第9話 家族に危急存亡を告げられる

「───それでヴィオラよ。記憶の混乱はともかく、身体の方は痛みなどはないのか?」


あれから私(ヴィオラ)の記憶を精査しようと、サージャ公爵家一同が私のベッドを取り囲み、そして尋問された。


覚えてないのは自分とクレフィ以外の全ての人物名と国名や地名、物価や令嬢に必要な知識で、生活に必要な知識や婚約破棄の必要性は覚えていると伝えている。


家族の名前を忘れ、国王陛下や婚約者の名前も忘れてるのに、何故クレフィだけ覚えてるんだという疑問には、私が必死に救おうと行動した人物だからかもしれないと話した。(実際にはヴィオラ目線のゲームプレイでは、名前が出てきたのがクレフィだけだったから。なんだけどね)


そして、私から一通り聞き出したサージャ公爵は、静かに息を吐くと、私に向き直り、改めて自己紹介をしてくれた。


ヴィオラの父の名前は、グロッケンシュピールと言うらしい。

長い。覚えにくい。呼びづらい…。もう父で良いか。


ちなみに母の名前はセレスタ。弟の名前はコルノだった。


心配そうに私(ヴィオラ)を見る母や弟に、何だか胸が痛くなった私は、恐る恐る二人に両手を伸ばしてみせた。


瞬間、二人が私をギュッと抱きしめてきた。


「心配かけてごめんなさい」と言う私(ヴィオラ)に、母も弟も首を横に振りながら、「無事で良かった」と涙を浮かべて包み込んでくれる。


物語では悪役だけど、ヴィオラって家族にすごく愛されてるんだなぁと、何だか自分の事のように嬉しくなった。


そうして、感動しながら抱擁中の私(ヴィオラ)は、父の次の言葉に固まることになった。


「───、──、…あの、もう一度…宜しいでしょうか…。」


「うむ…。お前が気を失ってから、三ヶ月が経ったと言ったのだ。」


───は? 三ヶ月?


「さ…三ヶ月も、私は意識が戻らなかったと?」


「そうだ。」「そうよ。どれだけ心配したことか。」「姉上がずっと目を覚さなくて僕ずっと怖かったんだよ?」


そう口々に話す家族に目を向けながら、私は視界の左上を確認した。やはりボタンは無いままだ。


三ヶ月。


これがちゃんとゲームのストーリー進行通りならいい。


でも。もしも。…もしも、何らかのバグが起きてたら…。


ゲームセンターでヘルメットを被ってる私の身体は…。三ヶ月…。


ゾクリとした。


駄目だ。悪いように考えるな。…大丈夫。…大丈夫だ。


私(ヴィオラ)は首を軽く振って、後ろ向きな考えを止めた。


そんな私の不安を感じ取ったのか、弟が私(ヴィオラ)の頭に手を伸ばしてきて、よしよしと撫でてくれる。


「ありがとう、コルノ…。」


そして母は、震える私(ヴィオラ)を支えるように、肩を抱いてくれている。


「お母様…。」


涙目になる私(ヴィオラ)へ優しく接してくれる母と弟に、心が温かくなり、不安は不安なままだけど、幾分か落ち着くことができた。


そんな私(ヴィオラ)を静かに見守っていた父は、私が落ち着いたと判断したらしく、ゆっくりと私が昏睡状態に陥っていた三ヶ月の間の事を語ってくれた。


To be continued…


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