第3話 ログアウトできなくなりました

あれから暫くフリーズした私は、考えられるゲーム仕様をいくつか想定し、多分、いつでも何処でもセーブできる仕様から、一定の所まで進まないとセーブが現れない仕様に切り替わったのだろうと、希望的観測を元に、続きをプレイする事にした。


すると、何という事でしょう。


ヴィオラの行動理由は、国王陛下や父であるサージャ公爵には筒抜けだったのだ。


ヴィオラが主人公クレフィの足を引っ掛け、廊下に引き倒したのは──。


彼女を害そうと、短剣を持つ人物を目撃したからだ。


犯人は実に巧妙に短剣を隠し持ち、澄ました顔で主人公クレフィへと近付いていた。


その事にヴィオラ目線の私が気づいたのは、悪役令嬢が持つチート能力、悪運の成せる業とでも言うべきか。


そんな、主人公を取り巻く“ある事”に気づいた私(ヴィオラ)は。


犯人がクレフィとすれ違いざまに、勢いよく短剣を横一閃に振り抜く動作を空振りにするべく、咄嗟に足を引っ掛けて、クレフィを剣筋から逃したのだ。


そのまま追撃も考えて、クレフィを床に引き倒し、上からヴィオラは彼女に覆い被さった。


攻略キャラの一人が倒れた私達へと走り寄るのを視界に、犯人が居た場所を見れば、犯人は居なくなっていた。


次に、背後から口を塞ぎ羽交い締めにしたのは──。


ちょうど廊下の曲がり角でクレフィと出会い、クレフィの後方から(ヴィオラから見たら前方から)、その犯人がクレフィへ近付いて来てたからだ。


まずい。犯人がクレフィに気付く前に、彼女の姿を隠さなければ!!


そう思った私(ヴィオラ)は、クレフィを背後から抱き寄せて引き止めた。


クレフィは「へ?」とか間抜け顔で言ってたけど、声を上げられたらバレるから!と、慌てて彼女の口を手で塞いで、近くの部屋へ彼女を引き込んだ。


そうしてクレフィを引き込んだ部屋には、イベント発生ルートだったのか、攻略キャラが三人も揃って居た。


攻略キャラ達は、あんぐりと口を開けて私(ヴィオラ)とクレフィを見ていたけど、重要なのはクレフィの安全確保なので無視した。


王子や攻略キャラは、クレフィの味方だって同僚が言っていたし、ここに居ればクレフィは安心だ。


ひとまず一難は去ったし、私(ヴィオラ)は戸惑うクレフィを離して一言お詫びを入れると、追求される前にさっさと部屋から退場した。


それから場面は変わって、有無を言わせずクレフィの腕を引っ張り、壁ドンした時も同じだ。


──あの時は、迫り来る犯人から身を隠せるような、すぐに隠れられる部屋が近くになくて、苦肉の策での行動だった。


犯人の視界からクレフィを隠すには、ああするしかなかった。


…そう言えば壁ドンした時。何故かクレフィがキラキラした目で私(ヴィオラ)を見ていた。……うん。気にしたら負けだ。


次に、バケツの水を躊躇なくクレフィへ浴びせたのは──…あれは本当に危機一髪だった。


色々とタイミングが良かった。いや良過ぎたと思う。


だって、犯人がヤケを起こしたのか何なのか知らないけど、私(ヴィオラ)が丁度クレフィの傍を通りがかったタイミングで、クレフィ目掛けて、“火が付いた”テニスボールがポーンと、弧を描きながら飛んできたからだ。


その時の私(ヴィオラ)は、重要書類を駄目にした罰として窓拭きを命じられ、水が入ったバケツ(使う前で良かった)を持っていた。


火を消すには水を掛けるべきでしょ?


まぁ重要書類の記入ミスは、貧困な地域へ増税を課す鬼畜内容だったから、こんなの通すか馬鹿野郎と、嬉々として駄目にしたから心は痛まない。


それから、クレフィが持つトレイを叩き落としたのは──。


もう何回も命を狙われてる彼女が心配で気になり、私(ヴィオラ)はクレフィの姿を探すようになっていた。


そして食堂でようやくクレフィの姿を見つけたら、なんと!


クレフィが持つトレイに乗ったスープ皿に、ポチャンと上から“緑色の水滴”が落ちたのを目撃したのだ。


え、ヴィオラって視力どんだけ良いのさ!何で見えるの悪役令嬢だからなの!?──と内心ツッコミながら、瞬間的にクレフィの頭上を見ると、犯人と思しき人物が、天井裏へ逃げ込む姿があった。


