第8話 ピンチは続くよどこまでも
(──────っ!?!)
公爵の腕に抱きしめられていた感覚がフッと消えて、私(ヴィオラ)は咄嗟に周囲を見回した。
こ、ここは…。この部屋は…えっと…。
自分の身体を包み込む柔らかな毛布と枕の感触に、ここが布団の中だと分かった。
つい先程までは公爵の部屋に居た筈なのに…。
モゾモゾと起き上がり、改めて周囲を見回してみる。
「──お目覚めですか、ヴィオラ様?」
すると、いきなり頭上から声が降ってきて、ビクッと声がした方向へ目線を投げた。
「あ…申し訳ございません…。驚かせてしまったようですね…。」
穏やかな顔で佇む、侍女服を着た淑女さん。
えーと…誰だろう、名前が分からない…。
「もうすぐお昼になりますが、体調はどうです?昼食は召し上がられますか?」
「えぇと…。体調は…少し頭がフラフラするけど…食欲はあるわ。昼食…お願いできるかしら?」
…うん。多分このフラフラは寝過ぎの目眩だ。そして何故かは分からないけど、すご〜くお腹が空いている。
「それは良ろしゅうございました。昼食は直ぐにご準備致しますね。」
そう言うと、侍女服の淑女さんは一礼して、部屋を退出していった。
何気なく視界の左上を見るが、やっぱりボタンは無くなってるままだ。
先程の淑女さんが戻って来るのまでの間、暫くボーッとする。あぁまだ頭が混乱してて回らない。
ひどい倦怠感と、空腹感…。どれもがリアルな感覚だ。
これって…すごくヤバい状況じゃない?(滝汗)
「姉上っ」
ビクゥ!!───考え込もうとしたら、すぐ傍で声がして身体が跳ね上がった。
「あっ…ごめんなさい姉上…。侍女のパーラから姉上が目を覚ましたって聞いて、その…気になって来てしまいました…。」
あぁ、先程の淑女さんはパーラという名前なのね。
そして私のベッドに乗り上がってる、10歳くらいの男の子…。キミは誰かな?
私はゲーム通りに動くヴィオラになぞらえて、口を開こうとした。
そして───固まった。
…待って…。
さっき私、自分の意思をそのままパーラに伝えたよね。
え・・・って事は…。
「え‥っと…。」
や、やっぱりだ…。姉上と呼ぶ目の前の男の子の名前を、私(ヴィオラ)は、すんなりと呼ぶ事ができなかった。
「姉上…?」
訝しげに見つめてくる男の子に、黙ったままでいる訳にもいかない。腹を括るしかないか…。
「あの…ごめんなさい…。あなたの名前って・・・・何だったかしら…。」
声を出したら自動で名前を呼べる一縷の望みに賭けたけど、やっぱり私(ヴィオラ)は、自分の弟と思われる男の子の名前を呼ぶ事ができなかった。
「?!!?!!」
愕然とした顔で私を凝視した名前不明の男の子。
うん‥まぁ、そうなるよね…。ははは…。
その男の子は、暫く私の前でワナワナと震えたと思ったら、勢いよくベッドから飛び退いて、「父上〜〜〜っ!母上〜〜〜っ!姉上が僕のこと忘れちゃったよ〜〜〜っ!うわあぁぁんっ!」と叫びながら駆け足で部屋から出て行った。
これはもう確実にヴィオラ目線から私の思考に完全に切り替わってる。どうしよう…。
相変わらず、視界の左上にはボタンが無いままだし、右上も右下も左下も、何のボタンも見当たらない。
こうなるともう、私(ヴィオラ)は、ベッドの上で遠い目をするしかなかった。
To be continued…
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