初期提供する調味料は、単純なものに限られます

 さあ、次の試作を始めよう。

 作るのは、『テリヤキチキンサンド』。

 ハミルトンで購入したパンは、見た目コッペパン。

 ラララ、コッペパン。

 ラララララララララン、ラララン。


 なんとういうパンか、お店の人に聞いてみたのだが、『パン!』と言われた。

 なので、今後俺は勝手に、『コッペパン』と呼ぶことにする。

 このコッペパンを横にスライスして、間に具材を挟む。

 縦方向には3等分。

 これで、ちょうど1食分はあるだろう。

 現状、パンを焼く設備がないので、トーストはできない。

 このあたりは後日検討することとする。

 俺はここで方程式を立てる:


・テリヤキチキンサンド=パン+照り焼きチキン+マヨネーズ+レタス+パン


 照り焼きチキンの試作は完了している。

 最大の問題は、『マヨネーズ』だ。

 俺が記憶する、マヨネーズの製法は以下:


・マヨネーズ=卵黄+酢+油 


 今回、油は、ナタネ油を使用する。

 単に『混ぜれば完成』、ではなく、コツがあったはず。

 まずは、卵黄と酢と塩を混ぜる。

 ここに、油を投入するのだが、うまいこと混ぜないと、酢に含まれる水分と油が分離してしまう、はず。

 『乳化』という現象が、ナンタラカンタラで。

 と、前世でのドナタカが言っていた気がする。


 以上のように、言葉で説明はできるのだが、卵1個に対する、油と酢の分量がわからんのである。

 まあ、とにもかくにも、作ってあそぼ!

 ということで、油、投入!






*****






 3回目の試作で、なんとか及第点が出た。

 味、よし。

 技、よし。

 お土産にもどうぞ。

 

 ここで、1点補足。

 卵白が余るのである。

 この卵白は別途フライパンで焼いて、サンドイッチに挟むことにします。

 これで材料の無駄を回避できる。


<<カランカラン>>


 ここで、お客様。

 本日2組目のお客様。

 それは、女性だった。

 美女だった!


 1人は帯刀、黒い着物を羽織る、侍風の出で立ち。

 黒い長髪、和風美人、大和撫子。

 もう1人は、杖装備のプリースト、純白のローブをまとい。

 ブラウンの長い髪、洋風美人、エレガントおっとりおねぇさん。


 ドラゴンに遭遇したときとは、別種の緊張感が走る。

 絶対。

 絶対、常連にする!


 鋭い目つきの侍ガールさんが先頭を行き、2人掛けの椅子に座る。

 遅れて、タレ目のプリーストさんが相席へ。

 早く、注文を取らねば!


「いらっしゃいませ。

 大変申し訳ありませんが、当店現在、試験開業中でして。

 メニューの方が1品しかありません。

 その代わり、代金の方、安く提供しております。

 ぜひ、お試しください」


「わかったわ。

 で、そのメニューって、何?」


「テリヤキチキンサンドです」


「テリヤキ、って、何?」


「甘辛の醤油ダレでの味付けのことでございます」


「美味しそうじゃない。

 コーヒーは飲めないの?」


「はい、コーヒー、セットで提供させていただきます」


「で、いくらなの?」


 ここで、しばし放心。

 またもや、値決めを後回しにしていたのだ。

 唐揚げ定食は500Gだったから・・・。


「お一人、500G、で、いかがでしょう・・・」


「安くない?

 何か、逆に心配かも」


「まあまあ、頼んでみましょうよ。

 お腹空いてるしー」


「じゃあ、いいけど」


 鋭い声色の侍さんを、おっとりプリーストさんが中和する。

 なんか、いいコンビだなぁ、などと思ったのでした。






*****






 シェルター内の厨房に戻ってきた、俺。


「やべーーーー!

 『コーヒーできる』って、勢いで言っちゃったー」


 そう、コーヒーの試作がまだなのである。

 とにかく、まず先にサンドを提供して、時間を稼ごう。


 俺は解凍済みの鶏モモ肉を、速攻でぶつ切りにし。

 オリーブオイルと共にフライパンへ投入。

 その色がこんがり狐色なることを確認すると、作り置きしてビンに入れておいたテリヤキソースを回しかける。


「いい匂いやー。

 これは、たぶん、及第点、出るはず」


 火を止めたら、コッペパンを予定通りに切り、乗せていくのは、まずはレタス。

 いで、たっぷりマヨネーズ。

 ここで、作業は再びフライパンへ。

 別にとっておいた卵白で目玉なし目玉焼き、『白卵焼(仮)』を作り、パンへ乗せる。

 そこに、別のフライパンに入っているテリヤキチキンをドドンと投入し。

 最後にパンでふたをすれば・・・。





*****






「おまたせいたしました。

 テリヤキチキンサンドです」


「思ったより、ボリュームあるのね」


「これで500Gなら、安いわ。

 このタレが絡まったチキンが美味しそう」


「これ、本当にチキンなの?

 ジャイアントトードとかじゃないでしょうね。

 わたし両生類、嫌いなの」


「正真正銘、鳥類です」


「なら、いいけど」


 そして、緊張の一瞬。

 ナイフとフォークも用意していた。

 しかしプリーストさんは、豪快に手づかみでかぶりついた。


「うまうま、はふーーーん」


「おねぇさん?」


 へんな吐息を漏らしたお姉さんの咀嚼が完了するのを、ドキドキしながら待つ。

 

「とっても美味しいです」


「やった!」


 この時点で侍さんも、こちらはナイフとフォークを使って実食していた。


「グッド!」


 堅物なおねぇさんが、左手の親指と人差指で丸を作って、感想を表現してくれる。


「こんな料理、食べたことないわー。

 ひあわせー」


 口に肉を詰めた状態で、プリーストさんが感想をこぼす。

 白いローブが汚れないように気をつけてくださいね。

 ・・・。

 あまりに、お気に召したらしく、俺がほうけている間に、プリさんの皿は空になった。

 やばい。

 これだと、コーヒーの試作の時間がなくなってしまった。


「おかわり!」


 プリさんがお皿を天に掲げて、子供のような視線で催促してきた。

 まあ、材料はあるから、受注しても大丈夫だろう。


「かしこまりました。

 少々お待ちください」


 俺は、すぐに厨房に戻り、テキヤキサンドを作る。

 

 再び、席に戻ったとき、侍さんのお皿もまっさらになっていた。

 とりあえず、ここまでは順調。

 さあ、問題はコーヒーだ。

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