そして肝心のクレフィの目線は、私(ヴィオラ)の登場に嬉しそうに(何故か)向けられていて、自分のスープ皿に“緑色の水滴”が入った事に気付いてない様子。


今度は毒を混入ですか!と、青くなりながら急ぎクレフィの元へ走り寄ると、驚く彼女を無視して、私(ヴィオラ)は彼女が持つトレイごと毒入りスープ皿を床へ叩き落とした。


幸いな事に、ちょうど昼時を外した時間帯だったから、食堂にはクレフィと私ヴィオラ、王子を外した攻略キャラ達が居るくらいだったから、そこまで騒ぎにはならなかった。


というかクレフィ以外、全員が驚愕の目を私(ヴィオラ)に向けて、それからハッと気付いて、サササッと目を逸らされた。


うん…分かるよその気持ち。いくら仕方がなかったとは言え、あの行動は私も非道極まりないと思うもん。


だから、あの場で攻略キャラ達から非難されず、見て見ぬふりされたヴィオラは、攻略キャラ達からすれば『触らぬ神に祟りなし』扱いなんだろうけど、悪役なのに恵まれてるな〜と思った。


あと、クレフィのトレイを叩き落とした私(ヴィオラ)は、呆然と立つ彼女にすぐに謝り倒して、床に落ちた毒入りスープ皿とパンを、側仕えと一緒にさっさか片付け、クレフィへは代わりの食事をデザート付きで奢りました。


クレフィは寛容に許してくれ、頬を染めながら(何故か)握手を求められ、ぎこちなく御礼まで言われた。きっと仲直りのつもりなんだろう。私(ヴィオラ)が悪いのに御礼を言うとか!なんて良い子!さすがは主人公だ。


それで。その3日後だったかな。──クレフィを階段下の真っ暗な物置に閉じ込めたのは…。


そもそも、この国の王子の婚約者であるヴィオラと、その王子に仕えるメイドのクレフィは、立場上、王子繋がりで接点が多く、日に何度も顔を合わせるのだ。


その日、私(ヴィオラ)は階段を上がる途中で、上がりきった先の廊下に犯人の姿を見つけた。


しかも犯人は、同じような雰囲気の怪しげな数人と話し込んでいた。


それを発見した私は、何となく嫌な予感がして振り返れば、階段下には王子とクレフィの姿が。


しかも二人は、階段を上がってこようとしている。このまま行くと犯人と鉢合わせるルートだ。


いやこれ、進ませるのマズイでしょ!


すぐさま私(ヴィオラ)は、踵を返して階段をダダダッと降り、驚く王子を無視してクレフィの腕を取った。


「へ?ヴィオラ様?な、なにを」と戸惑うクレフィを「静かに!」と一喝して黙らせ、そのまま彼女を階段下の物置に押し込んだ。


そして私(ヴィオラ)は、呆気に取られた王子を振り仰ぎ、クレフィを狙う犯人が宮廷内に紛れ込んでいる事を訴えたのだ。


だがしかし。


私の訴えを聞き終えた王子は、全く焦る様子もなく、一拍後、盛大な溜め息を吐かれた。


え。何で溜め息?と疑問に思えば、王子から証拠を出せと言われて、はたと気づいた。


そ…そうか…。王子は証拠がないと罪に問えないと言いたいのか。


でも私(ヴィオラ)は、そんな物的証拠は何も持ってない。


代わりに、これまでクレフィの身に起きた出来事を説明したけど、当然ながら納得してもらえず…。


それならば、犯人とさっきの怪しげな数人の会話を聞かせれば!!


閃いた私(ヴィオラ)は、パパッと王子の手を取り、「何処へ行く気だ」と疑問を投げる王子へ「着いたら分かりますから」と言い、そのまま引っ張って犯人が居る場所へ向かった。


でも着いた頃には、怪しげな数人を含めて犯人の姿は既になかった。


急いで階段を駆け上がったから、私(ヴィオラ)も王子も息が上がり、暫く呼吸を整えた後で、「ごめんなさい…証拠が逃げました。」と伝えれば、王子からは、非常に残念なモノを見る目線で、溜め息を吐かれて終わった。無念。


そして最後に、ヴィオラが婚約破棄された日。


私(ヴィオラ)がクレフィを階段から突き落としたのは──。


丁度クレフィと王子の事で話しながら階段を上がっていたら、クレフィの後方に、犯人が銃口をこちらへ向けているのが見えたからだ。


咄嗟に私(ヴィオラ)は、階段下に王子が居るのを見つけ、王子なら確実にクレフィを受け止めてくれるよね!と、絶対の安心感をもって階段から彼女を突き落としたという訳だ。


同じタイミングで、私(ヴィオラ)のすぐ傍で空気がプスンと震えたから、もし少しでも行動するのが遅かったら、あの時にクレフィの命はきっと…。ブルルッ…。


あれは今なお思い出しても、ぞっと寒気がする程の危険度だった…。ほんと無事で良かった。


そんなこんなで、悪役令嬢ヴィオラの行動は、蓋を開ければものの見事に、善意しかなかった。


それが何故、クレフィのみならず、私(ヴィオラ)までもが狙われることに?


思い切り首を傾げて何故と問えば、サージャ公爵から溜め息を吐かれた。


えぇ〜と…何で溜め息?


To be continued…


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