第9話:二日目

 二日目。昼にハイキングをし、早めの入浴があり、夜はナイトハイクというハードな日程だ。薪割りのせいなのか、足が筋肉痛で辛いというのに。


「地獄か?」


「頑張って、姫花。山頂に着いたら推しカプが待ってるよ」


「……あぁ……見える……全然疲れてないのに『疲れたから膝枕してー』とか言って小桜さんに甘える王子の姿が……」


「……マジでやりそうで困る」


「前から思ってたんだけど、百合岡さんもビアンなの?」


「いや。付き合うまでいったことはないけど、今までの恋は全員男だったから、少なくともレズビアンではないよ。多分ノンケ」


「いつも一緒にいる子、彼女じゃないんだ」


「リーリエのこと?あいつは違うよ。あれは戦友」


「……それもある意味百合なんじゃない?」


「百合って女同士の恋愛のことじゃないの?」


「薔薇の対義語として出来たから、元はそうなんだけど、今は女同士であれば、友愛も殺意も嫉妬も憎悪も愛憎も全部ひっくるめて百合。女が二人居ればそこにはもう百合が咲いてるんだよ」


「同じ男を取り合う女同士は?」


「それは微妙なところ。二人とも振られてそれがきっかけで仲良くなるとかなら百合かも」


「元男×女は?」


「いわゆるTS百合ってやつかな。あれは百合とは別物。混同する奴は勉強し直したほうが良い。BLで例えるならA×BとB×Aを混同するようなものだと思う」


「なるほど。それは大罪だわ」


 山下さんは納得してくれたが、他のみんなは首を傾げている。いや、一人明らかに目を逸らしている。まぁ、隠しているなら触れないでおこう。


「もしかして、受け攻めの話?」


「そう。私は百合から入ってるからどっちが受けとか攻めとか気にならないんだけど、BL界隈だとよく論争になってるんだ」


「百合って受け攻め無いの?」


「なくは無いけど、あまり重要視しない。リバが基本だと思う。カップリング名は言いやすい方で決まることが多いかな」


「へー……」


 と、百合講義をしているうちに、気づけば山頂に着いていた。





 そして夜。風呂に入ってからナイトハイク。

 夜の森は思った以上に暗いが、私は割とこういうのは平気な方だ。何故なら……


「きゃっ!なになに!?」


「大丈夫。ただの猫だよ」


「びっくりした……もー……やだぁ……帰りたい……」


 と、怯えながら女に抱きつく女が見れるからである。ありがとうございます。


「気をつけろ。少しでもボディタッチしたら百合にされるぞ」


「……私、幽霊より百合岡さんの方が怖いかも」


 引かれてしまった。


「あ。妖怪ユリスキー、見て、あなたの推しカプよ」


「オシカプ……ドコ」


「……百合岡さんってノリいいよね」


「ウケる」


 山下さんの指差した先には王子と小桜さんの班が居た。王子がこちらに気づき、手を振る。合流して一緒に歩くことに。


「ゴールまだ?」


「もうちょっとだよ」


「……幽霊って物理攻撃効かないからやっかいだよなぁ」


 突然、姐さんが何も無い場所を見てぼそっと呟いた。なんだか寒気がするが気のせいだろうか。


「まぁでも、幽霊も元々は人間だっただろうし、話せばわかりあえるかもよ」


「怖い話しないでってば!」


 私の班の女子以上に王子の班の男子二人が怖がっている。小桜さんは平気そうだ。


 それからしばらく歩いて、何事もなく目的地に着いたが、姐さんの意味深発言が引っかかってその日も眠れなかった。

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