第2話 悪役令嬢、刺客に狙われる?!
ガタゴト。ガタゴト。
私(ヴィオラ)は今、問答無用で馬車に詰め込まれて、自宅へ強制送還中だ。
あの日、恋宮(こいみや)のゲーム筐体(きょうたい)に備え付けられたヘルメットを被り、悪役令嬢目線で暫くプレイしてみた私は、宮廷内を見回り、主人公と出会い、芋づる式に攻略キャラの男性陣と出会い、そろそろ時間的に迎えの車が到着しているだろうと、視覚で見えている左上のセーブボタンを押し、ログアウトしてから親の元へ向かった。
ヘルメットを被ると、手で触れるものも連動して反応する仕組みに、リアル過ぎて感動したのを覚えている。
ちなみに、ゲームの料金は一律の月額制だった。
次の日、恋宮を説明してくれた同僚に、昨日自分も(悪役令嬢目線は伏せて)プレイしてみた報告とともに、ホラーは苦手だからと、主人公が邪魔される悪役令嬢の行動を教えてもらった。
数日後、同僚から得た情報を元に、続きからプレイしてみれば、主人公クレフィを取り巻く、“ある事”に気付いてしまった。
───結果、私は2回目のログインで、主人公クレフィの足を、同僚が説明した通りに引っ掛けて廊下に引き倒し、攻略キャラが走り寄ってくる姿を確認してから、声を掛けられる前にセーブし、ログアウトした。
その時の私の心境は、『こんなの人道的に避けられる訳ないでしょ!』だった。
それからは、仕事帰りにゲームセンターに通い、ヴィオラ目線で恋宮を進めてみれば、…ハアァ〜。
悪役令嬢ヴィオラが、これまでに主人公クレフィにやらかした行動を、簡潔に列挙すれば、こうだ。
足を引っ掛け廊下に引き倒した。
背後から口を塞ぎ羽交い締めにした。
有無を言わせず腕を引っ張り壁ドンした。
バケツの水を躊躇なく浴びせた。
クレフィが持つトレイを叩き落とした。
真っ暗な物置に閉じ込めた。
そして先程は階段から突き落とした。
ほんと、溜め息が出るほどに、行動だけを挙げれば、非道としか言えない。
だがしかし。
ヴィオラ目線でプレイした私からすれば、非道に否を唱えたい。
だって、ヴィオラの行動は、ヴィオラ目線で見ると、どれもが正しいからだ。
「…あーあ。どんなに悪役令嬢側で頑張ろうとしても、選択肢は主人公側に出るから、ゲームの進行は変えられないしなぁ〜。」
悪役令嬢の行動に、主人公が救われてたのは確かなのに、周囲に理解されない。この、もどかしさ。
馬車に揺られ着いたヴィオラの屋敷前で、これからヴィオラはどうなるんだろうと思いながら、私はセーブボタンを押して、恋宮からログアウトする。
ヘルメットを取れば、私には普通の現実が待っている。
だけど、なんかもう、報われないヴィオラが可哀想過ぎて、ツライ…。
それから数日後、恋宮にログインする私は、まさか自由意志でログアウトできなくなるなんて、知る由もなかった。
***
次にログインしたら、公爵が居る部屋だった。
どうやら、屋敷に着いたヴィオラはすぐに、父親である公爵に呼び出されたっぽい。
目の前には、ヴィオラの顔に似た紳士が柔かに笑っている。ように見える。
「──さて、ヴィオラ。呼び出された理由は分かっているね?」
「は、はい…。国王陛下が私と殿下との婚約を破棄されると通達されたから…ですよね?」
「そうだ。では何故、婚約破棄されたのか、理由の方は分かるか?」
「えっ?…それは、私がクレフィ様を階段から突き落とした行動が、妃として相応しくないと判断されたから、だと考察しますが…。」
「ハァ…。違う。」
「…それでは、国王陛下が仰られた、私が行動理由を訴えた言動が、相応しくないと?」
「ヴィオラの身を守るには、もうそれしか手立てがなかったからだ。」
「…えっ?」
「お前は今、クレフィ嬢と同じく、隣国の刺客から命を狙われている。」
「───っっ?!!」
ちょっと待て。まさかの展開だ。とりあえずセーブしようと左上を見たら、ボタンがなかった。
セーブボタンがない。セーブボタンがなければ、次のウィンドウで出る『ログアウトしますか?』に、『はい』と答えられない。
早送りボタンだって、オートボタンだってあるのに、どこを見回してもセーブボタンがない。
ログアウトできない。え、嘘でしょ。
To be continued…
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