第12話:歓迎会も兼ねて

 夏休み直前のある日のこと。


「今年も夏休みは部活一切無いから」


「えぇー!部活ないんですか!?」


「いや、ないだろ普通に。やることないし」


 飛鳥先輩の言う通り、漫画研究部はいつも暇だ。ほとんど活動が無い。だから彼女はこの部活を選んだのだという。青商には、必ずどこかの部活に所属しなければならないルールがあるから。制服の件では最先端を行っているが、そういうところは古臭い。出席番号も男女混合ではなく男子が先だし。私はどちらにせよ後ろの方にくるから関係ないが、LGBTに対して配慮をするというなら混合にすべきだと思う。


「はぁー……合宿とかしたかった……」


「なんだよ漫研の合宿って」


「あ、じゃあ、うちの別荘で擬似合宿するか?合宿というか、お泊まり会だな。そういえば歓迎会も結局やってなかったし、ちょうど良いな」


 今、部長がサラッと凄いこと言った気がする。


「……えっ。別荘?えっ?」


「心配するな。あまり使ってないがちゃんと手入れはしてある。定期的に管理会社が——「「いやいや、そこじゃなくて」」む?」


 思わずリーリエと声がハモる。


「部長ってもしかして、良いところのお嬢様?」


「いや、普通の家だが」


「普通の家は別荘なんて持ってないでしょ!」


「ただ単に両親が医者というだけで別にお嬢様では……」


「家にお手伝いさんが居る時点でお嬢様だと思うわぁ〜」


「お手伝いさん……」


 青商は金持ちの生徒が多い。二年生の一条兄妹は親が大手化粧品メーカーの社長だ。同級生にも、財前さんという典型的なお嬢様言葉を使う市会議員の娘がいる。彼女のお手伝いさんの北条さんも私達の同級生だ。幼馴染らしい。幼馴染兼主従百合。尊い。


「……部長。お手伝いさんって、メイド服執事服ですか」


「気になるところそこかよ」


「いや、普通に私服だが」


「えー……なんだ……」


「漫画読み過ぎ。アニメ見過ぎ」


 先輩達に呆れられるリーリエ。気持ちは分からなくは無いけども。私も一瞬、北条さんのメイド服姿を想像したけども。


「お泊まり会には賛成ですけど、俺、男一人で気まずいです」


「あ、そっか。ライト先輩男子でしたね」


「忘れるなよ」


「いやぁ。この学校制服じゃ男女の区別つかないですし、なんか性別のこと意識しなくなっちゃうんですよね」


「分かる」


「まぁ、たしかにそれは分からなくはないが……」


「まぁ、心配するな。部屋を分ければ良いのだろう?」


「……知らないところで一人で寝るの寂しいっす……」


「私が一緒の部屋で寝ても構わんぞ」


「それは俺が構うんですよ!もー!部長はもうちょっと警戒心持ってくださいよ!」


「そう言われてもなぁ。陸野くんだしなぁ」


「陸野っすもんね」


「陸野くん……紳士だから……」


「信用してくれるのは嬉しいんだけど……なんか複雑……」


 そう言ってセラフィム先輩こと聖蘭夢先輩から顔を逸らすライト先輩。分かりやすいが、セラフィム先輩は「どうして?」と首を傾げている。鈍い。


「けど流石に『一緒の部屋で寝ても良い』は無いと思うわぁ〜ちーちゃん。駄目よぉ〜」


 そう言ってむっとしながら部長を後ろから抱きしめる副部長。部長が苦笑いしながら「妬いてるのか?」と問うと、素直に「そうよぉ〜」と認めた。先輩達は、交際を認めてから堂々といちゃつくようになった。尊い。

思わず拝むと、先輩達に苦笑いされた。


「……で?結局、合宿——つーか、お泊まり会?するんすか?」


「私はしたいでーす」


「わ、私も……」


 やりたくないという人は1人もいない。ライト先輩もなんだかんだでやりたくないわけではないらしい。


「じゃあ決まりだな。話をつけておくよ」

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