フライパン2つと鍋1つを初期配備しています

 厨房に戻ってきた俺。

 俺は今から、コーヒーと格闘する。


 実は、コーヒーの試作は未達であるが、試作準備は済ませてある。

 まず、コーヒー豆をく方法。

 まだ、この時代に、『コーヒーミル』というものは存在しない、と思われる。

 ハミルトンの町を駆け巡ったが、出会うことはできなかった。

 そこで代替品として、『すり鉢』と『すりこぎ棒』を購入している。

 しかし、かかる時間と労力は、コーヒーミルで『きたて〜』とか呑気に歌いながらいていたときとは比較にならないだろう。

 そして、俺はまだ、コーヒー豆をいていない。

 気合いで、なんとかするしかない。






*****






 ここからは単調な作業が続きますので、皆さまは美しい侍女子とプリーストさんの映像をお楽しみください






*****






 き終わった。

 美女2人のために、可能な限り高速で。

 すりこぎ棒を右手、左手と持ち替えながら。

 おかげで、両腕がパンパンの状態である。


 いている途中に、『これ、ダメだ』と観念し、事情を正直にお客様2人に白状した。

 2人とも事情を飲み込んでくれ、『ゆっくりおしゃべりでもしながら待つわ』と言ってくれた。

 同時に、『このお店、家具とか、シンプルなわりに、かわいいし』と内装を褒めてくれたのが嬉しかった。


 さて、コーヒー豆の粉砕が完了。

 ここから、抽出の作業に入る。

 まだ、この時代に、『ペーパードリップ』というものは存在しない、と思われる。

 ハミルトンの町を駆け巡る必要もなく、そんなものは存在しないと判断した。


 そこで、『布』を用いようと、俺は考えた。

 前世では、『ネルドリップ』という言葉を聞いたことがあるが、ほんとに聞いたことがある程度で、詳細は知らない。

 『ネルドリップ』で用いる布の素材がわからないのである。

 今回も、とりあえず、『つくってワクワク!』。

 ということで、綿コットンの布をハミルトンで購入してきた。

 同時に、ジェルソンの村で家具を作ったときに出た木材のきれっぱし。

 これを、地図記号の『消防署』みたいな形状に組み合わせ。

 そこに布をかぶせ、糸で縫い合わせ。

 ちょうど魚をすくう『タモ』のようなアイテムを生成した。

 『タモさん、試作品第一号』の完成である。


 このタモさんは、事前に準備済み。

 俺は、タモさんに粉砕した豆を投入。

 鍋で沸かしたお湯を、ゆっくりと投入。

 したいのだが、鍋だと、ゆっくり投入するの難しい。

 ケトル欲しい!




 ・・・




 途中、手が滑って、お湯を一気に大量投入したりしながら、なんとか抽出は完了した。

 さあ、お客様へ提供しよう。






*****






「ちょっと薄いわね」


 侍さんから、厳しいコメントをいただいた。

 俺も試飲したのだが、たしかに彼女のおっしゃる通りだと思う。

 豆の量や、粉砕具合の問題と判断。

 納得のいかないものを提供することに、腹立たしさと申し訳なさを感じる。


「わたしは、これくらいでも大丈夫よ」


 プリさんが、やさしい言葉をかけてくれる。

 ほんと、この人、いい人や。


「でも、サンドとセットで500Gなら、これ以上、文句は言わないわ。

 すごく美味しかったから、次回までに、コーヒーのいれ方を研究しておいてちょうだい」


「がんばります」


「まあ、次回があるかは、わかりませんけど」


 にっこり笑顔のプリさんが、突然、辛辣しんらつなことを言い出した。

 が、そこには正当な事情が存在していたのである。


「私たち、この大陸を離れるのよ。

 ここから南の港町パレルに行って、そこから船で南の大陸に渡るの。

 いつかは、この大陸に戻ってくるかもしれないけど、それは相当先の話なのよ」


「なるほど。

 常連客、ゲットならずで、残念です」


「2号店は、南の大陸に出しなさい。

 なーんてね」


 侍おねぇさんの鋭い瞳が緩む。

 『なーんてね』とは言われたが、まさか『1号店』を大陸をまたいで開店可能だとは、さすがに思ってはいないだろう。


 薄いコーヒーはすぐに飲み干され、別れのときが訪れる。

 次回会うときまでに、成長しなければ。

 イロイロと。


「さようなら、また会いましょう」


「メニューも増やしておいてね」


「ご来店、ありがとうございました。

 お元気で!」

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