悪役令嬢は善行さえも死亡フラグに変換される

小伊成

第1話 婚約破棄から始まるプロローグ

「君はっ……っっ。…ヴィオラ!自分が何をやっているのか分かっているのか!?」


「だから違うんです!!聞いてください殿下!クレフィ様の命が危ぶまれたからこそ私は」


「?!!──それ以上言うな!」


「…っっで、でも、殿下…。」


「……今、その手でクレフィ嬢を階段から突き落としたのは君だ。…そうだよな?」


「っっっ…そう、です…。でもそれはクレフィ様の命が狙われていたからっ!」


「もういい!分かった!……クソッ…ここまでか…。」


「殿下っお願いですっ信じてください!私は本当にクレフィ様をお救いしたくて!!」


「──そこまでだ、ヴィオラ・ミルドレイ・サージャ。」


「!!!…こ、国王…陛下…。何故、ここに…。」


「サージャ公爵令嬢よ…。そなたが今ここで言い訳ばかりしなければ、余は息子との婚約破棄など通達せずに済んだものを…。」


「…そ、そん、な…。」


「───残念だよ、ヴィオラ…。」


「殿下!国王陛下!違うんです!聞いてください!!このままではクレフィ様がっ!!」


「衛兵よ。サージャ公爵令嬢は酷く取り乱しておる。暫しの間、自宅療養するが良かろう。──連れて行け。」


──── 暗 転 ────



***


は、ははは、あははははは!

…ああ。…なんだ、そういう事だったのか。


なんだ。恋宮(こいみや)の裏側は、乙ゲーで必須キャラとも言える、悪役令嬢ヴィオラの、突き抜けた主人公への嫌がらせの数々は。


───そういう事だったのか。


乙女ゲーム『恋する宮廷の王子様(略して恋宮/こいみや)』は、ゲームセンターに設置されているヘルメットを被ってプレイするタイプで、視覚聴覚が主人公目線でもってリアル体験できる、最先端のバーチャルゲーム(VRMMO)だ。


そのゲーム仕様が人気を博し、下は10代から上は40代までと幅広くプレイされている、近頃は仕事に忙殺されて、乙ゲーの流行に全く疎くなってしまった、この私でさえ知っているゲームだ。


職場で普通の世間話よろしく、乙ゲー恋宮の話題が挙がった時、私の中のオタ魂がくすぐられて、気付けばプレイした事があるという同僚を引き止めていた。


昼食がてらに話を聞けば、物語の舞台は宮廷で、王子付きのメイドとして働く主人公が攻略する男性陣は、全て宮廷に属する高位な身分で、顔良し性格良しの、王子や騎士や官僚だと言う。


なんだそれ。登場人物の設定が王道過ぎて、凄まじく面白くなさそう。とは言えず、へーと返せば、男性陣はあくまで目の保養や、キュン萌えさせる役割でしかなく、プレイヤーは男性陣の好感度を上げるんじゃなく、実は主人公が自分の出生の秘密を、隣国のお姫様であることを、色々な手掛かりを集めて紐解いていくミステリーものだった。


もちろん、主人公が手掛かりを集めるのを邪魔する敵キャラ、悪役令嬢もいると。


ただその悪役令嬢は、乙ゲーでは恒例の断罪シーンはあるものの(冒頭でのアレとか)、死んだり破産したり国外追放されたり等はなく、また、主人公や攻略キャラも、悪役令嬢を憎んだり蔑んだりはなく、むしろ畏怖や恐怖の対象だそう。


どういう事かと問えば、主人公を邪魔する嫌がらせの行動が、全てにおいて突き抜けていて、主人公達からは、腫れ物や頭がおかしい人物と捉えられており、避けられているとの事。


そんな悪役令嬢は、同僚曰く、この物語の面白さの要素の1つだそう。悪役令嬢が登場するシーンは毎回ビックリさせられる為、お化け屋敷も顔負けの、ホラーが楽しめると讃えられていた。


そんな同僚の話を思い出しつつ、あの日の出来事を振り返る。


あの日、私は残業で終電を逃してしまい、親が車で迎えに来てくれる事になっていた。


その待ち合わせ場所から、ちょうど同僚が教えてくれた、恋宮が設置されているゲームセンターが見えた。


スマホで時間を確認すると、まだ親が迎えにくるまで40分以上はかかる時間だったから、学生の頃にハマっていた乙ゲー熱がうずうずしだして、興味本位でゲームセンターに足を向けた。


ゲームセンターを覗いてみると、ちょうど人の流れが途切れたらしく、恋宮がプレイできる席が空いていたから、親が着くまでの間の、ちょっとだけのつもりで、私は席に着いたのだ。


そして、ゲーム画面のマニュアル通りに、新規でユーザー名とパスワードを決めて入力し、恋宮にログインした。


───と、ここまでは普通だった。


その次の画面で、主人公のデフォルト名『クレフィ』を変えるかどうかの画面で、ふと画面右下ギリギリ隅にある白い点が気になったのだ。


(何だろう…ゴミ??)


そう思って、その白い点に触れたら、あら不思議。


何故か私は、主人公クレフィではなく、悪役令嬢ヴィオラ目線で、ゲームをすることになったのだ。


───って。不思議でも何でもなく、ただ単に私は、ゲーム製作陣が消し忘れたと思われる、テスト用ルートを選択してしまっただけ…なんだろうけど。


To be continued…


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