第11話 思い通りに色々と試してみる

煌びやかなドレスを可憐に着こなしたクレフィと、存在そのものが煌びやかな元婚約者の王子が、我がサージャ公爵家へ来訪したのは午後の事だった。


私(ヴィオラ)はと言うと、昨日三ヶ月ぶりに目覚めたばかりで、尚且つ記憶喪失という事もあり、大事をとってまだベッドの上だ。


二人が私(ヴィオラ)の部屋へ訪れてくれた時は、貴族的な挨拶──所謂カーテーシーをするべくベッドから降りようとしたが、全力で二人から止められた。


「この国の王族を礼節を欠いた形で迎えるなんて」と必死に訴えたが、病人を優先しない非情な王族になど(なんて)成りたくないと返されて、二の句が継げなかった。


それで、確かにそうだと思った私(ヴィオラ)は、固まった後に、すごすごとベッドの中心へ戻った。


沈黙。


「…ふ、ふふっ」

「…ククッ」


…笑われてます。


「いや…悪い。そなたが記憶喪失だと聞いていたから、心配していたのだが…変わらずで安心したよ。」


「ふふふっ…私もそう思いました。ヴィオラ様は記憶を無くされても、やっぱりヴィオラ様ですね。」


穏やかに笑う王子とクレフィに、私の方こそ危機は去ったのだと実感して、ひどく安心した。


「…自分じゃ分からないけれど、私をよく知る二人がそう言うなら、そうなんでしょうね。…でも、ちょっと笑い過ぎでは?」


少しだけ頬を膨らませて拗ねるように言ってみれば、王子とクレフィがピタリと同時に笑いを止めた。


「…え…今の…見ました?」

「あぁ…」

「ヴィオラ様があんな表情…」

「…うん…」

「「・・・・・・・・」」


あれ?何かマズかったかな…。


王子とクレフィ、二人してむず痒そうな顔になってるんですけど…。何だろう、この二人の表情は…う〜〜〜ん?


試しに、むぅ〜と口を尖らせてみると、クレフィが目を見開いて凝視してきた。


…え、何…。まさか私(ヴィオラ)の顔って、そんなに変な顔になってた?


チラリとクレフィの背後に居る王子を見ると、王子は顔を逸らして口元を片手で押さえ、肩が小刻みに震えている。


あれは完全に爆笑するのを耐えてるヤツだ。


そんなに笑わなくてもいいと思うんですけど…。


私(ヴィオラ)がジト目で王子を睨むと、それを見たクレフィがハッと我に返り、「ちょっと殿下!」って、後ろを振り向きながら王子を諭してる。


うん。やっぱりマズかったらしい。


いくら私の思い通りにヴィオラが動くようになったからって、悪役令嬢ヴィオラのキャラを壊しすぎたか…。


それから暫くして笑いを耐え抜いた王子は、コホンと一つ咳払いをして、クレフィへ目配せした。


それを受けたクレフィは、緊張の面持ちで頷き返すと、そのまま静かに私(ヴィオラ)の前へ進み出た。


…って、はっ!私まだ二人に結婚のお祝い言ってないじゃん!


「クレフィ様、御免なさい!私ったらうっかりしてました!」

「えっ…あの、ヴィオラ様?」


どうか伝わって欲しい。ヴィオラは運がマイナス振りかぶりの悪役キャラだけど、自分のことより隣人を大切に想う気持ちはいつだって本物だった。


短く息を吸い、


「──殿下、クレフィ様。お二人のご結婚を、私ヴィオラは、心より祝福いたします。」


言い切った。


王子とクレフィは、驚いたような顔で、何も言わずに私(ヴィオラ)を見ている。


そうだよね…。二人が結婚してから既に三ヶ月も経ってしまってるし、今更何をだと私も思う。


むしろ悪役に祝福されたところで、嫌味と捉えられるかも。


それでも私は、元婚約者のけじめとして王子へ、そして守りたかったクレフィへ、ちゃんとヴィオラの言葉で祝福を伝えたかった。


二人の幸せを願っている事を伝えたかった。


だから、一言一句に真心を込めて、胸の中心で祈るように両手を組んで言い切った。


そうして私は、ヴィオラとして二人へ満面の笑みを向けたのだ。


「「!!・・・・・・・」」


って…‥あれっ? う〜〜〜ん?


お〜〜〜〜〜〜い。


…なんか、二人共フリーズしたんだけど…。

えーと…私また何か間違ったかな…。


焦ってオロオロする私(ヴィオラ)を目の前に、王子とクレフィはゆっくりと視線をお互いへ向けて、ややあって頷き合う。そうして───


「「──ありがとう(ございます)、ヴィオラ(様)。」」


王子とクレフィ二人から、まるで花開く瞬間のような笑みを返されたのだ。


ふ、ふあぁあああああ?!!!


To be continued…


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