第11話:姐さんと先輩
野外学習から数週間経ち、7月に入った。
「姐さん居るー?あ、居た。姐さーん!」
ここ最近、他クラスの背の高い女子がよくやってくる。彼女の名前は
「……新たな百合フラグか?」
思わず呟くと、彼女が私の方を見た。目が合った。
そして何故か逸らされる。
「……百合は好きだけど百合ヲタは苦手なんだよね。私」
そんな呟きが聞こえた。もしや、私のことだろうか。姐さんがちらっと私を見てそして松原さんに何かを言う。すると松原さんはもう一度私を見て、近づいてきた。
「……姐さんとはただの友達だから。変な勘違いしないでくれる?私、恋人居るから」
「ご、ごめん……」
「……百合、好きなの?」
「えっ。う、うん」
「……私も好きだよ」
「あ、そうなの?」
「……けど、百合とかBLが好きなくせに、リアルな同性愛は引くとか言う奴らは大嫌い」
「それは……私も嫌いかな」
そう答えると、彼女はふっと柔らかく笑った。
「そう。なら良いや。君、白井さんとよく一緒に居る子だよね。私は松原咲。君は?」
「えっと百合岡姫花です」
急に態度が一変したことに戸惑っていると、彼女はその理由を話してくれた。彼女も王子と同じく同性愛者で、百合ヲタだが、百合ヲタ仲間の『二次元なら良いけどリアルな同性愛は引くよね』という心無い言葉に傷付けられて来たらしい。
「……君らもそうかと思ってちょっと警戒してた。ごめんね」
「いやいや。こちらこそ。姐さんと咲ちゃんで妄想してごめん」
「……まぁ、良いよ。ちなみにどっちがどっち?」
「どっちとは」
「受け攻め」
「それ聞く!?」
「うん」
「……姐さんは誰が相手でも左固定だと思う」
「だよね。絶対バリタチだよねあの人」
目を輝かせて握手を求めてきた。
「自分×他人のそういう話平気なんじゃん」
「姐さんならまだ平気。鈴木くんは無理」
「……ふぅん。咲ちゃんは私になら抱かれても良いと」
話を聞いていた姐さんが松原さんの背後から囁く。松原さんは身の危険を感じたのか飛び退き、私の後ろに隠れた。姐さんは松原さんが退いた席に座って足を組み、冗談だよと悪戯っぽく笑った。
「恋人が居る女にわざわざ手出さねぇよ。めんどくせぇじゃん」
「うわっ。
「クズだ」
「冗談だって。別にお前らが思ってるほど遊んでねぇよ」
「いや、絶対遊び慣れてる」
「恋人が居る女に手出すとめんどくせぇとか、遊び慣れてるクズしか言わないっすよ。姐さん」
「冗談だつったろ」
「「冗談に聞こえなかったっす」」
「私そんなクズっぽいのかなぁ」苦笑いしながらため息を吐く姐さん。見た目だけなら確かに遊んでいるようには見えないが、普段のキャラを見ていると——
「……事後にタバコ吸ってそう」
分かると言わんばかりに松原さんが深く頷いた。
「典型的なクズじゃねぇかよ。どうなってんだよ私のイメージ」
「あら。クズなのは事実じゃない」
急にしれっと会話に参加してきたのは見知らぬ二年生。いや、よく見ると以前姐さんを「弁当持って来なさい」と呼び出していた人だ。
「なんすか実さん。私に何か用?」
「これ。貴女のシャーペンでしょう。わたしの筆箱に入ってたわ」
「あぁ。やっぱそっちにあったのか。勉強した時に混ざってたんすね。あざっす」
「全く。気付いたなら自分から取りに来なさいよ」
「実さんが私に会いに来る口実に使えると思ってあえて放置しておいてやったんだよ」
「貴女、ほんと生意気ね。届けずに捨ててやればよかった」
「ははっ。届けてくれてありがとね」
「次入ってたら捨てるからね」
そう言って先輩は去って行った。以前呼び出しに来た時は不穏な雰囲気だったがこれは……。
「前から思ってたけど、姐さんと実さんってさ、一体どういう関係?仲悪そうで実は仲良いよね?」
松原さんが私の疑問を代弁する。すると姐さん冗談っぽく笑ってこう答えた。
「私、あの人の愛人なの」
果たして一体、どこまでが本気でどこまでが冗談なのだろうか。結局彼女と姐さんの関係は分からずじまいだった。
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