないよね」


「流石に私もあれは冗談だと思ってるけど、気になるよね。よし、尾行するか」


「しねぇよ馬鹿」


 と話していると、二人の後ろから自転車が近づいてきた。姐さんがさりげなく先輩の腰を抱き寄せて、車道と逆側に寄る。そして車道側にいた先輩と位置を変わってそのまま平然と歩き始めた。先輩は固まっている。姐さんはしばらく歩いて、先輩がついてきていないことに気付いたのか振り返る。先輩はハッとして、小走りで彼女の元へ行き、二歩後ろくらいをついて歩いていく。一部始終を見ていたリーリエが「ナイス道路交通法違反」と親指を立ててつぶやいた。


「いや、そこは流石に親指立てちゃ駄目だろ」


 ツッコミを入れると、姐さんが私達の方を見た。釣られて一条先輩も振り返る。バッチリ目があってしまった。


「何。知り合い?」


「まぁ、うん」


「尾行なんて、良い趣味ね。流石貴女のお友達」


 嫌味を言われてしまった。しかし、不快にさせるようなことをしたのはこっちだ。頭を下げて謝罪し、リーリエの頭も下げさせる。実さんは何も言わずに歩き去っていく。怒らせてしまったと反省していると、姐さんが戻ってきて「八つ当たりしてるだけだから気にしなくて良いよ」と言う。


「満。勝手なこと言わないで。後をつけられたら誰だって不快でしょう」


「あんただってこの間私のこと尾行してたくせに。人のこと言えないっすよ」


「あ、あれは……だって……」


「心配しなくてもちゃんとは守りますよ。あんたと話せなくなるの寂しいし」


「……何よ。わたしのことなんて好きじゃないくせに」


「そうですね。けど、嫌いでも無いです」


「わたしは嫌い。貴女なんて大嫌いよ」


「知ってます」


「ふん」


 ぷいっとそっぽを向くそぶりをして、歩き去っていく先輩。姐さんは「ほんとめんどくせぇなあの人」と、言葉とは裏腹にどこか楽しそうに笑って、私達と別れて先輩の後を追った。


「ついて来ないで」


「デートなのに?」


「今日はもう良い。帰る」


「えー。せっかく可愛い格好してきたのに。もう良いんですか? 今日の私、最高に可愛いのに。もっと堪能しなくて良いんですか?」


「その態度のせいで可愛くない」


「見た目は満点ってことっすね」


「中身で大幅に減点よ」


「でも見た目は良いと」


「うるさいわねもう! 可愛いって言えば良いんでしょ! 可愛いわよ! 中身が貴女じゃなければね!!」


「実さんも今日可愛いね。可愛い私の隣に並ぶに相応しい」


「なんでそんなに偉そうなのよ……あぁ……貴女と居ると調子が狂う……」


「可愛いは正義ですからね」


「うるさい。バーカ」


「馬鹿でも可愛いから大丈夫です」


「そのクソみたいな性格なんとかしなさい」


「ははっ。性格悪いのはお互い様だろ」


 などと夫婦漫才のようなやりとりをしながら遠ざかっていく二人。二人の声が聞こえなくなったところで「あのやりとり、永遠に聞けるわ」とリーリエが拝みながら呟いた。

 後日姐さんに、彼女との関係を再度確認してみると「前にも言ったろ。愛人だって」と返された。恋人ではないとのこと。結局二人の関係は謎のままだ。

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