第10話:最終日

 野外学習最終日。センターの掃除をし、陶芸体験をし、バスに乗り込み学校へ向かう。短い三日間だったが、なかなかハードだった。姐さんのせいでほとんど寝れなかったし。バスの中は静かだ。みんなほとんど寝ている。王子は膝に抱えたリュックに頭を埋めて眠る小桜さんの手を握って窓の外をずっと眺めている。さっき小桜さんに『あと三日だね』と意味深に囁いていたのが気になって仕方ないが、聞いても良いのだろうか。

 すると、ふとガラス越しに目が合ってしまった。振り返り「あと三日で付き合って一ヵ月なんだ」と、聞いてもないのに教えてくれた。気になっていたのがバレていた。


「もうそんなに経つんだね」


「うん。時の流れって早いよね。ふふ」


「幸せそうでいいなぁ」


「あははー。でしょー。私今、すっごい幸せ」


「別れればいいのに」


 近くの男子がぼそっと呟く。


「うぜぇのはわかるけど、別れて病んだほうが絶対うぜぇから」


 と、姐さん。


「あはは……失恋した時はそれはもうたくさん迷惑をおかけしまして……」


「ほんとだよ。全く……」


 姐さんはなんだかんだで優しい人だ。口が悪いから怖い印象を抱きがちだが。


「そろそろ学校着くから、起きてるやつは近くの席の奴起こしとけよー」


 三崎先生の声が車内に響き、みんなも起き始めた。


「百合香、起きて。そろそろ学校着くよ」


 王子も小桜さんを起こす。小桜さんが起き、王子が「おはよう」と微笑む。すると——


「っ……馬鹿!」


 何故か小桜さんが王子に平手打ちをした。何事?と、二人に一気に視線が集まる。小桜さんはハッとして王子に謝った。寝ぼけていたのだろうか。夢の中で王子に何をされたのやら。王子が聞くと、小桜さんは「聞かないで」と恥ずかしそうに顔を隠した。一体何をされたのだろうか。物凄く気になって仕方ないが、それ以上踏み込むという無粋な真似は私には出来なかった。むしろ、知らない方が妄想が捗った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る