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 ハミルトンの町から東へ進む方面には、立派な街道が整備されている。

 ハミルトンの町から南へ進む方面には、草原を突っ切る、馬車1台幅程度の土色の道が続いている。

 ハミルトンは南方の港町パレルと、東方の王都ハーパーの中間に位置する、交易の中心地。


 俺は、南下を選択。

 ハミルトンの町近郊で商売をすると、税金のことなど色々言われそうだし。

 また、王都に近い方面も同様の理由で。

 かつ、街道からそれた場所に店を開いても、来客が見込める可能性はほぼ皆無。


 結論として、『南方の街道沿いに店舗を開く』、とした。






*****






 ハミルトンの町から徒歩1日と半分。

 宿場と宿場の間となる、この位置にて。


「喫茶店・オープン!」


 さあ、試作を始めよう。

 まずは、『白米』から。

 購入したお米を鍋へ流し込み。

 水を注いで、いで、水を注いで、いで。

 水を注いで、それにふたをして。

 1時間加熱して完成。

 ほかほかご飯は、若干のネッチョリ具合で炊き上がった。

 水、もう少し少なくていいな。

 

 次は唐揚げ。

 ハントした鶏のモモ肉ぶつ切り、醤油と生姜で下味。

 揉み込んでから、15分ほど寝かせて。

 小麦粉をまぶし、油を多目に引いたフライパンでカラっと。

 最後に塩胡椒をまぶして完成!


<<カランカラン>>


 喫茶店の扉のベルが鳴る。

 このタイミングでお客様、来店。

 赤い鎧の戦士さん、緑の服のアーチャーさん、青いローブの魔術師さん。

 堂々としたベテランの風格を保ちつつも、笑顔を見せてくれる。

 よかった。

 今度は盗賊じゃなさそう。


 俺は営業スマイル満点で、4人掛けのテーブルへ通した。


「メニュー表を見せてくれ」


「申し訳ありません。

 当店、本日新装開店でして。

 今は、『唐揚げ定食』しか、ご用意できません。

 ただ、味は保証付きでございます」


「じゃあ、それでいい。

 3人前、準備してくれ」


「かしこまりました」


 ジェルソンの村で物々交換していた食器類を3人分引っ張り出し。

 まず、キャベツの千切りを皿に乗せ。

 さらに、揚げたて熱々の唐揚げを乗せ。

 茶碗には、炊きたてご飯。

 コップに美味しい水道水。


 理想的には、『味噌汁』も欲しかった。

 しかし、ハミルトンの街には『味噌』が売っていなかったのである。

 発酵食品の入手は、かなり苦労しそう、という印象を受けた。


「おまたせいたしました。

 唐揚げ定食3人前でございます」


「おい!

 出てくるの、早すぎるんじゃないか?

 作り置きか?」


「たまたま、今、揚がったところだったんです。

 熱々です」


 食欲をそそる香ばしい香り、こんがりキツネ色が、男たちを黙らせる。

 ハシが唐揚げにのび、そのまま、ゆっくりと口へ。

 緊張の一瞬。


「うまい!」


「い、やったぁ!」


 異世界生活2度目のガッツポーズ。

 やっぱり、唐揚げは、偉大。


「ライスは、少しやわいな。

 でも、肉はうまいぞ。

 味付けがいい」


 ここで、声を大にして伝えたい。


「ジェルソン特産の生姜が、最高に効いてます」


 この唐揚げの下味には、これでもかというくらいの生姜のすりおろしが投入されている。

 あまりにも、生姜の在庫が多いものだから、いっぱい使っちゃった。

 生姜が嫌いでない人間には、かなりの『パンチ』を味わわせることができるであろう。

 ジェルソンのみんな、ありがとう!


 そのあとは、会話なく。

 ただひたすらに、肉、飯、肉、飯の繰り返し。

 それに『キャベツ』がたまに挟まる程度の戦況。

 ほんとうに、気持ちいいくらいに。

 とてつもないスピードで皿の上がマッサラになった。


「ごちそうさん」


「うまかったぜ」


「めし、うま・・・」


 お気に召していただけたようだ。

 これでやっと、メニュー表の最上段を埋めることができる。


「で、いくらだ?

 ボッタクリだったら、この剣を振るうことになるぞ」


 あ・・・。

 完全に、『値付け』のことを忘れていた。

 原価0円の鶏肉に、いくらの値を付けて良いのやら。

 完全に思考が停止する。


「500G、で、って、言ったら、怒ります?」


「安すぎるだろ!」


「今回は、お試し価格ということで。

 嬉しい評価もいただけましたので」


 『値決め』って、本当に、難しい。


「逆に、いくら程度の値が付くと思われました?」


「1,000G程度かな?

 料理の内容は単純だが、ここまで食材を運ぶ手間賃を考えれば。

 もっと値がしても、おかしくはない」


「ライスがやわっこすぎなければ、それくらい払えるな」


「キャベツも、結構、高い、はず」


 魔術師さんが添え物のキャベツにも言及してくれて。

 ちょっと嬉しかった。

 本来、こんな場所で、新鮮な野菜が食べれることが異質なのである。


 そして、初の売り上げ。

 1,500Gを頂戴した。


「ごっそさん。

 また来るぜ」


「宣伝、よろしくお願いします。

 なんて、言ってみます」


「任せろ!」


 赤鎧さんが力強い返答をくれる。

 こうして、本当の意味での『初来店客』というイベントを、無事に乗り切った俺なのであった。

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