喫茶店の建物を一部分解して、素材を回収することはできません

 双子ちゃんが削ってくれるゴムサイコロは、本当に見事で。

 『各面が出る確率、ほぼ一致するんじゃね?』という感想をもたらすほどであった。

 ただ、角を落としただけでなく、その断面がなめらかな孤を描いている。

 俺は、緻密な指示は、出していない。

 自分で考え、結果として、最高のアウトプットを導くのである。


「タドルさん、お疲れ様です。

 タマエさんのところに行ってきました。

 今日中には完成するそうです」


 モリタさんが作業場に帰ってきた。

 あの硬いレザーを縫う作業は、かなり労がいるはずだが。

 ここは、タマエさんの裁縫スキルを信じよう。


「タマエさんとも話したのですが。

 『塗装』を先に済ますべきだと思います。

 明日、雨が降る可能性もありますし。

 天日干ししたほうが、塗料がうまく固まると思いますので」


「なるほど。

 たしかに」


「木材のバリ取り、面取り、ヤスリ掛けまで。

 全部完了してますよ〜」


「バッチリ、なのです!」


 双子、仕事、早すぎる。


「ゴムの粗カットは、俺が代わります。

 タドルさんは、塗装作業に行ってください」






*****






 木材の塗装のため、俺は作業場の裏に回った。

 そこには先客2人。

 大工のケントさんと、村長のジョナサンさんであった。

 村長さんは、塗料が入ったバケツを手にした状態で、事情の説明を開始する。


「この『塗料』は、村を訪れた、とある商人の方から購入しました。

 もともとはケントさん宛てに、工具を届けに来てくれたのですが。

 『面白いものが入荷できた』、と言って」


「もともとは、俺に『買わないか』と持ちかけてきたんだ。

 さて、問題だ。

 この後、俺は、何と言い返したか?

 わかるかい、若造」


「『高い』、ですね」


「正解だ!

 あいつ、こんなちっちゃなバケツに、5,000Gの値段をつけやがった。

 でもな、それが正当な値段なんだとさ。

 面白いとは思ったが、同時に、面白くないとも思ったさ。

 そこに、たまたま村長が通りかかったんだ」


「話を聞いて、これは、タドル様が喜ばれるのではないかと考え、念のため購入しておいたのです。

 塗料の話は、あなたが最初にジェルソンを訪れたときに、聞いていましたので」


「そんな貴重なもの。

 申し訳ないです。

 また今度、改めて、お礼をさせてください」


「喜んでいただけるのは、たいへん嬉しいです。

 しかし、これだけは言わせていただきたい。

 うまく塗装できる保証が、まだありません。

 この『塗料』とやらが、『不良品』である可能性もあります」


「こればっかりは、やってみないと、わからん。

 大工をやってきて、もう30年になるが。

 木材を着色するなんて話、聞いたことない」


 ケントさんは腕を組む。

 ここから、この『地域』には、まだ、『塗料・塗装』の文化がないことを理解できる。

 結局、ゴムのときと同じく。

 『合成樹脂は偉大』、という結論に行き着いたのだった。

 でも、ポイ捨てしたらダメだよ。


「この塗料は、何でできているんですか?」


「『樹液』、らしい。

 あと、俺が聞いているのは・・・」


 ここから、ケントさんが、塗料について聞いていた情報を教えてくれる:


・材料は樹液

・何の樹液かは企業秘密

・樹液は、採取時にはドロっとした黄飴色の液体だが、時間経過で固化する

・固化すると、自然と色がダークブラウンになる

・なので、この色限定の塗料であり、他の色は存在しない

・塗料を塗ると防水性がちょっとアップするが、完璧ではない

・固化したものを温めると再度液化するので、その状態で塗装する

・採取するのに、とても手間がかかり、採取可能量が少ないので高価


「こんなところだ」


「色は固定なのに、ほんとうに偶然、俺が好きな色になったんですね。

 村長さんが、色を選んだんじゃなく。

 この色しか存在しなかった」


「さようです」


 ソファー、つまりレザーが色付きなので、ウッドはその色を邪魔しない、落ち着いた色合いのものが適していたのだった。

 偶然に、偶然と偶然が重なった形。

 日頃から、天使に奉仕しているのが、よかったのかもしれません。

 知らんけど。

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