冷蔵庫、冷凍庫には棚などを初期配備していません

「そうなの?」


「食べてみて、違い、何か、感じませんでした?」


「何も」


「・・・。

 南蛮に使っているのは『モモ肉』、足のあたりの肉です。

 唐揚げに使っているのも『モモ肉』です。

 しかし、今回のグリルには、『ムネ肉』を使っています。

 胸のあたりの肉です」


「はあ」


「『モモ肉』は脂肪分が多くて、ジューシーなお肉です。

 『ムネ肉』は比較すると淡白で、悪く言うとパサパサ感があります」


「『モモ肉』の方が良くない」


「なので、『モモ肉』から使い始めました。

 それ故に、『ムネ肉』は大量に残っています」


「在庫処理なのね」


「その表現は過激すぎです。

 『ムネ肉』はタンパク質が豊富です。

 そして、淡白、脂肪分が少ないということは、『ヘルシー』ということです。

 健康志向のお客さんには、受けると思います」


「なるほど」


「がーーーーーーー、しかし」


「?」


「こんな時代に、『健康志向の人間』というモノが、存在しているとは、俺は思えません。

 特に、うちの最重要顧客は『冒険者』です。

 やっぱりみんな、ジューシーなお肉、食べたいと思います。

 なので、これはチャレンジなんです。

 そして、それ故に・・・」


「150Gも、値段を下げたのね」


「多少パサパサ感があっても、150Gも差があれば、まあいっかって思う人もいる、かもしれませんし。

 それに、トマトの味を、より深く味わってもらえる、という考えもあります。

 また、しっかり塩胡椒で味は付けますので、味が薄いということにはなりません」


「よく、喋るわね」


「ほんとは、ミエルさんにも、これくらい喋って欲しいです。

 味の感想に関して」





*****






 営業は明日から開始することにしました。

 今14:00?、くらいかと思います。

 日が暮れるまで、まだ時間はあります。

 レッドドラゴンレザーソファーに座って、コーヒーを飲みながら。

 『この時間を何に使おう』、と思案します。

 その視線の先には、何も乗っていない、ラダーシェルフが、座していたのでした。


「ラダーシェルフに乗せるアイテムを探そう!」






*****






 俺がやってきたのは、パレル近郊の森。

 喫茶店も、森の入り口に移動させています。

 かるった手提げ袋の中には、スコップ。

 そう、狙うのは・・・。


「木!」


 観葉植物です。

 今回の採取にはテーマがあります。

 それは、


「質より量」


 目標は、ラダーシェルフを、全て埋めること。

 もはや、なんでもありです。

 極論を言えば、枯れ木や、石でも構いません。

 こうも表現できます。


「ラダーシェルフを、森にする」


 俺は、きたるべきこの日のために。

 最初にジェルソンに滞在した1ヶ月の間に。

 大量の、『木製植木鉢』を作成していました。

 『焼き物の植木鉢』もハミルトンに売っていましたが、意外とコレが高かったのです。

 そう、あの1ヶ月の滞在の間にも、将来の喫茶店の姿を妄想し、未来を見越して動いていたのでした。


 ちょっと話はそれますが。

 ジェルソン1ヶ月の滞在で、俺が他に作っていたものがあります。

 では、クエスチョン。

 一体、そのアイテムとは、何でしょうか?


 正解は、冷蔵庫、冷凍庫用の『スノコ』と『棚』と『箱』でした。

 『シンキングタイム、ないんかい!』、というツッコミがもらえれば、俺は本望です。






*****






 夕暮れまでには、目標『ラダーシェルフを森にする』は成し遂げられました。

 たった半日で。

 店内は一部、植物園のような状態に。

 この収集したアイテムを、出来るだけ具体的に列挙してみたいと思います:


・雫型の葉を持った小さい木(多数)

・サンスベリアみたいなヤツ

・アロエみたいなヤツ

・なんかのツタ

・枯れ木

・灰色の石

・白い石

・石材屋でタダでもらった割れたレンガ(複数)

・石材屋でオマケでもらったミニサイズのたる

・木材で作ったROOTという立体文字オブジェ

・ジェルソンでもらったヒビ割れた茶色の陶器

・ジェルソンで作った立方体の木材(複数個)

・写真立てのようなものに、レッドドラゴンレザーを打ち付けたオブジェ


 あまりにも適当に選別したので、統一感がありませんが。

 それはそれで、アリではないでしょうか。


「あなたは、どこへ向かいたいの?」


「最終的には、もう。

 この喫茶店自体を『森』にしたいと思っています」


「ごめん、何言ってるか、全くわかんない」


「残念ながら、『ガジュマル』はありませんでした」


「ごめん、何言ってるか、全くわかんない」

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