シェルターには害獣避け機能が搭載されていますが、雷の魔法を使えることが使用条件になっています

 依頼掲示板に向かった俺を待っていたのは、天使だった。

 『登録が終わるまで待っておくわ』という話だったはずだ。

 でも、たしかに、『どの場所で待っている』という話はしなかった。

 つまり、こういう解釈でよろしいのかしら?


「『登録が終わるまで、何かいい依頼がないか、掲示板を見ながら、待っているわ』、ということだったのですか?」


「その通りよ」


 この時点で、すでに俺は。

 嫌な予感が、していたのだった。


「で、『いい』依頼はありましたか?」


「あったわ」


「俺、今ランクEなんですけど。

 ランクEの冒険者に合った、『ちょうどいい』依頼はありましたか?」


「それは見ていないわ」


「ちなみに、ミエルさんのギルドランクは何ですか?」


「A」


「ランクAの冒険者に合った、『ちょうどいい』依頼はありましたか?」


「あったわ」


「ギャーーーーーーーーーーー!!!!」






*****






 俺の眼下には断崖絶壁。

 ハミルトンの北の森を抜けると、そこは広大な岩山地帯。

 生命というものを、おおよそ感じない。

 植物の緑はまったく存在せず、ただ岩、それが鋭角に突き出し。

 崖と谷を作り。

 その合間に存在する細い隙間を、縫うように。

 足を滑らせないように、確実に大地を踏みしめ。

 かつ、ミエルさんに引き離されないようなスピードで。

 ひたすら進む。

 その道中で、当然、遭遇するのは・・・


「また、ワイバーンですね」


 1周回ってローテンションになってしまった俺がボソリとつぶやいた。

 が、次の瞬間には落雷が直撃し。

 その緑色の機体は、谷へ墜落していった。


「道の上で倒してもらえると、肉を回収できるんですけどね」


「なら、自分で戦う?」


「いやです。

 無理です。

 死にます」


 ミエルさんは遠足のようなノリで、迫り来るワイバーンの軍勢を、いとも簡単に撃沈し、道を切り開いていた。

 これが、DランクやCランクのみで構成されるパーティーだった場合、一戦一戦が死闘になっていたはずだ。

 それにしても、この天使、ノリノリである。


 しかし、今回。

 ワイバーンさんには興味はないのである。

 それは、今回の依頼のターゲットが、もっと大物であるから。

 だと思われる。

 この時点で俺はまだ、依頼の内容を教えてもらっていなかったのでした。






*****






「よし、ここでいいわ!」


 死の谷を抜けると、そこは。

 周囲360度を見渡せる、見晴らしのいい極高地点であった。

 周囲360度を見渡せるということは、周囲360度の範囲に存在するモンスターから、視覚的に確認されうるということを意味しており。

 結論として、以下のような感想がこぼれ落ちた。


「あんた、頭おかしいの?」


「シェルターを出しなさい!」


「あんた、頭おかしいの?」


「今日はここに泊まるわよ!」


「あんた、頭おかしいの?」


「はやくしなさい。

 魔物が寄ってくるわよ。

 詳細はシェルターの中で話すから」






*****






「いわんこっちゃない」


 シェルターをオープンし、中に入った後。

 珍しもの見たさで寄ってきた、緑、茶、赤。

 色トリドリのワイバーンたちが、窓の外から内部を見つめていた。


「閉じ込められましたよ」


「閉じこもったのよ」


 時刻は夕刻。

 晩御飯となるテリヤキチキンサンドを食べ終わったのち。

 コーヒーを飲みながら、窓の外の色トリドリなるモノを眺めていた。

 なんか、紅葉もみじに見えてきた!

 紅葉もみじに見えてきた!


「ワイバーンはどうでもいいのよ。

 このシェルターには害獣避け機能が搭載されているから。

 その機能で、どうとでもなるわ」


「また、初耳の単語、出てきましたけど。

 その機能、本来、最初に聞かせてもらうべきモノではないんでしょうか」


「残念ながら、害獣避け機能は、雷の魔法が使える人じゃないと作動できないの。

 術者の雷の魔法を増幅して、シェルターの外周に放出する、という機能だから」


「じゃあ、なんで、そんな機能つけたんだよ!」


「将来性を考慮した設計よ」


「ふーん」


 コーヒーって、すごい。

 なんか、気持ち落ち着いてきた。

 ワイバーンに向けた恐怖も、ミエルさんに向けた憤怒ふんぬも。

 茶色い水に流してオシマイ。

 俺の人生もオシマイ。

 Yo!Yeah!

 井手◯っきょ!


 俺が脳内でお経ラップとなえ終わると。

 ヤットコサ、本格的な説明が開始されるのだった。


「面倒だから結論から投げるわね。

 『ドラゴンレインボー』、って、知ってる?」

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