第9話 本来の力

『さあ、入って』

『お邪魔しまーす!』


 特訓を終えた後、俺はピピ達に続いてリリの家の中へ足を踏み入れた。

 外観も凄かったけど、中は一層豪華でシャンデリアや螺旋階段まで備え付けられていた。


 あの武器屋、かなり繁盛しているんだな。

 こう言っちゃ悪いけど、カイルの家とは正反対だ。

 やっぱり貧乏なんだな……。


 見慣れない豪邸の中を見渡しながらモモ達の後ろを付いていくと、大きなテーブルのある部屋に案内された。

 どうやらダイニングみたいだ。


 三匹はそれぞれ大きさの異なる椅子に座り、俺にも座るよう促してきた。

 言われるがまま、椅子をよじ登るとクッションが平積みにされていたので、そこに腰を下ろす。

 するとテーブルに対し丁度いい高さになった。


 これもリリかこの三匹の誰かが気を遣ってくれたんだな。

 本当にみんな優しいな。


『よし、それじゃあご飯にしましょ! 今日はリリの手作りよ。アイズが来るからご馳走にしたって!』

『おお、そいつは楽しみだね!』

『ごっはん……! ごっはん……!』


 ピピはテーブルの上に被されている布を取ると、色とりどりのサラダにこんがりと焼けた骨付き肉、黄金色に輝くドロッとしたスープなど、文字通りのご馳走が露わになった。


『それじゃあ、いただきます! アイズも遠慮しないでね』

『『いただきます!』』

『そういうことなら……いただきます!』


 俺達はリリが作ってくれた料理を頬張る。

 スープはポポ用だったらしく、ザ・植物の味がして俺の口には合わなかったものの、サラダと肉は絶品だった。


『――ごちそうさまでした! ふぅ、美味かったぁ。リリって料理得意なんだな』

『ええ。母親を亡くしてからはリリが料理していたみたいだしね』


 そういえばリリは、小さい頃に母親を亡くしたとカイルが前に言っていたな。

 カイルも大変だけど、リリも色々と苦労しているみたいだ。


『ただ、明日からは街にある餌箱のご飯になるからね。美味しい料理は今日だけだよ』

『明日から……ポポは不味い蜜かぁ……』


 餌箱って確か、契約の魔法でテイムされた魔物が開けるやつか。

 その恩恵があるから魔物は人間にテイムされるって前にモモ達が教えてくれたっけ。


 それなのにも関わらず、わざわざご飯を作ってくれるなんて、リリもカイルに負けずの優しい子だよな。


『さて食事も済ませたし、今日はもう休もうか。また明日からキツい特訓の始まりだよ!』

『ああ! 明日もよろしくお願いします!』


 俺は三匹に寝床へ案内してもらい、しばしの雑談を楽しんだ後、目を閉じて意識を手放した。





 翌日。

 俺達は果物を腹に入れた後、すぐに中庭に出てトレーニングを開始した。

 せっかくの休日なのに朝早くから付き合ってもらって、本当にモモ達には感謝をしてもし足りない。


『さあ、まずはウォーミングアップだ! どこからでもかかってきな!』

『二人とも……頑張れ……!』


 そんな思いを胸に秘めつつ、俺はモモに向かって突き進んだ。


『はっ?』

『えっ?』


 すると昨日の倍以上のスピードが出て、驚きのあまり声が漏れる。

 そうして、あっという間にモモの側まで駆け寄るも上手くスピードをコントロール出来ず、そのままモモの逞しい足に激突してしまった。


『アイズ、大丈夫かい!?』

『痛ててててっ……。ああ、大丈夫だよ』

『こいつは驚いたね。昨日とは比べ物にならないほど早くなっていたよ』


 モモが驚くのも無理はない。

 なんせ、俺自身が一番驚いているから……。


『アイズ、凄―い!』

『早かった……!』


 ピピとポポが側によってきて、賞賛の声を掛けてくれた。


『しかし、これは一体どういうことだい? いくら昨日頑張ったとはいえ、一日でここまで形になるなんて』

『正直、俺自身も何がなんだか……』

『多分アイズは……ドラゴンだから……』

『……あー、そうだった。すっかり忘れてたよ』

『確かにアイズはドラゴンっていうより、アイズだもんね!』


 三匹とも何か分かった様子だけど、俺にはさっぱり分からないぞ。

 特にピピの言葉。


『えっと、俺にも教えてもらえると……』

『ドラゴンであるアイズに言うのも、何だかおかしな話だけどねえ……。いいかい? ドラゴンってのは、数多く存在する魔物の中でも最強格なのさ。その強さは小さな頃から顕在でね』

