一部先住民族は貨幣価値を理解していないため、貨幣での物品購入はできません

「牛肉!牛肉!」


 その瞬間、家の扉の外で待機していた子供達、20人程度が一斉に歓喜した。

 遊び道具を奪われての悲観から、感情が180度回転。

 おそらく、『ゴムボールの代金で、いくらか美味しいものを食べさせてやる』、などと言って説得をしたのだろう。

 子供でもわかる、20,000Gの『重さ』。

 やはり、この村には、『貨幣価値』が正しく伝わっている、そう確信した。


「このボールに、それだけの価値があるのですか?」


 驚きを隠せない村長が、俺に質問してくる。


「正直、わかりません。

 しかし、きっと、将来的に重要な『資源』になってくると思います。

 例えば、村長さん。

 あなたは、こんなに『弾む』物体を、他で見たことはありますか?」


「ありません」


「『弾む』、ということは、『衝撃を吸収する』、ということです。

 そして、俺が作りたいのは・・・。

 『人間の体重がかかる』という衝撃を、心地ここちよくやわらげてくれる『イス』です。

 このために、どうしても『弾力』を持つ物体が欲しかった。

 しかし、まだ、このような『需要』は、世界にはあまり存在していません。

 まさに、これから。

 この『弾性材料』の使い道が、検討されていくのだと思われます」


「たしかに。

 このゴムで座布団を作ったら、気持ち良さそうですね。

 村の特産品に加えられないか、検討してみます」


「もしかすると、また近い将来、ゴムを購入させていただきたい。

 そんな機会があるかもしれません。

 それまでに、ある程度、『ゴム』を採取しておいていただけると、非常に助かります」


「なるほど。

 それも検討してみましょう」






*****






 村長さんとの話は終わり、村長宅の外に出ると。

 俺は、『罪人』から、『英雄』に格上げされていた。

 先ほどまで『へんなオジさん』と言われていたのに、今は『肉のお兄さん』と呼ばれている。

 

「モスト・マスキュラー!!」


 俺は、全身の筋肉を硬直させ。

 ゴムボールが詰まった重たい箱を、ガッチリホールドし。

 手を振ってくれる子供達を背にして。

 村を去ったのだった。






*****






 喫茶店内にボールが入った木箱を格納。

 砂浜に、俺がジェルソンで作った椅子を持ってきて、その椅子に座ってソシャゲをしている天使を急ぎ回収し。

 即、ジェルソンへ帰還。

 『せっかく南国にきたんだから、もう少し楽しめばいいじゃない』。

 などと言う天使には。

 『ソシャゲなら、どこでもできるでしょ』という、現代人がよく使いそうなフレーズを投げてあしらっておいた。


 作業場に戻ると、各位が作業成果物を見せてくれる。

 モリタさんは、加工済みの木材を。

 双子ちゃんは、お母さんが裁断したレザーを。

 それぞれ見せ、合否判定を求めてきた。


「最高の仕事です。

 助かります」


 一方、俺は、みんなに『ゴムボール』を見せる。

 言葉で説明するより、地面に投げつけた方が話が早い。


「うわーー!

 すごくはずむ!

 おもしろーーーい」


「これ、欲しい!」


 という、なんともかわいい双子ちゃんの反応に気を良くして、1玉づつプレゼントすることにした。

 一方のモリタさんは、不思議そうな顔が続いていたが、俺が、


「これを、きざんでレザーに詰めてクッションにします」


 と宣言すると、納得の表情に変わっていった。


「イノリちゃん、カナエちゃん、手伝って欲しいことがあるんだ」


「はい、なのです!」


「俺がこのゴムボールを1cm角のサイコロサイズにカットするから、2人はとがった角の部分を丸く削ってくれる?

 まん丸にしなくていい。

 角をカットするだけでいいから?」


「任せて!」


「モリタさんは、タマエさんに『このまま裁断と縫製の続きをお願いします』と伝えてください。

 あと、もし彼女を手伝えることがあれば、お願いします」


「了解した!」


 さあ、さあ。

 ゴールまで、レールは引かれた。

 あとは、みんなの力を借りて、カレントベストを目指す!

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