第21話

 その日、日直だった私は職員室に寄っていたので帰りが遅くなった。


 荷物を取りに自分の教室に戻ろうとしていた私の耳に、


「あ~! ムカつく! なんなのよあの女! 手の平返しでリタにすり寄るなんて!」


 という苛立たしげなルナの声が聞こえて来た。教室のドアを開けようとしていた私は、思わずその手を止めた。そして聞き耳を立てる。

 

「全くよ! アイツのお茶会に出たせいで、こちとら大変な目に合ったっていうのにさ! アイツが間抜けにも派手な自爆かましたのは勝手だけど、とばっちり食ったこっちは堪ったもんじゃなかったわよ! それなのに、責任を感じるどころか簡単に寝返るなんて許せないわ!」


 これはリズの声だ。


「許せないのは私も同感ですが、でもどうします? 相手は侯爵令嬢ですよ? ヘタに報復なんてしたら、更に怒りを買ってますます私達が追い詰められるような気が...」


 これはミラの声だ。どうやら作戦会議というか単に愚痴ってるだけというか。お昼休みの時、ララに引っ張られて行った際に、なにやら釘でも刺されたようだ。


 どうでもいいけど、こんな話を人目のある所で堂々としているコイツらは、本当に危機意識が足りないと思う。心の声を聞くまでもなく、こうやって聞き耳を立ててればいいんだから楽なもんだ。


「目には目を! 爵位には爵位よ! 相手が侯爵令嬢ならこっちは公爵令嬢で勝負よ! ミカ様をお呼びしましょう!」 


 そう言ったのはルナだ。コイツらミカとも繋がってたのか。まさか公爵家とも接点があったなんてちょっとビックリした。カルロ繋がり恐るべし!


「それがね...ここ最近、ミカ様登校して来てないみたいなのよ...何かあったのかしら...」


 リズがそう言った。確かにあったね。純潔を散らされた。いくら相手が婚約者とはいえ、まだ婚姻前の男女がそういうことをしちゃったら、さすがに外聞が悪いんだろうな。


 引きこもりになるのも無理はない。ましてやミカは婚約者のことボンクラ呼ばわりして嫌っていたしね。未だに名前は分からんが。


 ともあれ、これでもういくら嫌っていたとしても、ミカは婚約者と添い遂げるしかなくなった訳だし、カルロを巡る戦線からはララと共にミカも離脱したと言って良いだろう。


「じゃあどうしますの? ここで諦めますの?」


 弱気になるミラをルナが叱咤する。


「まだよ! まだ私達は終わってない! 諦めたらそこでカルロ終了よ! それでもいいの!?」


 いや勝手に終わらせんなよ。終わってんのはお前らの方だろうが。


「「 良くない! 」」


「そうでしょう? 私に良い考えがあるのよ! フフフッ♪」


 そう言って不敵に笑うルナに、私は嫌悪感を感じるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る