『うんうん』

『きっと昨日、身体を思いっきり動かしたことで、本来の力が目覚めたのよ!』

『確かにドラゴンと考えると、昨日のあんたは弱すぎたわ。いや、今でもドラゴンにしては正直微妙だから、特訓すればもっと強くかもしれないね』

『アイズ……凄い……!』


 へえ、そんなものなのか。

 そう言われれば確かに、昨日よりも力が有り余っている気がする。


 ――ってことは、このままいけばトーナメントの優勝も夢じゃないってことだ!

 よーし、もっと頑張るぞ!


『ありがとう! でも、俺はもっと強くなりたいから、今日も稽古お願いします!』

『いいねえ、気に入った! なら、今日は少しばかり厳しくいかせてもらうよ!』

『ああ! それじゃあ、行くよ――』



 昨日と同様、俺はモモに相手をしてもらい、直実に戦い方を覚えていった。

 最初は身体をコントロールするのが精一杯だったけど、動いている内に感覚を掴んできて、夜を迎えた頃には思い通りに身体を動かすことが出来るようになっていた。


『ふう。もうすっかり暗くなってきたことだし、今日はここまでにしようか』

『分かった、今日もありがとう!』

『二匹ともお疲れ様。それならあたしは、餌箱からみんなのご飯を取ってくるわ』

『ポポも……行く……』

『そうね、一緒に行きましょ。モモとアイズはゆっくりしてて』


 そう言って、ピピとポポは家の敷地から出て行った。

 何から何までありがたいな。いつか何らかの形でしっかりとお礼しないと。


 そんなことを思いながら、俺はモモと雑談しつつ二匹の帰りを待った。


 その数十分後、ピピとポポが両手にお椀のような器を持って戻ってきた。


『お帰りピピ、ポポ。二匹ともご苦労さん』

『どう……いたしまして……』

『そんなことより聞いてよ! もう本当に最悪だったんだから!』

『ど、どうしたの?』

『餌箱からご飯をよそっていたら、後ろから急に『どけ』って言われてね。振り返ったら、あのレパルドだったのよ。本当にムカつくわ!』

『早く……死んでほしい……』


 レパルドって初めて聞く名前だけど、あのほんわかしたポポにここまで言わせるってことは、相当嫌な奴なんだな。

 魔物なのか人間なのかも分からないけど。


『あのクズと遭遇するなんて、そいつは災難だったね』

『でしょー!? アイズもそう思わない!?』

『えっと……レパルドって誰?』

『ああ、アイズはあのクズ男のこと知らないのね』

『レパルドは……最低最悪のテイマー……。強制テイムで……無理矢理魔物を従わせてる……』


 テイマーってことは人間か。

 それで強制テイムって確か、魔物の意思を無視して強引にテイムする方法だったよな。

 そんなことをしていたら魔物から嫌われるのも当然だ。


『まあまあ、そんなクズの話はもういいじゃないか。せっかくの飯が台無しになってしまうよ』

『……そうね。じゃあ、気を取り直して食事にしましょ! はい、アイズはこれどうぞ』

『ありがとう!』


 ピピから手渡されたお椀を覗き込むと、固形の粒状の食べ物が沢山入っていた。

 まるでドッグフードやキャットフードみたいだ。


『じゃあ、いただきます!』

『『いただきます!』』


 モモは俺と同じ餌。ピピは乾燥した草。ポポはドロリとした琥珀色の液体をそれぞれ口にしだした。

 俺もありがたく頂戴すると、パサパサとしているものの旨味が凝縮されていて、それなりに美味い。

 どうしても昨日のリリのご飯と比べると見劣りしてしまうけど。


 たわいもない会話をしながら腹を満たし、みんなが食事を終えた後、俺達は寝床に移動して休息を取った。

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