第7話
悩んだ末、私はこうすることにした。
『放課後、噴水広場の前で待つ カルロへ ルナより』
ルナの下手くそな筆跡を真似るのは大変だったが、なんとか不自然に見えないように書き足せたと思う。これを隣のクラスのカルロの机にそっと忍ばせておく。
要は私が『噴水流し』の現場に居なければ良い訳だ。愛しいカルロを目の前にすれば、さしものルナでも自分から噴水に飛び込んだりはしないだろう。
それに幼馴染みでもあるから、呼び出すのは別に不自然じゃない。カルロも特に疑いもせずに待ち合わせ場所まで向かうはずだ。
私は影に隠れてそっと見守ることにする。
◇◇◇
やがて放課後になった。ルナが席を立ったのを確認して、見付からないように後を尾ける。私は噴水広場の隅の草むらに姿を隠す。
まだカルロは来ていないようだ。他の生徒も誰もおらず、ルナだけがその場に佇んでいる。すると誰かが近付いて来る足音がした。カルロだ。私が隠れている位置からは見えているが、ルナの立っている位置からはまだ見えてないだろう。
その時、急にルナが動いた。いきなり噴水の中に自分からダイブしたのだ。まさかカルロの目の前でやるとは思わなかった。ルナの行動は私の予測の斜め前を行っているようだ。
カルロが慌てて駆け寄る。
「ルナ! 一体なにをやっているんだい!? 自分から噴水に飛び込むなんて!?」
「あ、あれ!? カルロ!? えっ!? なんで!?」
ルナのこのセリフでやっと分かった。どうやらルナは近付いて来たのが私だと思って、確認もせず噴水ダイブを敢行したようだ。コイツほんまもんのアホだ。普通確認するだろ。いや普通じゃないからこんなことやってんのか。
私は哀れみを込めてルナに目を向けて、ブフッ! 危うく吹き出すところだった。この女、制服の下にスクール水着着てやがる! 制服が水に透けてバッチリ見える!
最初っから噴水ダイブする気満々じゃん! これで例えば私がルナの呼び出しに応じて、ノコノコとこの場に現れたとしよう。そしてルナが私に突き落とされたとウソを吐いて騒ぎ立てたとしよう。
でもルナは制服の下には予めスクール水着を着てる訳だ。誰かに指摘されたら、一体これをどう説明するつもりだったんだろう? もしかしたらルナは異次元の生物なのかも知れない。私達の常識は通用しないのかも知れない。
そんなことを考えながら、ルナがカルロに対してどんな言い訳をするのか、興味津々で私は二人に注目した。
「なんでって...君がここに呼び出したんじゃないか?」
「えっ!? あ、あぁ、そうね...ほ、ほらアレよ! カルロに新しい健康法を教えてあげようと思って! 名付けて『着衣水泳』よ!」
「...斬新だね...風邪引かないように...」
プププッ! もうダメだ! お腹が捩れそう! そりゃカルロも心配するわ! 今、真冬だもん!
私は声を立てないよう必死になって笑いを堪えていた。
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