第4話:見ちゃった
入学して一ヶ月。ゴールデンウィークが開けた翌日のこと。
部活の最中に、教室に忘れ物をしたことを思い出し、休憩時間を利用して取りに行く。
開けようとすると、中に人影が見えた。小桜さんと王子だ。
机の上にぐったりと伏せる王子の手を、小桜さんが握っている。他に人は居ない。
「入りづら!」
とはいえ、気になってこっそり覗き見してしまう。
その状態のまま何かを話していたかと思えば、小桜さんが立ち上がった。しかし、王子は座ったまま動かない。何かを話している。小桜さんが顔を逸らすと、王子が立ち上がった。そして小桜さんを抱き寄せ、頬を掴んで強引にキスをした。
「あ、居た。ちょっと姫花、部活サボって何し——「しー!」」
やって来たリーリエの口を咄嗟に塞ぐ。なんだなんだという顔をするが、教室の中を見ると静かになった。
「エ゛ッッッ!!」
「静かに!」
奇声を発する彼女を黙らせて、改めて二人の様子を覗き見る。
小桜さんが王子を突き放していた。痴話喧嘩かとハラハラしてしまうが、しばらく何かを話した後、小桜さんは彼女を抱きしめた。王子も彼女の肩に頭を埋める。
そのまましばらく何かを話していたかと思えば、小桜さんが王子の手をすっと持ち上げて、手の甲にキスをした。
「……待って。私幻覚見てる?」
「大丈夫。私も同じ幻覚見てる」
ようやく二人が離れた。しかし、その距離はすぐに近づいて、小桜さんが背伸びをして顔を近づける。
「う゛っ……」
リーリエがボディブローを食らったような声を出した。
「相棒、大丈夫か」
「俺は長女じゃないから耐えられねぇ……」
「いや、お前も一人っ子だろ」
とかなんとか騒いでいると、小桜さんがこちらを向いた。目があってしまい、そのまま数秒間、互いに固まってしまう。
「……やべぇ」
「……目合ったね」
スッと、二人揃ってドアから離れる。
「百合岡さん、どうしたの?忘れ物?」
王子の声が私の名前を呼んだ。ドアが開く。
「ひええええ!」
「ご、ごめんなさい!覗く気はなかったんです!」
罪悪感から、思わず後ずさってしまうが王子は平然としながらリーリエを見て、そして私を見て「隣は友達?」と首を傾げた。
「う、うん…部活仲間…です…」
「ふぅん。じゃあ二人とも、今見たことは内緒ね」
しーと人差し指を自身の唇に当てて黙っててねとジェスチャーをする王子。あんなところを見られたというのに、全く動じていない。
リーリエと共に頷くと、彼女は「約束だからね」と笑顔で圧をかけた。
「教室、もう入って大丈夫だよ。ごめんね。入りづらい空気作って。また明日」
「ま、またね…」
小桜さんの手を引いて去って行く王子。つい先日「まだ外堀を埋めていないから」なんて言っていたばかりな気がするが、キスをしていたということは、付き合っているのだろうか。ゴールデンウィークの間に何かあったのだろうか。
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