第5話 実は運がアレでした(−)
眩しいほどに笑っているのに、全っ然、全く、笑っているように見えない…。
そんな凄みのある笑顔を浮かべる公爵にビビって後ずさると、公爵は深く溜め息を吐いてから、懇々と説明をしてくれた。
曰く、私(ヴィオラ)がクレフィの足を引っ掛け、引き倒したあの時は。
──犯人は居なくなった訳ではなく、物的証拠の短剣もろとも、攻略キャラが犯人の身柄を拘束し、私やクレフィが気付く前に退場させたのだと。(この時の私の行動だけは、公爵から「ヴィオラが行動しなければ間に合わなかっただろう」と言われた。でも「同じく守られる立場の令嬢の行動としては褒められないぞ」と嗜められた。うぐぐ。)
曰く、私(ヴィオラ)が背後からクレフィの口を塞ぎ、近くの部屋へ彼女を引き込んだ時は。
──部屋に居た攻略キャラ三人と別行動していた王子が、私の行動を見て咄嗟に計画を変更し、自分の護衛に犯人を捕らえさせたのだと。この犯人は犯行証拠を入手済みで、あとは部屋に居る三人が犯人を部屋まで呼び出して捕らえる算段だったのだと。(それがヴィオラの行動のせいで余計な手間が増えたと…面目無い…。)
曰く、私(ヴィオラ)がクレフィの腕を引っ張り、壁ドンした時は。
──壁ドン中の私やクレフィからは見えてなかったけど、クレフィを狙う犯人の背後には、ちゃんと攻略キャラ達が控えてたらしく、犯人に口を開く間も与えず、速攻で身柄を拘束し退場させたのだと。犯人の手には即効性の睡眠薬品を染み込ませたハンカチが握られてて、状況証拠もバッチリだったのだと。(そしてヴィオラの行動は要らなかったと…。)
曰く、私(ヴィオラ)がクレフィへバケツの水を浴びせた時は。
──事前に犯人の犯行計画を入手済で、攻略キャラ達はクレフィ目がけて火付きのテニスボールを放つ犯人を拘束する担当と、そのテニスボールがクレフィへ届く前にエアガンで打ち抜く狙撃担当で分かれて現場に待機中だったらしく、あとは犯人の犯行現場を抑える算段だったのだと。(ははは…無駄に水を浴びせてしまってゴメンよクレフィ…。)
曰く、私(ヴィオラ)がクレフィが持つトレイを叩き落とした時は。
──しっかりと犯人の犯行現場を押さえた上で、食堂の外に控えてた王子が急ぎ足で登場して、クレフィがスープを飲む前に緊急の用事を言付け、彼女を連れ出す段取りだったのだと。それが私の行動でまたも計画を変更する事になり、王子は天井裏の犯人を捕らえる方に回ったのだと。
だからあの時、食堂には攻略キャラ達とクレフィ以外に居なかったのか…。私(ヴィオラ)が食堂に入って来る前に、王子や攻略キャラ達は犯人やクレフィに気付かれないように、頑張って人払いを済ませた所へ、私(ヴィオラ)が食堂に現れて、彼らが止める間もなくトレイを叩き落としたと…。
そういや、目を背けた時の攻略キャラ達の顔は、盛大に引きつり顔だった。(なんかもう…ホントすみません…。)
曰く、私(ヴィオラ)がクレフィを階段下の物置に閉じ込めた時は。
──攻略キャラ達は、犯人と怪しげな人達の会話を花瓶に忍ばせた盗聴器で録音していて。クレフィを害する内容や、犯人達が指示を受けてる人物名まで、しっかりと録音した上で、犯人達を一網打尽にする計画だったのだと。
当然その間クレフィの側には王子が居る訳だから、クレフィの安全も確保されていたし、計画に問題はなかった。───筈が、私(ヴィオラ)のせいで王子もクレフィも要らぬ苦労をしたと…。(あぁもう!ヴィオラってば空回りすぎるでしょーよ!)
そして最後に、私(ヴィオラ)がクレフィを階段から突き落とした時は。
──ハッと気付いて公爵が説明する前に、公爵の目を見れば───。
「あぁ、そうだ。お前の予想通りだよ、ヴィオラ。」
ぎゃーーん!!マジかーーー!!
王子も攻略キャラ達も犯人の存在に気付いてて、その上で犯行現場を押さえる為に、あえて犯人を泳がせてたのを前提に考えれば、自ずと先は見えてくる訳ですよ。
犯人がクレフィを狙撃しようとしてる事を知った上で、犯行現場を押さえるには、犯人がクレフィを撃つ前に銃を持つ手を狙い撃てばいい。
王子を含め恋宮(こいみや)の攻略キャラ達は、無駄にハイスペックだと同僚が言ってたから、万が一にも彼等が失敗する可能性はなく、むしろ犯人の手を狙撃して止めるのは安全が補償された計画だ。
その計画が、またしても私(ヴィオラ)の行動のせいで狂い、犯人には銃を発砲させる事になるわ、階段下に突き飛ばされたクレフィを王子が受け止める事になるわで、逆にクレフィを危険に晒す事になったと…。(イタイ…イタイよヴィオラ…。)
そ、そうか…。ヴィオラは善行さえも死亡フラグに変換される、極限まで運がマイナスに振りかぶってるキャラ設定だったのか…。
To be continued…
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