第7話 急転直下、からの絶体絶命!
───結論から言うと。
ヴィオラは悪役ポジションの登場人物だけど、婚約破棄される最後の最後まで、王子はヴィオラを見捨てず、護ろうとしてくれていたのだ。
どれだけ善行をやっても悪行に変わるヴィオラ目線なんて、さっきまではこんな虚しくなるだけのヴィオラ目線でプレイ出来るシステムなんて、幸せなキュンを届ける乙女ゲーム的には開放すべきじゃないって思ってた。
でも、こんなシナリオなら有りだと思った。
ゲームの進行はあくまで主人公クレフィ視点だから、ヴィオラと王子の関係は婚約者同士としか語られてないし、お互いに好意があったかまでは分からない。
でも、公爵から事の顛末を聞いた私は、王子が護ろうとしてくれてたと分かって、自分の不甲斐なさに落ち込む心が、じんわりと温かくなったから。
こういうシナリオなら、まぁ、ヴィオラ目線も良いかなって思った。
ヴィオラの至らなさやバカさ加減に、同じ目線でプレイしてきたからこそ、込み上げる羞恥心は留まるところを知らないけども。
それとは別に、ヴィオラは婚約者から、ちゃんと大切にされてたんだと分かったから。それが無性に嬉しくて。
恥ずかしさと、呆れと、後ろめたさと、そして、ほんのりと胸に灯る、温かな随喜と。
色んな感情がミキサーで撹拌されたみたいに頭と心をかき混ぜて、溢れて、我慢できずに涙目になる。
そうなったらもう、引き結んだ口から嗚咽が漏れそうになり、慌てて両手で口を覆ったけど、溢れる感情は止められなくて、泣き声を我慢するのはもう無理だった。
ダメだ…我慢できない。…我慢できない〜〜〜っ
そのまま私(ヴィオラ)は、感情のままに俯いた。
─── へっ?
ヴィオラが俯いた?!
何だこれ!?ちょっと待って!
私は今ヴィオラだけど、本当の所ではヴィオラじゃなくて、恋宮(こいみや)をプレイ中のプレイヤーだよ?!
でも今溢れてくるこの感情は、ヴィオラのモノじゃなくて、完全に“私のモノ”だ。
え…。…最先端のバーチャルゲームって、こんなに同調するものなの…?
私はそんな事を頭の隅で考えながら、どうにか今の感情から意識を逸らして、必死に嗚咽と涙を止めようとした。
けど、溢れる感情は全然止まらない。どうしよう!!
すると、私(ヴィオラ)の頭に、誰かの手がそっと乗った。──と思ったら、優しく撫でられた。
…へっ?
見上げると、公爵が目の前に居た。
涙で視界がぼやけてるけど、公爵の顔がすごく近かったから、優しい眼差しで私(ヴィオラ)を見下ろしているのが分かった。
「…お、お父様…。」
これまでずっと公爵様と呼んでいた私(ヴィオラ)が、思わずポツリと呟いた呼びかけに、公爵は一瞬だけ目を丸くして、それから柔らかく「ふ‥」っと笑った。
え…笑顔が、破壊級にステキ過ぎる…。
──というかちょっと待って!!
今の“お父様”って台詞は、プレイヤーである私の心をそのままヴィオラを通して発した言葉だったんですけど!?
えっ?!…何が一体どうなってるの!?
ヴィオラ目線でプレイしてからずっと公爵の厳しい顔とか呆れ顔しか見てなかったからか、驚いた反動で涙も嗚咽もピタリと止まったけど、今はそれどころじゃない。
画面の左上──いや、視界の左上は!?
目線を公爵から左上に向けて見たけど、やっぱりセーブボタンは出現してない。
というか…、ウソでしょ…。
ついさっきまであった早送りボタンが、オートボタンが、…ボタンが全部、無くなってる。
ゲームの中だと感じられる、唯一の命綱が、無くなってる…。
「…ウソ…私これからどうなるの…。」
あまりのショックに、カタカタと震え出す私(ヴィオラ)を、公爵がそっと抱きしめてくれるけど、すごく落ち着く良い香りがするけど、そうじゃなくて。…そうじゃなくて!!
匂いまでするって、怖い怖い怖い怖いぃ!!
「…大丈夫だよヴィオラ。私がお前の身はしっかりと守ってあげるから。」
誰か…誰か…たすけてぇ〜〜〜〜〜〜っっ!!!
──── 暗 転 ────
To be continued…
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