倒した敵の肉の特性を分析できます

 窓の外には、狼の大口が存在した。

 牙は、前世で見た(図鑑だけど)狼よりもさらに鋭く。

 なにより、なにより。

 目がイっちゃってる。

 イっちゃってる!


 しかし、シェルターがある限り、無敵。

 嵐はきっと、いつか通り過ぎる、通り過ぎるはず。


 が。


 ここで気づく。

 これ、窓、カチ割られるんじゃない。

 ここだけ装甲薄いじゃん。

 だれだよ、窓つけたの。

 あの天使か!

 悪魔か!


 狼は今にも、窓に飛びかからんとしている。

 というか!

 跳んだ!!


 狼が窓に向かって跳躍。

 そして狼は。

 窓に激突し、顔を打ち付け、ヨダレを振りまいた。

 そして、地面に崩れ落ちる。


 窓にはヒビの1つも存在しない。

 が、ヨダレがべったり付いている。

 汚い。


「強化ガラスかよ」


 詳細不明だが、この窓もシェルターと呼んで遜色ない素材が使われているようだ。

 これで、ホッと、ひと安心。

 ああ。

 コーヒー飲みたい。

 豆がないけど。


 水で、いいや。

 俺は簡易キッチンの水道の蛇口を回す。

 出てきたのは無色透明な水。

 首を90度傾けて、ソイツを吸い込むと。

 危機状態であった精神が、徐々に落ち着きを取り戻していくのを感じた。


 よし、美味しい水。

 はやくコップが欲しい。

 コーヒー豆も。

 食料も。


 だから。


 頼むから。

 早く去っていってくれ、狼よ。

 頼むから。


 祈りを込めて。

 見つめた窓の先。


「増えとるがな!!」


 窓の外には、狼、狼、狼、狼、狼、狼、狼、狼、狼、狼。

 狼、狼、狼、狼、狼、狼、狼。

 頭数を数え上げるのも難しいくらい。

 群れてる。

 そして飢えてる。

 全頭、イっちゃった目、口からはヨダレを垂らし。

 シェルターの周囲を取り囲んでいた。


「おわた」


 詰みました。

 つまり、物資なしでの籠城。

 食料なしでの籠城。

 シェルターの外に存在するのは『死』。


 ・・・


 冷凍庫で生きたまま冷凍保存とかできないのかしら。

 などという、狂った冗談が生まれた。

 とりあえず、また水飲もう。


 水を口に注ぎながら考える。

 水はある。

 あとは食料だけ。

 どこかに、食料はないか。

 食料は。







 ・・・







 俺は、窓の外を見つめる。


 ・・・


 コイツら。

 食えんのかな?


 俺は窓を、ちょこん、と開け。

 時を待った。


 そして1匹の狼が、窓目掛けて突進してくる。

 そのタイミング。


「今だ!」


 俺は窓の隙間から、手持ちの包丁を突き出す。

 クリーンヒット。

 包丁の先端が、狼の脳天に突き刺さる。

 この瞬間、考察が生まれる。

 普通の包丁なら、こんなに簡単に魔獣に突き刺さらない。

 これが、『攻撃力120』の威力なのだと。


 包丁を持っていかれないように、すぐに引き抜くと、狼は地面へと吸い込まれた。


「これで、勝てる」


 いやらしい笑みを浮かべながらの勝利宣言。

 相手は知能が低いらしく、1体が死亡しても、ひるむ様子は見せない。

 次の1体が突進してくるのを知覚。

 すぐさま、俺は、包丁を構える。


<<ズブッ!>>


 再び脳天直撃。

 崩れ落ちる敵。


 レベル1の俺の攻撃力でも、この包丁があれば、必殺。

 レベル1の俺の防御力でも、このシェルターがあれば、無敵。


 そう。

 これならば、シェルターこもって30年、気がついたらナンタラカンタラになってました、みたいな戦略も可能となるのだ!


「名付けて、『聖域の◯物、作戦』!」






*****






屍累々しかばねるいるい


 俺はようやく、シェルター外の空気を吸うことができた。

 それは、夕日が沈むほどまでかかった。


 しかし、その全てが一撃で済んだことから考えて、やはりこの包丁の攻撃力は、相当なものであること。

 その考えに自信を持つことができた。


 俺は、狼の死体を1列に並べていった。

 その数、なんと20匹。

 普通の人間ならば、死んでいた。

 例えば、『白い玉』を引いていた人間ならば。


「この世界、厳しすぎませんかね」


 さて、日が完全に暮れる前に、やっておきたいことがある。

 それは、


「解★体」






*****






 ここから多少グロテスクな内容を含みますので、皆さまは美しい花の映像をお楽しみください






*****






 ほんとうに、この包丁の切れ味は凄かった。

 戦闘装備のみならず、料理道具としても一級品。

 おかげで、筋肉痛にならずに全解体を完了することができた。


 まず、皮をぎ。

 大雑把に部位ごとに分解。

 水道で血を洗い流したのち、冷凍庫へ。

 これを20回繰り返す。


 その途中で、天の声が聞こえた。


・肉質:無毒、味★★、獣臭中、補助効果なし


 これも、おまけ特典。

 なんと、解体する肉の情報を教えてくれるのである。

 ここで一番嬉しいのは『毒判定』。

 『敵を倒して、食べたら死んだ』という事故をふせぐことができる。

 しかも、味の採点までしてくれる。

 これ、だれが判定してんの?

 天使さん?

 異世界にもミ◯ュラン的なものがあるの?


 『味★★』が、優、良、可、不可、死のどれに当たるかは不明だが。

 『獣臭中』の判定からすると、あまり期待できないように思う。


 さて、ここで早速料理を。

 と、いきたい気持ちを抑え。

 俺はシェルターを収納して、夜道を北西へと向かった。

 『狼の血の匂いをぎつけて、魔物がやってくるかもしれない』、と考えたからだ。

 進路を北西に決めたのは、狼が南西から来たからである。

 南西に魔物の住む地域がある可能性もある。


 天を見上げれば満天の星。


 『この星空の先に、天使さんが住んでるのかな?』


 そんなメルヘンティックな考えが浮かんだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る