シェルターのドアはオートロックです

かしら、ダメです。

 この扉、ウンともスンとも言わねぇ」


 異世界転生2日目。

 俺は盗賊に取り囲まれていた。

 その数、7人。

 しかしシェルターの扉はオートロック式らしく、俺が内部に逃げ込んだあと、完全封鎖状態となった。

 その盗賊のかしらだと思われる男が、馬に乗ったまま窓から内部をのぞき込む。

 俺は、死角となる位置に、体育座りで座り込んで、とにかく、祈っていた。


「頼むから、諦めてー」


 が、しかし。

 この盗賊、とってもネチッコかった。


「この箱の前に人間が居たのを、俺は確実に見た。

 しかも、この箱。

 こんな奇妙な箱、見たことねぇ。

 絶対に、珍品をたんまり溜め込んでやがるに違いねぇ」


「狼の肉しかないんだよー」


「おい!

 出てこい!

 今出てくれば、命だけは勘弁してやる」


 そして、ここから。

 我慢比べが始まった。






*****






 何度も何度も、窓を叩き割ろうとする盗賊子分。

 しかし、強化窓はたいへん優秀であり。

 ついに、窓を叩く音が消えた。


 そこから、10分ほどの無音。


「た、助かったー」


 時は、おそらく正午を過ぎ、2時か3時程度。

 朝ごはんも食べられず、お腹がすいてきた頃合い。

 獣臭い肉ですら愛おしい。

 そんな思考で、冷凍庫へ向かおうと、体を持ち上げた、その時。


「やっぱり、いましたぜ!」


「おい、こら。

 出てきやがれ、野郎。

 お前が出てくるまで、絶対にこの場所から離れないからな」


「まだいたー」


 恐怖を通り越しての落胆。

 何でこんなに執着すんの?

 忍耐が信条なの?

 観念した俺は、盗賊と向かい合う。

 わずかに開けた、窓越しに。


「この箱は、絶対に破れませんので、諦めてください。

 食料も水も無限にありますので。

 いつまでも籠城できます」


「そんなわけねぇだろ!

 バカかお前は」


 まあ、たしかに、そりゃそうだよね。

 水は無限だが、食料はハッタリ。

 それに、食料が無限にあるとか言ったら、逆に珍しがられちゃうしなぁ。

 嘘を付くのって、難しい。


 ここで考察。

 昨日、狼相手に使った『聖域の◯物作戦』は、猪突猛進な相手にこそ有効なモノ。

 知能で優れる人間相手には通用しないだろう。

 もう、ここは、本当に我慢比べしかないか。

 本当に、そうか。

 その結論は。

 昼飯を食べてから考えよう。






*****






 今日は醤油味〜。

 ワサビが欲しいと思いました。

 食後に水を直飲みしたのち、改めて窓の外を見る。

 子分肌の1人の盗賊が窓に張り付いていて、残りの6人は草原に腰を下ろして休んでいる。

 数人は水を飲んだり、パンを食べたりしている。

 本気で、向こうも、我慢比べ、決め込むようである。


 物資、食料の観点から言えば、完全に俺有利である。

 しかし、問題は、盗賊たちにこの地点を記憶され、援軍を呼ばれることである。

 交代交代に監視をされてしまうと、狼肉の備蓄も切れてしまう。


 そこで、俺は。

 遅めの昼食を食べながら考えた作戦を決行することにした。


 まず冷凍庫へ移動。

 そこから、凍った狼の内臓一式を回収。

 それを水で簡単に解凍したのち、包丁でブツ切りにする。

 そのグロテスクな肉塊を。

 盗賊子分がほうけている間に。

 窓を素早く開けて。

 そこから天空に向けて、拡散で、ぶちまけた。

 そしてすぐに窓クローズ。


「うわっ!

 なんじゃこりゃ」


 盗賊は、毒物でも投擲とうてきされたのではと考えたのか、一時ひるんでいた。

 が、それが動物の内臓であることを、ゆっくりと確認すると。

 ヘラヘラと笑い出した。


 ただ、1人を除いて。


「お前ら、撤退するぞ!」


「おかしら、どうしてですか?」


「この肉塊の血の匂いに釣られて、魔獣が集結する可能性がある。

 ポイントだけ記憶して、一旦、ここから離れるぞ。

 後日、再襲撃する」


 ここで、補足。

 この盗賊の会話は小声で行われているが、このシェルターは内から外へは完全防音であり、逆に外から内へは完全に音を拾うという、謎のテクノロジーが採用されている。

 故に、盗賊たちは、俺が全会話の内容を把握しているとは思っていない。


 そして。

 『このシェルターが移動式である』、なんてこと、夢にも思っていないのである。


 そしてついに、盗賊たちが北方へ向けて帰っていった。

 おそらく、その方向にアジトがあるのだろう。


「助かったー」


 水をカブのみして、恐怖と興奮をまぎらわせる。

 窓を開けた瞬間に手を突っ込まれていたら危なかった。

 子分が面倒くさがりさんでよかった。


 あらためて、窓の外を見つめる。

 盗賊は全員、7人全員、確実に去っていった。

 それは目視確認した。

 周囲に敵とみなせる存在は確認できない。

 左も右も。

 下も。

 上・・・。


「上からくるぞ!

 気をつけろ!」


 俺の中の、謎の危機検知機能が作動。

 上空から高速で滑空してくる。

 それは・・・。


「巨大鶏だーーー!!」

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